(5)Not otherwise classified:分類不能

1 )子宮内膜炎

ポイント

  • 子宮内膜炎は急性子宮内膜炎と慢性子宮内膜炎に分類され,いずれもAUB の原因となり得る.
  • 診断は子宮鏡検査,子宮内膜生検,子宮内腔の細菌学的検査により行い,抗菌により治療する.

 

  • AUB の非器質性要因(COEIN)の中で,「凝固異常(Coagulopathy)」「排卵障害(Ovulatory dysfunction)」「子宮内膜機能異常(Endometrial)」「医原性(Iatrogenic)」のいずれにも分類できない「その他(Not otherwise classified)」,すなわちAUB-N に分類される病態の1つとして子宮内膜炎は位置付けられる.
  • 子宮内膜炎は急性子宮内膜炎と慢性子宮内膜炎に分類され,いずれもAUB の原因となり得るが,前者はむしろ腹痛や発熱を主訴として来院するケースが多い.後者は対照的に明確な症状を呈さないことがほとんどであり,原因不明のAUB の鑑別の際には特に留意が必要である.
  • 子宮内膜炎の診断と治療のフローチャートを図27 に示す.

① 診断

a.急性子宮内膜炎

  • 骨盤内炎症性疾患(PID)の一病態と捉えられ,下腹部痛や双手診による子宮の圧痛を呈するほか,38 度以上の体温上昇や白血球・CRP の上昇などが診断の手掛かりとなる.

b.慢性子宮内膜炎

  • 一般的に腹痛や発熱といった症状を呈さないため診断に苦慮するケースが多いが,近年,体外受精胚移植における反復着床不全の病態にかかわっている可能性が示唆されており,注目されつつある疾患概念である.病原菌として腸球菌,大腸菌,レンサ球菌の他に,マイコプラズマ,ウレアプラズマ,クラミジアなども原因となり得る.

② 慢性子宮内膜炎の検査

a.子宮鏡検査

子宮鏡検査により下記の所見を認めた場合は,慢性子宮内膜炎を強く疑う.

  • マイクロポリープ(血管を伴わない1㎜未満の多発する隆起)
  • 局所的うっ血(狭い範囲の内膜のうっ血・発赤)
  • 点状出血
  • 苺状発赤(赤色内膜の中に白い斑点を認める)
  • 間質浮腫(増殖期における内膜の浮腫様所見)

b.子宮内膜生検

  • 子宮内膜組織を部分的に採取し,免疫組織染色でCD138 陽性細胞すなわち形質細胞の有無を評価することが診断の一助となり得る.ただし,具体的な評価基準については今後も議論が必要と考えられる.さらに,盲目的な検査であることから偽陰性を考慮する必要がある.

c.細菌学的検査

  • 子宮内腔の細菌学的検査も診断の手掛かりとなるが,菌量が少なく偽陰性となる可能性がある.また,クラミジアやマイコプラズマが起炎菌であった場合も培養による診断は困難である.

③ 治療

a.急性子宮内膜炎

  • PID の治療に準じて,セフェム系,ニューキノロン系,アジスロマイシンなどの抗菌薬を内服あるいは点滴静注で投与する.

b.慢性子宮内膜炎

  • 診断に苦慮するケースもあるため,積極的に本疾患を疑う所見を認め,かつ明らかな臨床症状を呈する場合には抗菌薬治療を考慮する.
  • 例として,初回治療としてドキシサイクリンを初日200㎎(100㎎ 2錠を1回もしくは2回に分けて内服)で投与し,2日目以降から14 日目まで100㎎を1日1回,1回1錠で内服投与する.大多数の症例は初回治療で寛解するとされているが,非奏効例に対してはセカンドラインとしてシプロフロキサシンやアモキシシリン/ クラブラン酸などの使用も考慮される.

2 )帝王切開瘢痕症候群

ポイント

  • 帝王切開瘢痕症候群によるAUB は,月経終了に続き,あるいは数日おいて黒褐色で粘調性をもつ出血が排卵期まで持続することが特徴的である.
  • 排卵前の超音波検査や子宮鏡検査で診断する.
  • LEP やジエノゲストによる保存的治療や手術治療を行う.

