1 )循環器・呼吸器
- 児が啼泣すると心音と心雑音の評価が難しくなる.児が泣かないように優しい聴診を心がける.聴診器が冷たいと啼泣の原因になるので人肌に温めておく.心拍数,リズム不整,心雑音の有無に注意を払う.
- 安静時の心拍数は 120~140 /分である.呼吸性洞性不整脈は吸気に心拍が速くなり,呼気に遅くなる生理的現象である.告知する必要はない.
- 心雑音は時相,強さ,部位を評価する.胎児心臓超音波スクリーニングと新生時期の酸素飽和度スクリーニングにより,チアノーゼ性心疾患の多くは産科退院までに診断される.
- 収縮期雑音の原因は,軽度の心室中隔欠損症と末梢性肺動脈狭窄であることが多い.重症貧血でも収縮期雑音が聴取されることがあるが,一般的には頻脈を伴う.拡張期雑音および Levin Ⅱ度以上の収縮期雑音は小児科に紹介する.
- 呼吸数および陥没呼吸の有無を視診で観察する.呼吸音は左右,上下で差がないかを聴診する.異常呼吸音としては吸気性喘鳴が多い.診察時に症状がなくても啼泣時などに症状が現れることがあるので両親に確認する.
- 喉頭・気管軟化症は産科入院中に症状を認めない場合でも,発育とともに呼吸が強くなり症状が出現する.喉頭・気管狭窄の可能性もあるため専門医に紹介する.
2 )腹部
- 腹部は膨満していることが多い.排便状態を確認する.皮膚の緊満感(光沢感),左右対称性を観察する.触診では腹部全体を触れ腫瘤の有無を確認する.肝臓は正常でも2㎝程度触知されることが多い.
- 臍部の異常で頻度の高いものは,臍の部分が膨隆する臍ヘルニアと,湿潤した赤みのある円形の腫瘤を認める臍肉芽腫である.臍ヘルニアは自然に消失することもあるが,皮膚のたるみを残すことがある.安静時にも診られるものは,小児科または小児外科に紹介する.便秘があると悪化するため,排便状態も確認する.発赤や浸出液を認める場合は,尿膜管遺残の可能性がある.
3 )鼠径部
- 鼠径部から陰部の膨隆物の多くは鼠径ヘルニアである.間欠的に出現することが多く,診察時には膨隆がなくても両親から質問されることがある.成長に伴いヘルニア門が狭くなると腸管の嵌頓を起こす危険があるため,小児外科へ紹介する.
4 )外性器および臀部
- 男児では陰囊の状態と陰囊内に両側睾丸が蝕知できるかを視診と触診で観察する.陰囊が緊満している場合は陰囊水腫の可能性が高い.陰囊後方から光をあてる透光試験を行い,陰囊水腫とヘルニアを鑑別する.陰囊水腫では光は通過する.2歳までには消失するため経過観察とし,4か月児健康診査で確認する.ヘルニアでは光は透過せず,陰囊内に腸管を触知する.尿道の開口部が陰茎の先端にあり,ほかの部位に開口していないかを確認する.開口異常がある場合は尿道下裂の可能性がある.小児科または泌尿器科に紹介する.
- 陰囊と陰茎の低形成を認める場合は Prader-Willi 症候群の可能性がある.小児科に紹介する.
- 女児では陰核肥大,陰唇癒合を確認する.
- 副腎皮質過形成は新生児マススクリーニングの検査項目であるが,早発型の場合は検査結果が報告される前に発症することがある.男女ともに陰部に色素沈着がないかを確認する.嘔吐を認める場合は再度確認する.
- 肛門の位置を確認する.肛門周囲の発赤,腫脹,排膿は肛門周囲膿瘍が疑われる.小児外科へ紹介する.
- 背部は腰仙部正中の皮膚の陥凹(皮膚洞)の有無を確認する.陥凹を認めた場合は,位置,深さ,周囲の皮膚の状態を観察する.陥凹部が臀裂(仙骨直下から会陰に伸びる臀部の間の溝)上縁や臀裂外にある,陥凹が深い,陥凹部に母斑や発毛が見られる,腫瘤が触れる場合は紹介が必要である.臀裂部で陥凹が浅いものは必ずしも紹介は必要ない.陥凹部が湿潤している場合は直ちに紹介が必要である.
5 )股関節
- 発育性股関節形成不全は,以前は先天性股関節脱臼と呼ばれていた.股関節に悪影響を及ぼす体位が習慣化され発症することがあるため疾患名が変更になった.向き癖があり反対側の脚が M 字に型開脚にならない,女児,骨盤位,家族の先天性股関節脱臼の既往,寒い地域および寒い時期に生まれた児(概ね 11 月~3月)のリスク因子を複数認める場合は整形外科に紹介する(52 頁「11.発育性股関節形成不全」参照).
- 両側の開排制限は,股関節を 90 度屈曲して観察する.臥床面から大腿部が 20 度以上離れている場合は開排制限有りとする(図9).大腿を無理に押さえ込まないように注意する.必ずしも両側が開排制限を来すわけではなく,片側のみの開排制限(立て膝)になっている例は,対側の顔の向き癖がないか確認する.
- 大腿皮膚溝の位置および数の左右差,鼠径皮膚溝の深さと左右の長さの違いに注意する.詳細は乳児健康診査における股関節脱臼 一次健診の手引き(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/kenshintebiki.pdf)に記載されている.

