(3)本邦におけるAUB 診療の新たな展開と課題

1 )経腟超音波検査を活用した診断フローチャートの考案と検証

  • 本邦では海外に比べて経腟超音波断層法検査(TVS)を使用するハードルが低く,患者が希望しない場合を除けば,初診時にTVS を実施することが一般的である.一方,海外では,「総論5.本邦におけるAUB 診断-日常診療におけるAUB 診断プロセスの至適化-」(25 頁参照)で示したように,TVS は排卵障害・凝固障害などを除外してから実施する検査に位置づけられており,本邦の一般的診療とは齟齬がある.
  • 図2に本邦における「TVS を活用したAUB 診断フローチャート案」を示した.本案ではAUB から子宮頸管細胞診などによって子宮頸管病変を除外した後,TVSを用いて子宮体部にAUB の原因と考えられるような器質的異常がないかを検索する.
  • TVS によって器質性(structural)疾患(PALM)が疑われる場合,問診による出血の性状や腹痛の有無,子宮内膜細胞診・組織診の所見,子宮内視鏡検査(子宮内腔病変が疑われる場合),MRI 検査などの画像検査から,AUB-P,AUB-A,AUB-L,AUB-M を鑑別診断する.
  • TVS によって器質的異常を認めず,非器質性(non-structural)疾患(COEIN)が疑われる場合,問診による出血の性状や腹痛・易出血性・内服薬などの有無,各種内分泌検査の所見などから,AUB-C,AUB-O,AUB-E,AUB-I,AUB-N を鑑別診断する.
  • 本邦でのエビデンスが乏しいことから,本案の妥当性を検証し,至適なAUB 診断プロセスを考案・標準化していくことが必要である.

2 )AUB-O の診断と治療・管理

  • これまでの「不正性器出血」に対する本邦の診療では,悪性腫瘍を含む器質性疾患の除外と鑑別,出血症状に対する治療が主であったと思われる.一方,AUB 診療は非器質性疾患も対象とするため,非器質性疾患の鑑別診断・治療・管理の標準化と普及が必要である.
  • 非器質性疾患の中で最も大きなウェートを占めるのが排卵障害に伴うAUB-O であり,日産婦GL に掲載されたAUB に関するCQ & Answer の中でも最大の紙数が割かれている.AUB-O に対する診療は,ともすればホルモン製剤による消退出血誘発や止血剤投与に留まり,鑑別診断や長期的視点にたった管理が行われないことも少なくなかったと思われる.
  • 表1にAUB-O をWHO による排卵障害分類に基づいて分類し,それぞれの典型的な所見をまとめた.しかしながら,実臨床では明確な分類・診断が困難な症例も少なくないため,必要に応じて高次医療機関にコンサルトすることも必要である.
  • 一方,本邦におけるAUB で一定頻度を占める月経間期出血では,明確な異常を認めない症例も少なくない.

3 )AUB-C の早期診断

  • 「 各論 2(- 1)Coagulopathy: 血液凝固異常」(44 頁参照)にもあるように,AUB の原因としての止血異常症は重要であり,AUB-C の早期診断は今後のAUB 診療の課題といえる.
  • 現実的には先天性止血異常症を問診で疑ってvon Willebrand 病(VWD)を早期診断することは容易ではないため,AUB-C を想定したスクリーニング検査として,vonWillebrand 因子抗原量および活性と血液凝固第Ⅶ因子活性を調べることも提唱されており,今後の議論が必要である.

4 )AUB-E の定義・診断方法

  • 前述のように,本邦では「月経間期出血」による受診が高頻度にみられるが,本邦におけるAUB 実態調査(21 頁 総論4 参照)によると,その多くがAUB-E やAUB-N に分類されているとのことである.
  • AUB-N は「原因不明」ではなく,「各論2-(5)Not otherwise classified:分類不能」(74頁参照)に詳述されているように,子宮内膜炎,帝王切開瘢痕症候群,子宮動静脈奇形などの比較的新しい疾患概念の原因疾患によるAUB である.本研修ノートなどを通じてAUB-N の周知を図り,適切な診断・治療・管理が普及することが望まれる.
  • 一方,AUB-E は,「各論2-(3)AUB-E:子宮内膜機能異常」(60 頁参照)に詳述されているように,基本的には他の非器質性疾患(COEIN)を否定した上での除外診断である.その発症機構としては,子宮内膜局所における,PGF2αなどの血管収縮因子の産生低下や,組織型プラスミノーゲンアクチベーターの活性上昇などによる線溶系の亢進などが推定されている.
  • AUB-E による主な症状は繰り返す過多月経であるとされる.AUB-E による月経間期出血も想定されるが,「各論2-(2)Ovulation dysfunction:排卵異常」(48 頁参照)に詳述されているように,表1に含まれる病的な排卵障害や,閉経移行期や思春期における生理的な排卵障害,心身のストレスに伴う視床下部性の排卵障害,すなわちAUB-O による月経間期出血であることも少なくないと思われる.
  • 月経間期出血の原因をAUB-E とする前に,月経周期14 日目であるにもかかわらず卵胞発育がみられないなど,AUB-O を示唆する所見がないか,AUB-E の定義や診断方法を改めて標準化することが必要と思われる.