(3)更年期障害に対する漢方療法

ポイント

  • いわゆる不定愁訴に対して,女性の3大処方(当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸)を使用する.
  • 精神安定作用のある処方(加味逍遙散,抑肝散・抑肝散加陳皮半夏,加味帰脾湯)を使用する.

1 )更年期障害治療における漢方治療の位置づけ

  • 血管運動神経症状に対してはホルモン補充療法(HRT)が有効性・エビデンスレベルにおいて優先される.
  • HRT 禁忌例,無効例,忌避例に対しては漢方治療がよい適応となる.
  • HRT 施行例で症状が残る場合に漢方を併用してもよい.

2 )女性の3大処方

  • 外的ストレスなどにより「血」の流れが障害され滞った状態である「瘀血(おけつ)」は,更年期障害の病因とされており,これらは瘀血を改善する薬剤である.
  • 構成生薬について理解しておくと,各薬剤のもつ特徴が理解しやすい(図 12)1)

図 12.女性の3大処方の構成生薬それぞれの処方を構成する生薬を「気血水」で分類した.(文献1より引用) 当帰芍薬散 桂枝茯苓丸 加味逍遙散

①当帰芍薬散

  • やせ,色白,冷え,虚弱体質,頭痛,めまい,肩こり,浮腫傾向を特徴とする.
  • 「朮」「沢瀉」「茯苓」といった利水作用をもつ生薬を多く含む.

②加味逍遙散

  • 症状が「逍遙」する(多彩である)もの,即ちふらふらと定まらない愁訴の際に使用し,不定愁訴への代表処方といえる.
  • 「柴胡」「薄荷」「山梔子」といった「気」にはたらく生薬が多く含まれている.
  • 更年期障害に対するプラセボ対照二重盲検比較試験を用いた有効性検討において,ポストホック解析ではあるが,有効性が報告されている 2)

③桂枝茯苓丸

  • 瘀血症状が強く,冷えのぼせが特徴であり,精神神経症状は軽度のものに用いる.

3 )精神安定作用のある処方(図 13)1)

  • 上記の加味逍遙散も精神安定作用に優れる.
  • これらは,アンチストレス作用のある「柴胡」を構成生薬として含む.
  • 抑肝散の「肝」や加味帰脾湯の「脾」は,漢方医学的概念「五臓」の臓器であり,西洋医学的に解釈すると,肝:情動・内分泌系・自律神経系,脾:消化機能を表し,それぞれ病的状態となると,怒り(イライラ),思い悩む(うつうつ)となる.

図 13.精神安定作用のある処方の構成生薬それぞれの処方を構成する生薬を「気血水」で分類した.(文献1を基に著者作成) 抑肝散加陳皮半夏加味帰脾湯 加味逍遙散

①抑肝散・抑肝散加陳皮半夏

  • 抑肝散加陳皮半夏は,抑肝散に消化機能を補う「陳皮・半夏」を追加したものである.
  • 「イライラ」に対する薬剤であり,もともと子どもの「疳の虫(乳幼児の癇癪・ぐずつき)」に使用されていた.
  • 「釣藤鈎」に鎮痙鎮静作用があり,感情の高ぶった状態に使用できる.

②加味帰脾湯

  • 「黄耆・人参」を構成生薬に含んでおり,元気にする処方である補剤の仲間でもある.
  • 加味逍遙散と同様に火照りを改善する「山梔子」を含んでおり,ホットフラッシュに対応できる.

文献

  • 1)武田卓.改訂第二版ヌーベル漢方処方ノート.メディカ出版.2022
  • 2)Takamatsu K, et al. A Multicenter, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial to Investigate the Effects of Kamishoyosan, a Traditional Japanese Medicine, on Menopausal Symptoms: The KOSMOS Study. Evid Based Complement Alternat Med. 2021: 8856149, 2021