(4)高齢者の便通異常
女性の場合は思春期以降では,男性よりも便秘の有訴率は高いが,70 歳以上の高齢者では男女差は少なくなる(図 21).下痢の有訴率は,男女とも便秘に比し低いが,下剤の使用頻度が高いために,泥状便を呈していることが少なくない.高齢者では,加齢による便秘の有訴率の上昇は,腸管平滑筋の収縮性および神経活動の低下が腸管蠕動を抑制すること,直腸感覚閾値が高くなり感覚障害が進行し便意が低下することや骨盤底筋協調運動障害による便排出機能の低下が関与する.特に女性の場合,分娩が骨盤底筋に与える影響による排便障害は産婦人科診療でしばしば遭遇する.それに加え,運動量の低下や食事内容の変化,種々の服薬といった生活習慣の変化が排便機能に影響することはいうまでもない.一方で,中高年の下痢症では,薬剤の内服歴を確認し,感染症や消化管腫瘍の可能性について鑑別する必要がある.慢性的な下痢の場合には,下痢の回数や量,体重減少や血便の有無についての確認も重要である 8).また,産科的要因や加齢による便失禁も女性にとって深刻な症状である(図 22).