(3)男性不妊症の検査・診断

ポイント

  • 婦人科医であっても男性不妊の評価法はある程度理解しておく必要がある.
  • 精液検査は変動が大きいため最低2回,変動が大きく傾向がつかめない場合には3回行う.
  • 血清FSHと精巣容積から閉塞性・非閉塞性無精子症の鑑別はある程度可能である.

1)男性不妊症の診断

  • 図11に男性不妊症の診断に至るまでの診察・検査についての概略をまとめた.男性不妊の場合,問診・診察・検査を行うことである程度正確な診断,治療計画を立てることができる.施設や地域によって診療の状況に差異はあると思われるができることを行い専門家のいる施設へ紹介することも大切である.
  • 男性不妊症は決して稀な病態ではない.また近年,検査結果の解釈に関して詳しい説明を希望するカップルも少なくない.専門家に紹介をするとしても男性不妊症の検査についてある程度の知識はもっておく必要がある.

図11.問診・検査の流れと診断できる男性不妊疾患の例

2)男性不妊症の検査

①精液検査

  • 精液検査は患者の現在の妊孕性を把握する意味で最も重要である.WHOが提唱する2~7日の禁欲期間内で,射精後1時間以内に行うのが望ましい.検査ごとに精子濃度・運動率ともに変動が大きいため最低2回,変動が大きく傾向がつかめない場合には3回行う.また検査時には禁欲期間は確認しておくことも必要である.
  • 近年ではCASA(computer assisted semen analyzer)やSQA(semen quality analyzer)といった自動測定器も広く使用されており,それらを用いて精子の運動速度や頭部振幅なども測定可能である.
  • 精液検査の正常値は『WHOラボマニュアル』に記載があり,2021年発刊の第6版に記載された正常値は精液量1.4mL以上,精子濃度は1,600万/mL以上,運動率42%以上,正常形態率4%以上,生存率54%以上,精液中白血球数100万/mL未満である.
  • 患者は検査値が正常範囲内であれば安心するが,この値は正常妊娠したカップルの精液所見の分布内での5パーセンタイルであり,「容易に」自然妊娠できるということを意味してないということは伝えるべきである.
  • 精液中の酸化ストレスや精子DNA断片化といった精子の質に関する検査も開発され,これらの値と妊孕性との関連についての報告もみられるがいまだ強いエビデンスがあるとは言いがたい.
  • スマートフォンのアプリケーションを用いた精液検査については現状ではあくまで参考値として取り扱う.
  • 精液検査は測定方法が一律ではなく,外注を依頼する施設もあれば院内で検査技師や培養士が測定する施設もある.患者が前医の精液検査結果を持参してくれる機会も多いが検査方法が一律ではないため,一概に比較できないことは留意しておく必要がある.

②ホルモン検査

  • 血清FSH,LH,テストステロン,プロラクチンなどのホルモン検査などを測定する.施設により正常値は異なるが筆者らの施設では以下の値を正常値として採用している.
    • テストステロン 0.86~7.88ng/mL
    • LH 2.2~8.4mIU/mL
    • FSH 1.8~12.0mIU/mL
    • プロラクチン 4.3~13.7ng/mL
  • FSH,LH,テストステロンの値が正常以下の場合は低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(指定難病)の可能性を考慮し,LH-RH負荷試験やhCG負荷試験にて精巣機能・下垂体機能を確認する.また逆にFSH,LHが高値の場合には高度な精巣の障害が示唆される.特に血清FSHは精巣容積と並び,閉塞性・非閉塞性無精子症の鑑別に重要である(表6).
  • 高プロラクチン血症を有する患者は男性では女性と比べ少ないが精子数減少,性欲低下などを来す.原因精査のため下垂体のCTもしくはMR検査,内服薬の確認などを行う.なおプロラクチンは保険請求できない可能性があり検査する場合は注意が必要である.

表6.閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症の鑑別点

③染色体検査・遺伝子検査

  • 無精子症,高度の乏精子症では染色体異常,特にY染色体の異常が高頻度で認められるため,血液による染色体検査はルーティンで行うことが勧められる.
  • 遺伝子異常については主にY染色体長腕状に存在するAZF(azoospermia factor)欠失が主である.AZFはa,b,c3つのパーツに分かれておりAZFa,b欠失では精子採取の可能性が極めて低く,採取術を行う患者では手術(精巣内精子採取術TESE)前に遺伝子検査を行うことが推奨される.
  • 染色体異常・遺伝子異常を有する患者は遺伝情報が児に受け継がれる可能性があり,手術を行う場合は術前の十分な遺伝カウンセリングが推奨される.

④精巣生検

  • 造精機能の確認のためには重要な検査であるが精巣生検の結果が精子採取の予測因子になるというエビデンスはなく,前述したように閉塞性・非閉塞性無精子症の鑑別も精巣容積や血清FSH値から概ね判断はつくこと,精巣へのダメージも考慮し近年はTESE終了時に行うことが多い.
  • 精子形成障害の評価・定義・分類は必ずしも明確ではなく,実用性から考えると造精機能の評価にはJSC(Johnsen’s score count)が推奨される(表7).50~100個の精細管を確認し1つずつJSCをつけ,その平均値を算出する(mean Johnsen’s score).

表7.JSC(Johnsen'sscorecount)