①帝王切開瘢痕症候群(CSS:cesarean scar syndrome)によるAUB の原因

  • CSS は帝王切開創子宮瘢痕部を原因とする続発性不妊症・過長月経・月経困難症であり,帝王切開後に新たに症状が出現した場合はCSS を疑う
  • 1995 年に病理学者のMorris は,帝王切開既往者でAUB と月経困難症がある患者では子宮創部に異常肉芽や炎症があることを報告した1).当初は,子宮創部に陥凹を認めることが多いことから,AUB の原因は月経血が陥凹部にトラップされて少量ずつ排出されると考えられてきたが,その後の報告で,瘢痕部そのものから出血する可能性が示唆された2).また,無排卵周期では出血せず,卵巣刺激周期では出血を認めた.さらに,陥凹部に貯留した血液を吸引除去しても翌日には貯留していた.そして,その後外来子宮鏡検査で瘢痕部の腺開口部から出血することを確認できた3).
  • このように,CSS は近年になって注目され始めた疾患であり,その原因や予防,治療についてはまだコンセンサスが得られてはいないものの,現時点での知見に基づき,病態,症状,治療法を記載する.

② AUB の特徴

  • 通常の月経終了に続き,あるいは数日おいて黒褐色で粘調性をもつ出血が少量持続する.出血は排卵期に止まることが特徴的である.そのため詳しい問診だけでほぼ診断が可能である.

③ CSS と子宮内膜症

  • 手術で摘出した瘢痕部の深部に内膜腺を25%程度に認めたことから,希少部位子宮内膜症あるいは囊胞性腺筋症様の病態が推測された2).このことは排卵による黄体ホルモンの上昇が止血に寄与することが示唆される.また,CSS による不妊に対し腹腔鏡手術を実施した症例の90%以上に骨盤子宮内膜症を認めた.

④ CSS の診断

  • 帝王切開既往者で,月経後に排卵まで上記のような少量の黒褐色の出血が持続していれば,CSS である可能性が非常に高い.
  • 超音波検査では陥凹した子宮創部に低吸収域の液体貯留を認める(図28).ただし,この貯留液は頸管粘液などの漿液性の場合もあり,細いチューブで吸引するか子宮鏡で血液であることを確認する.
  • この血液貯留が子宮内腔にある場合は不妊症の原因と考えている.子宮鏡では子宮瘢痕部に樹枝状の新生血管を認め慢性炎症の関与を疑わせる(図28).
  • 出血はホルモンに依存していると推測され,黄体期にはこの血液貯留の多くは消失する.そのため超音波検査による診断の適正な時期は排卵直前である.黄体期に超音波検査をしても正常に見える場合があるので,検査施行時期に注意する必要がある.

⑤ CSS の治療

a.挙児希望のない場合

  • 経験上,AUB の原因がCSS であると自身のAUB の原因が判明すると治療を希望しない方も多いが,月の半分以上続くような不快な出血や月経困難症に対し治療を希望される場合には,低容量エストロゲン・プロゲステロン配合薬(LEP)やジエノゲストを投与する4).自験例では80%以上で有効性が期待できる.これは,排卵の抑制や黄体ホルモンによる内膜腺の退縮が機序として考えられている.
  • レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)も3例に使用し有効であった.1例で子宮体部から陥凹した瘢痕部に滑落してきたが,効果に問題はなかった.
  • 薬剤の効果を認めず,本人の希望がある場合には,子宮摘出術も考慮する(図29).

b.挙児希望のある場合

  • CSS で認める出血は,通常の月経後に排出され過長月経となり,排卵期に子宮底部へと向かう子宮蠕動により子宮内腔への血液が逆流し,不妊症の原因となり得る.
  • 手術治療としては,子宮創部を子宮鏡単独で切除・凝固,または腹腔鏡下に切除し再縫合する.出血の原因である瘢痕部を除去することで60%程度の妊娠率が期待できる2).手術方法は子宮残存筋層の厚みと子宮の屈位で決めている(図29).

⑥手術の課題

  • CSS は帝王切開子宮創部を原因とするため,当初は子宮前壁から側壁の陥凹部にのみ病変があると考えてきた.しかし,後壁からも異常出血を来している例が存在することが分かってきた.病因が子宮内膜症あるいは腺筋症に類似したものだとすれば,経過とともに周囲に病変が進行することもあり得る.そこで,子宮鏡下修復術の際には子宮後壁へも同時に切除・凝固を加えるようにしている.ただし,腺筋症様病変であるなら正常筋層との境界は不明瞭で切除ラインを明確に定めることが困難であり,今後の課題である.

⑦おわりに

  • 月経後から排卵まで続くAUB は特徴的であり,問診で多くは診断できる.
  • 排卵前の超音波検査が有効で,吸引などで血液であることを確認する.LEP やジエノゲストは保存的治療として有効であり,不妊には手術治療が期待できる.

