(5)これからの課題

・ わが国における性教育は国としての指針はなく,産婦人科医や必要を感じた教育現場や医療者以外の人などが手探りで進めてきた.
・ 指針がなくと書いたが,文部科学省の「学習指導要領」には,性教育の内容についても言及はされている.「何を学んで欲しいか」を示すものだが,「中学校で性交という言葉は使わず,性的接触という」など,現実にそぐわない文言もあり,学校によってはこれを縛りととらえて「学習指導要領の範囲内でお願いします」と言われることも多い.もちろん性教育にこれが正解というようなものはないが,世界を見てもその重要性を認識した国が大きく指針を打ち出し,予算を付け,個々の現場に任せて行っている.実務は予算なくしてはできない.日本の現状は派遣医のボランティア,意識がある学校独自の取り組みという面を否めない.これでは広がっていかないどころか継続が難しくなる.
・ もちろん現状に満足することなく,性教育に対する試行錯誤は続けられている.昨年東京都教育庁も「性教育の手引き」を改訂した.それまでは小学校・中学校など学校種別に1 冊にしていたものをすべてまとめた.中学校から特別支援学校まで,すべての学校のやり方が1 冊で分かる.また,性教育を養護教諭だけでなく,学校全体で取り組んでいくことも示している.産婦人科医などの外部講師の活用も推奨されている.内容的には世界水準の「包括的性教育」に少し近づいてきたようだ.

文献
1)橋本紀子,池谷壽夫,田代美江子編著.『教科書にみる世界の性教育』.かもがわ出版.2018.