6 )顔面・頭部
- 眼裂に左右差がないか確認する.左右差がある場合は眼裂の狭い方が異常で,眼瞼下垂が原因である.重度の斜頭症では後斜頭側の眼裂の開大が見られる.
- 眼周囲の血管腫を含む腫瘤は視力の発達に影響を及ぼす可能性がある.
- 開眼に問題があるひどい眼脂は鼻涙管狭窄または閉鎖があるので眼科に紹介する.結膜の充血を伴うものは早期に紹介する.
- ペンライトを用いて対光反射と固視の有無を確認する.この時期に追視しなくても異常ではない.
- 角膜の混濁は緑内障,瞳孔領野の白濁は先天性白内障,網膜芽細胞腫などの緊急を要する疾患であるため専門医に紹介する.
- 啼泣時に顔面非対称があれば顔面神経麻痺の可能性がある.専門医に紹介する.
- 頭頂部からの視診で頭蓋変形が見られた場合,多くは位置的頭蓋変形である.早期から重度の頭蓋変形が見られれば頭蓋早期癒合症の鑑別のために小児科または脳神経外科に紹介する.早期癒合症では,頭囲発育に異常がない小頭症の場合が多いので告知には注意を要する.
- 大泉門の大きさは個人差があるが2~3㎝である.大泉門が触れなければ小児科に紹介する.頭血腫は出血量によって吸収の速度が異なる.一般的には3か月までに吸収されるが,大きな頭血腫の場合は石灰化する.吸収が遅れて腫瘤として残る可能性がある.
7 )頸部
- 右か左か1方向を常に向いていて,向き癖と反対側の胸鎖乳突筋の腫瘤を認める場合は先天性筋性斜頸を疑う.典型例は患側と反対側に顔を向けて患側に頭を傾ける.腫瘤を触れない場合は,両手をもって引き起こした時に顔が正面を向けば単なる向き癖によるものと分かる.顔が正面を向かなければ骨性斜頸などの鑑別が必要になる.整形外科に紹介する.
8 )運動発達
姿勢の観察
- 顔を正面に向けている場合は,上肢は W 字型,下肢は M 字型を呈し軽く屈曲し,手は軽く握っている.
- 仰臥位で首を一方に向けると,顔面側の上肢が進展して後頭側の上肢が屈曲する反応が出る(右に顔を向けると右上肢が進展して左上肢が屈曲する).原始反射の1つで4か月頃には消失する.1か月健診時にこの反射が見られても正常である.手を硬く握って非対称性緊張性腱反射が強く長時間続く場合は小児科に紹介する.
自発運動の観察
- 上下肢を自発的に抗重力的に動かす.べったりと四肢が床面につき(蛙肢位),動きが少ない場合は筋緊張低下の所見であるため小児科に紹介する.
- 上肢の動きに左右差がある場合は,分娩外傷や新生児脳梗塞などの可能性がある.小児科に紹介する.新生児早期に気づかれなかった鎖骨骨折が原因のこともあり,鎖骨の部分を触診し腫瘤を触知しないか確認する.
9 )神経系
筋緊張の評価
- 上下肢の筋肉をつまんで弾性や筋肉量の低下がないかを見る.スカーフ徴候とは手首を持ち反対の首に上肢をもっていくとスカーフを巻くような状態になることであり,筋緊張が低下した異常所見である.下肢では,股関節が過度に開排する場合は筋緊張低下が疑われる.股関節開排制限の一部は筋緊張亢進のために生じる.
引き起こし反応
- 検者の母指を手掌で握らせて,ほかの四指で児の手背および前腕遠位端部を保持してゆっくり引き上げる.頭は後屈し,上肢は進展または軽度屈曲する(図 10-a).下肢は開排したままである.筋緊張が弱いと頭が極端に背屈して肘関節が完全に伸びきる(図 10-b).筋緊張が亢進すると,体幹と下肢が一直線上に棒のように立ち上がったり(図 10-c),引き起こしても腰がずれてしまう.筋緊張の異常が見られたら小児科に紹介する.

水平抱き
- 腹部を背後から両手で支えて水平にし,四肢および体幹の屈曲を観察する.正常では頭部を挙上しようとして体幹は軽度屈曲する(図 11-a).筋緊張が弱いと頭部が前屈して体幹が逆 U 字型に極端に屈曲する)(図 11-b).筋緊張亢進では顔を上げて下肢も伸展し体幹が一直線となる(図 11-c).

10 )皮膚
- 皮膚色で貧血を判断するのは難しいが,なんとなく顔色が悪い,皮膚の赤見がなく蒼白に見える場合は貧血を疑う.ABO 不適合による溶血性疾患では,黄疸が消失しても貧血が進行することがある.
- 皮膚が黄色い場合,黄疸が疑われる.母乳栄養児では母乳性黄疸の頻度が高い.黄疸があれば便カラーカードで便の色を確認し,総ビリルビン値,間接ビリルビン値,直接ビリルビン値を測定する.灰白色便(便カラーカード1,2,3),村田・井村の基準で光線療法を行う基準を超えている,人工栄養主体で皮膚の黄染が確認できる,もしくは間接ビリルビン≧2㎎ /dL であれば小児科に紹介する.
- 皮疹は部位,性状を観察する.乳児湿疹や脂漏性湿疹はスキンケアの指導を行う.重症例では皮膚科に紹介する.
- 境界が明瞭であるコーヒー牛乳色の色素斑(カフェオレ斑)で直径5㎜のものが6個以上点在すると神経線維腫症 I 型が疑われる.小児科に紹介する.
- 乳児血管腫(イチゴ状血管腫)は生後数日から1か月で赤みを帯びて隆起する良性の腫瘤である.自然軽快も期待できるが内科的治療が可能であり,小児科に紹介する.

