(3)AUB-E:子宮内膜機能異常

ポイント

  • 正常な排卵周期があるが,月経間出血や過多月経を認め,他に原因となる疾患に該当しない場合にAUB-E と診断される.
  • LEP 製剤やLNG-IUS などのホルモン療法を行う.

 

  • AUB-E の頻度は約3%と報告されている.しかしながら,日常的な臨床では特に原因を認めない過多月経の大半はAUB-E に分類されるため,その実数はこれまでの報告より多いと推定される.

1 )AUB-E の診断

  • AUB-E は「子宮内膜機能異常による異常子宮出血」と訳されているが,子宮内膜機能は多彩かつ複雑である.そのため,AUB-E の厳密な定義は存在せず,AUB-Eの診断は基本的に除外診断である.すなわち,正常な排卵周期があるが,月経間出血や過多月経を認め,他に原因となる疾患に該当しない場合にAUB-E と診断される.

2 )AUB-E の発生機序

  • AUB-E の発生機序は,月経周期における子宮内膜の増殖期,分泌期,月経期での子宮内膜局所での異常と考えることができる.AUB-E 患者の多くは繰り返す過多月経を臨床症状として受診する.これは,月経期の内膜剝脱に伴う出血の止血異常が原因と考えられる.
  • AUB-E 患者の内膜組織所見は,増殖期,分泌期の両者が同程度で認められるが,正常な女性の内膜と比べて,エストロゲンおよびプロゲステロン受容体の発現が高い.

① 通常の月経時の内膜剝離の発生機序

  • 月経時の内膜剝脱はエストロゲンとプロゲステロンの消退により発生するが,プロゲステロンの低下がより重要である.プロゲステロンは分泌期を形成するホルモンであるが,その低下はラセン動脈の収縮を引き起こし内膜での低酸素を誘導する.その結果,内膜間質細胞は退縮し内膜が剝脱する.この一連の反応は炎症であり,プロゲステロン低下は炎症反応の開始シグナルとなる.
  • 内膜の炎症反応ではプロスタグランジン(PG)が重要なサイトカインの1つである.プロゲステロンの低下により,PG 産生酵素の1つであるシクロオキシゲナーゼ1 と2(COX-1 とCOX-2)の発現が亢進する.COX-1 とCOX-2 によりPGE2 とPGF2αが産生され,それぞれの受容体であるEP 受容体,FP 受容体と結合する.内膜血管の収縮にはPGF2α,弛緩にはPGE2 が関与する.内膜血管の収縮により血流が低下し低酸素状態が起こり,内膜間質細胞が退縮することで内膜剝脱が進行する.

② AUB-E を原因とする過多月経の場合の内膜局所の病態(図21)

a.PG 産生の異常

  • PGE2 とPGF2αが内膜と月経血中に存在する主なPG であるが,過多月経患者では正常月経女性と比べ,PGE2 がPGF2αより産生が増加する.
  • 過多月経患者ではCOX-1 とCOX-2 の産生が亢進しPG が増加しているので,過多月経の治療として非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を使用することは論理的である.

b.凝固・止血機構の異常

  • AUB-E の原因として内膜局所での凝固・止血機構の異常がある.
  • 子宮内膜には組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)が多く含まれており,tPA はプラスミノーゲンをプラスミンに変換する.月経量が正常である場合には,フィブリンは速やかにプラスミンにより分解され凝血しないが,これは子宮内膜が瘢痕形成しないで再生するためには必要である.過多月経患者では正常月経女性と比べ月経2日目のtPA 活性が増加しており,過剰な線溶系の亢進が起きている.

3 )AUB-E の原因

  • AUB-E の原因として,子宮内膜におけるクラミジア感染が指摘されている.AUB-E と診断された患者の子宮内膜にクラミジアトラコマチスが半数程度検出されたとの報告がある.クラミジアトラコマチスは性行為感染症の1つであるが,骨盤内炎症性疾患(PID)としての急性症状を呈さない潜在性PID として異常出血に原因となっている可能性がある.しかしながら,子宮内膜へのクラミジアトラコマチス感染は形質細胞を伴うため,慢性子宮内膜炎としてAUB-N に分類すべきものかもしれない.

4 )AUB-E の治療

  • AUB-E と診断された過多月経患者には,現在,低用量エストロゲン・プロゲステロン配合剤(LEP 製剤)やレボノルゲストレル子宮内放出システム(LNG-IUS)などのホルモン療法が行われている.LEP 製剤やLNG-IUS は黄体ホルモンによる子宮内膜増殖抑制を目的に使用され,結果的にPG 産生の抑制につながると考えられる.