 

文献

1) Morris H.Surgical pathology of the lower uterine segment caesarean section scar: is the scar a source of clinical symptoms?.Int J Gynecol Pathol.14:16-20,1995
2) Tanimura S,et al.New diagnostic criteria and operative strategy for cesarean scar syndrome: Endoscopic repair for secondary infertility caused by cesarean scar defect. J Obstet Gynaecol Res.41: 1363-1369,2015
3) Tanimura S,et al.Hemorrhage From a Cesarean Scar Is a Cause of Cesarean Scar Syndrome. J Minim Invasive Gynecol.24:340-341,2016
4) 谷村悟,他.帝王切開瘢痕症候群の月経異常に対する保存的対応 LEP/OC・ジエノゲストの使用経験.産婦人科の実際.65:853-856,2016

 

3 )子宮動静脈奇形

ポイント

  • 子宮動静脈奇形は子宮内容除去術や帝王切開術,絨毛性疾患などによる子宮のtrauma の後に発生する後天性の頻度が高い
  • 若年女性の危機的な多量子宮出血を引き起こす可能性があり,AUB の鑑別上重要である.
  • 経腟超音波が診断に有用で,UAE による妊孕性温存治療が可能である.

①臨床像

  • 子宮動静脈奇形(uAVM:uterine arteriovenous malformation)は血管床を介さずに子宮筋層内で動脈と静脈が異常短絡する血管構造異常であり,20~40 歳に好発する1).動静脈間の大きな圧勾配により,短絡血管に多量の血液が流入し,拡張した血管の塊(nidus)を形成するが,nidus を形成しない場合もある.
  • uAVM は発症要因から先天性と後天性に分類され,子宮内容除去術や帝王切開術,絨毛性疾患などによる子宮のtrauma の後に発生する後天性の頻度が高い2).
  • 一般的な症状は過多月経や骨盤痛だが,無症状で偶発的に見出される場合も多い.病的血管の破綻による急性出血では,生命に危機的な多量子宮出血となる場合が多く,約50%の症例で輸血が必要となり,29%の症例で子宮全摘術を要したと報告されており,注意を要する3).またuAVM は妊娠により増大することが多く,妊娠に関連した危機的出血の原因にもなり得る.

②診断

  • 問診では子宮手術歴や絨毛性疾患歴の聴取が重要である.
  • 診断は画像検査で行われ,Color/Pulse-Doppler 法を用いた経腟超音波検査(TVS:transvaginal ultrasonography)が特に重要である.
  • uAVM の診断・管理方針のフローチャートを図30 に示す.
  • TVS では,子宮壁の限局した領域にuAVM の病変血管に相当する迂曲した管状無エコー構造と,Pulse-Doppler 法で20㎝ / sec 以上の早い最大血流速度(PSV:peak systolic velocity)を示す4).このほか造影MRI 検査や造影CT 検査などが行われる.血管造影検査は,後述の動脈塞栓術治療を考える上で,流入血管の同定に役立つ1).侵入奇胎や卵管間質部妊娠などとの鑑別には,TVUS による妊娠成分の有無の確認やhCG 値の測定が有用である.

  • 図31 にuAVM の自験例を示す5).

③治療(図30)

  • 経過観察でのuAVM の自然消退例や,メチルエルゴメトリンやGnRH アゴニストなどの薬物療法の有効例が報告されており,破綻による多量出血のリスクが低い症例では検討する価値がある1).
  • 多量出血歴がある場合や,大きなnidus を伴う,PSV ≧ 60㎝ / sec 以上の場合には,病的血管破綻のリスクが高く,子宮全摘術や子宮動脈塞栓術(UAE:uterine artery embolization)が治療の選択肢として挙げられる2).また,uAVM は妊娠により増大や破綻のリスクが高まるため,妊娠前の治療が勧められ,UAE 後の妊娠では良好な結果が報告されている3).自験例5)は無症候であったもののnidus が大きく,挙児希望があったため,UAE の方針とした.流入血管が多く,治療に苦労したが,3度のUAE 後に病変の縮小を認め(図31F),その後に自然妊娠し,uAVM の再燃・破綻なく満期経腟分娩に至っている.

④まとめ

  • uAVM は稀であるが,若年女性の生命を脅かす危機的な多量子宮出血を引き起こす可能性があり,AUB の鑑別上重要である.診断ではColor/Pulse-Doppler 法を含めたTVS が有用であり,妊孕性温存治療ではUAE の良好な治療成績が報告されている.

文献

1)Giurazza F, et al. Semin Ultrasound CT MR. 42:37-45,2021
2)Yoon DJ, et al. AJP Rep. 6:e6-e14,2016
3)Peitsidis P, et al. Arch Gynecol Obstet. 284:1137-1151,2011
4)Timor-Tritsch IE, et al. Am J Obstet Gynecol. 214:731. e1-731. e10,2016
5)樋口正太郎ら,信州医誌.67(5):299-305,2019