(3)脳心血管疾患(CVD)リスクと脂質代謝

  • 日本人の冠動脈疾患に対する絶対リスクは欧米人に比して低いが,冠動脈疾患の相対危険度は欧米と同様である.
  • 日本人の高脂血症患者においてプラバスタチン(HMGCoA 還元酵素阻害薬)による虚血性心疾患の一次予防効果を検討したランダム化比較試験 MEGA(Management of Elevated Cholesterol in the Primary Prevention Group of Adult Japanese)Studyでは,脂質低下療法の効果が日本人でも確認された 4)
  • 動脈硬化性疾患を予防するためには高血圧,糖尿病,脂質異常症,慢性腎臓病,肥満などの複数の危険因子の評価と管理が必須となる.動脈硬化性脳心血管疾患の予防には,主要危険因子の管理を早期から包括的に行い,食事療法,運動療法,禁煙などの生活習慣を継続することが重要である.

1 )脂質異常症の診断基準

  • 『動脈硬化性脳心血管疾患ガイドライン 2022 年版』の改編により,脂質異常症の診断基準と管理目標値が変更された.
  • LDL-C(low density lipoprotein- cholesterol)は早朝空腹時の TC(Total Cholesterol),TG,HDL-C(high density lipoprotein-cholesterol)を測定し,Friedewald 式(LDL-C=TC-HDL-C-TG/5)で算出する,直接法での測定も許容される.
  • 不良と判定されてきた LDL-C 試薬の製造販売中止や試薬の改良が行われ,LDL-Cの測定の妥当性が確認された.しかし,高 LDL-C 血症のエビデンスを提供している臨床試験の大部分は Friedewald 式を用いて LDL-C を評価しており,診断基準や治療目標値などの根拠は Friedewald 式に基づいている.
  • 食後や TG 400㎎/dL 以上の時には,non-HDL-C か LDL-C 直接法を使用する.直接法は,TG が 1,000㎎/dL 以上の場合,non-HDL-C は TG が 600㎎/dL 以上の場合は正確性が担保できないので,ほかの方法での評価を考慮する.
  • TC や HDL-C,LDL-C 直接法は空腹時でない場合(随時)もそのまま基準値を用いる.TG は空腹時と随時で異なる基準が設けられている.空腹時の TG は 150㎎/dL 以上,随時の TG は 175㎎/dL 以上が脂質異常症となる 5)

2 )カテゴリー別の脂質異常症の LDL-C の管理目標値

  • 一次予防では原則として3~6カ月間は生活習慣の改善を行う.その効果を評価した後に,薬物療法の適用を検討する.
  • LDL-C 180㎎ /dL 以上が持続する場合は,生活習慣の改善とともに薬物療法を考慮してもよい 5)

3 )絶対リスクを用いた脂質異常症管理

  • 動脈硬化性疾患の中等度リスク(絶対リスク 7.5%以上 20%未満)である場合,スタチン治療による LDL-C の 30~49%の低下が推奨されている(米国 ACC/AHA ガイドライン 2018).実臨床では患者のアドヒアランスの観点から,管理目標がある方が望ましい.多くの臨床医が管理目標値を治療の目安にしていることから,従来の管理目標値が踏襲された 5)

4 )生活習慣の改善(禁酒について)

  • 動脈硬化性疾患の一次・二次予防のために,飲酒者は飲酒頻度やアルコール摂取量をより減らすことが重要である 5)

5 )肥満およびメタボリックシンドローム対策

  • 適正な体重やウエスト周囲長を達成し維持することは,生活習慣改善の大切な要素である.内臓脂肪蓄積は動脈硬化の独立した危険因子であり,ウエスト周囲長測定の重要性も世界的に認められている.
  • 肥満およびメタボリックシンドロームは,脂質異常,耐糖能異常,高血圧を介して間接的に,あるいはアディポサイトカインの作用などにより直接的に動脈硬化を促進する.食事療法と運動療法を行って生活習慣を改善させることが治療の基本となる.
  • 肥満症の体重目標値は,直ちに BMI を 25 未満に設定するべきではない.短期間に超低エネルギー食で体重を減少させると,高率に体重のリバウンドを招くおそれがあるので,注意が必要である 5).体重あるいはウエスト周囲長の3%以上の減少を3~6カ月間での目標とし,その達成について経時的に確認する 5)

6 )薬物療法中の検査

  • 薬剤効果の確認と用量調節,生化学的検査による副作用の確認と生活指導のため,投与開始半年間は2~3回程度,その後は3~6カ月に1回程度,定期的に検査を行うことが望ましい.
  • 検査項目は,脂質検査に加え,使用薬剤および患者背景を考慮して,肝機能検査(AST,ALT,γGTP),筋関連酵素検査(CK),腎機能検査(BUN,Cre),血糖関連検査(HbA1c,血糖値)から選択する.定期検査はアドヒアランス向上による心血管イベント発症予防や良好な患者医師関係構築につながる 5)

7 )併用療法について

  • スタチンにフィブラート系薬あるいはニコチン酸誘導体を併用する場合は,単独治療よりも検査値異常や副作用が発現しやすいと報告されている.肝逸脱酵素や筋逸脱酵素の上昇を認めた場合は,スタチン以外の原因(脂肪肝や運動による上昇)を除外する.
  • スタチンによる糖尿病発症リスクの上昇(9~13%増加)が大規模 RCT のメタ解析から示唆されている.実際の糖尿病発症頻度は低く(1~2/1,000 患者・年),かつ元来糖尿病発症リスクの高い患者(高齢者・メタボリックシンドローム・耐糖能異常)における糖尿病発症が多い.糖尿病発症リスクの高い者では血糖関連検査は定期的に行う 5)