(4)更年期障害に対するそのほかの治療法

ポイント

  • 受容と共感を表出しながら患者の訴えを傾聴する.
  • 生活習慣に問題がある場合には改善するよう指導する.
  • カウンセリングや認知行動療法などの心理療法を行う.
  • 精神症状が重い場合には向精神薬の使用を考慮する.
  • ホットフラッシュに対して,大豆イソフラボンなどを用いる.

 本項目はホルモン補充療法・漢方療法以外の治療法について,『産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編 2023』1)に準拠した記載である.

1 )傾聴

 更年期障害は,エストロゲンのゆらぎを始めとする身体的因子に加えて,精神心理的因子や社会的因子が複合的に関与することにより発症に至る心身医学的疾患であるため,受容と共感を表出しながら患者の訴えを傾聴することが重要である.

2 )生活習慣指導

 食と運動を中心とする生活習慣が更年期症状によって乱され,それによって低下した自己評価がさらに更年期症状を悪化させる,という負の連鎖が見られることがある.生活習慣の改善は,悪循環を断ち切って症状の改善につながるだけでなく,閉経を境に上昇する心血管疾患や骨粗鬆症などの生活習慣病リスクへの早期対応としても重要である.

3 )心理療法

 1 )に述べたように,更年期障害の発症には心理社会的な因子が関与すると考えられており,実現可能な範囲で心理療法を試みるべきである.更年期症状の中で最も生物学的に説明可能と考えられる血管運動神経症状も,心理療法の一種である認知行動療法によって改善することがランダム化比較試験によって示されている 2)

4 )向精神薬

 うつ・不安・不眠などの精神症状が重い場合には,一般のプライマリ・ケアと同様に抗うつ薬・抗不安薬・催眠鎮静薬などの向精神薬の使用を考慮すべきである.ただしベンゾジアゼピン系の抗不安薬・催眠鎮静薬は耐性・離脱症状などにより薬物依存症を形成しやすいことが知られており,漫然と長期投与することは避けるべきである.1999 年以降わが国にも選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの副作用の少ない新型抗うつ薬が導入され,プライマリ・ケア担当医がこれらの薬剤を使用する機会が増加した.更年期のうつ症状改善に関しては,SSRI であるエスシタロプラムシュウ酸塩 3)や SNRI であるデュロキセチン塩酸塩 4)の有効性が RCT により示されている.また,SSRI であるパロキセチン塩酸塩水和物 5-7)やエスシタロプラムシュウ酸塩 8)がうつ症状を示さない周閉経期女性の血管運動神経症状にも有効であることが RCT により示されている.ただし,希死念慮のある場合,双極性障害が疑われる場合,薬物療法に対する反応が不良である場合には,抗うつ薬を漫然と長期処方することは避け,患者に不安を与えないように十分な説明を行った上で,精神科などの専門医に紹介すべきである.

5 )サプリメント

 更年期の血管運動神経症状に対する補完代替医療の有効性については多くの検討がなされているが,その代表的なものは植物エストロゲンとして知られる大豆イソフラボンであり,メタ解析によってホットフラッシュの頻度を減少させることが示されている 9).そのほかにも大豆イソフラボンの一種ダイゼインの腸内細菌分解産物であるS-エクオール 10),ブタ胎盤抽出物 11),ブドウ種子ポリフェノール 12)などによりホットフラッシュを含む更年期症状が改善することが報告されている.

文献

  • 1)日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編 2023,2023
  • 2)Ayers B, et al. Effectiveness of group and self-help cognitive behavior therapy in reducing problematic menopausal hot flushes and night sweats(MENOS 2): a randomized controlled trial. Menopause. 19(7): 749-759, 2012
  • 3)Soares CN, et al. Escitalopram versus ethinyl estradiol and norethindrone acetate for symptomatic peri- and postmenopausal women: impact on depression, vasomotor symptoms, sleep, and quality of life. Menopause. 13(5): 780-786, 2006
  • 4)Burt VK, et al. Duloxetine for the treatment of major depressive disorder in women ages 40 to 55 years. Psychosomatics. 46(4): 345-354, 2005
  • 5)Stearns V, et al. Paroxetine controlled release in the treatment of menopausal hot flashes: a randomized controlled trial. JAMA. 289(21): 2827-2834, 2003
  • 6)Stearns V, et al. Paroxetine is an effective treatment for hot flashes: results from a prospective randomized clinical trial. J Clin Oncol. 23(28): 6919-6930, 2005
  • 7)Simon JA, et al. Low-dose paroxetine 7.5 mg for menopausal vasomotor symptoms: two randomized controlled trials. Menopause. 20(10): 1027-1035, 2013
  • 8)Freeman EW, et al. Efficacy of escitalopram for hot flashes in healthy menopausal women: a randomized controlled trial. JAMA. 305(3): 267-274, 2011
  • 9)Taku K, et al. Extracted or synthesized soybean isoflavones reduce menopausal hot flash frequency and severity: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Menopause. 19(7): 776-790, 2012
  • 10)Aso T, et al. A natural S-equol supplement alleviates hot flushes and other menopausal symptoms in equol nonproducing postmenopausal Japanese women. J Womens Health(Larchmt). 21(1): 92-100, 2012
  • 11)Koike K, et al. Efficacy of porcine placental extract on climacteric symptoms in peri- and postmenopausal women. Climacteric. 16(1): 28-35, 2013
  • 12)Terauchi M, et al. Effects of grape seed proanthocyanidin extract on menopausal symptoms, body composition, and cardiovascular parameters in middle-aged women: a randomized, double-blind, placebocontrolled pilot study. Menopause. 21(9): 990-996, 2014