(2)卵巣癌合併妊娠

ポイント

  • 妊娠中の卵巣癌のほとんどは妊婦健診中の超音波検査で発見される.妊娠週数が進むにしたがって子宮に隠れて発見が困難になるので,初期に注意深く卵巣も観察することが大切である.早期病変では妊孕性温存手術も可能であるが,進行例に関しては化学療法も考慮される.

1)卵巣癌合併妊娠の病態

  • 妊娠に合併した卵巣腫瘍の頻度は全妊娠の1~4%といわれ,そのうち2%程度が悪性腫瘍である4)

2)診断の手順

①超音波検査

  • 妊娠初期の外来診療において経腟超音波は必須の検査であるが,胎児・胎囊の確認のほか,卵巣にも腫瘍がないか注意深く確認する必要がある.

②MRI検査

  • 超音波検査で悪性腫瘍を疑う時にはMRI検査を行う.妊娠第1期の胎児MRIは胎児に対し悪影響を及ぼすことはないが,ガドリニウム投与はいかなる妊娠時期においても胎児への悪影響を伴うとされている5)

③腫瘍マーカー

  • 悪性卵巣腫瘍の診断に種々の腫瘍マーカーが用いられるが,表21に示すように妊娠によって影響を受けることがあり注意を要する.

④病理診断

  • 妊娠時に発見される卵巣癌の組織型は悪性胚細胞腫瘍が最も頻度が高く,次に上皮性卵巣癌である6).卵巣癌の確定診断は摘出標本の病理組織学的診断になる.

⑤高次施設へのコンサルティング

  • 妊娠中の超音波検査にて悪性腫瘍を疑われるものに関しては,検査から治療へ一貫して行われる高次医療機関に早めにコンサルティングするのが望ましい.一次施設では,各地域の状況を鑑み,高次施設と連携をとりながら対応を検討する.

表21.妊娠と卵巣癌腫瘍マーカー

3)実際の管理

①手術療法

  • 卵巣腫瘍合併妊娠で手術療法の適応となるものは,①悪性が疑われるもの,②破裂または茎捻転を来したもの,③6㎝以上で充隔壁や小結節などを認め悪性腫瘍が疑われるものや,10㎝以上のものである6).麻酔薬の影響,手術侵襲による流産を考慮し待機可能な場合には妊娠14週以降に手術をすべきである.
  • 妊娠14週以降であれば付属器摘出により卵巣黄体が摘出されてもプロゲステロンの補充は必要ない.

②妊娠継続を断念の上,更なる挙児希望がない場合

  • 迅速組織診断にて悪性診断がつき,かつ挙児希望がない場合には標準治療を行う.『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン』7)にもあるように標準治療(両側付属器摘出,子宮全摘,大網切除術,腹腔細胞診,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清(生検))を行う.

③妊娠継続希望の場合

  • 妊娠継続の希望がある場合には,術前に患者および家族と十分に話し合った上で,どのような場合に妊娠継続を行うか決めておく必要がある.ガイドラインでも示されているように組織的対応を考慮した上で,妊孕性温存手術(患側付属器摘出,大網切除,腹腔細胞診)に加えて腹腔内精査を実施する.

4)妊娠中の化学療法について

  • 卵巣癌合併妊娠について,fetus in uteroの状態で化学療法を行い,胎児が胎外生活可能な週数後に娩出後,根治治療を行った報告が近年多数認められる8)
  • 妊娠初期での使用は催奇形性のリスクから使用は勧められないが,中期以降の化学療法は薬剤によっては影響が少ないといわれている.
  • 上皮性卵巣癌についてはプラチナ製剤とパクリタキセルの併用に関する報告が多く見られるが8),胎児性癌に対する化学療法については症例も少なく,これからの研究発表が待たれるところである.

文献

  • 4) 田畑務.妊娠合併悪性卵巣腫瘍の治療と管理.日本産科婦人科学会雑誌.63:1224-1230,2011
  • 5) Ray JG, Vermeulen MJ, Bharatha A, Montanera WJ, Park AL. Association between MRI exposure during pregnancy and fetal and childhood outcomes. JAMA. 316: 952-961, 2016
  • 6) 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編.産婦人科診療ガイドライン産科編2023.東京,杏林舎.2023
  • 7) 日本婦人科腫瘍学会編.卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020 版.東京,金原出版.2020
  • 8) Xingzhi Jiang, Zhongxue Ye, Wen Yu, Qian Fang, Yafen Jiang. Chemotherapy for ovarian cancer during pregnancy: A systematic review and meta-analysis of case reports and series. J Obstet Gynaecol Res. 47(10): 3425-3436, 2021