1 )不眠症とその原因
- 不眠症は,入眠障害(寝付きが悪い),中途覚醒(眠りが浅く途中で何度も目が覚める),早朝覚醒(早朝に目が覚めてその後入眠できない)の3パターンに分類される.
- 中高年女性の不眠においては,ストレスなどの心理的要因や騒音などの環境要因のほかに,ホットフラッシュ,うつ病,甲状腺機能異常,睡眠時無呼吸症候群,心疾患,むずむず脚症候群などの疾患が潜んでいることがある.
- 加齢による脳や身体機能の低下に伴い,多くの場合,睡眠時間は短くなる.「以前と比べて睡眠できなくなった」と訴える場合,日中の眠気で困る状態でなければ,睡眠障害にはあたらない.
2 )不眠症への対応
- 不眠症の対応フローチャートを図 27 に示した.女性の訴える不眠が,入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒のいずれに該当するかを確認し,また病的なものであるかも確認する.
- 睡眠衛生指導も重要である.運動を全く行っていない場合は,活動量を増やすよう指導する.また,睡眠前のスマートフォン操作や飲酒は避けることを伝える.
- 漢方薬での治療を希望する場合は,抑肝散,抑肝散加陳皮半夏,酸棗仁湯,加味帰脾湯などから選択する.

3 )睡眠薬の選択
- 明らかな原疾患がみられず,生活習慣改善でも改善せず,日中の生活に支障を来している場合は,睡眠薬の処方を検討する.
- 主な睡眠薬を表 20 に示す.不眠のタイプにより使用する薬剤を使い分ける.ベンゾジアゼピン受容体作動薬の中では,入眠困難には超短時間作用型あるいは短時間作用型の睡眠薬が有効であり,翌朝の持ち越し効果も少ない.
- 近年よく使われるオレキシン受容体拮抗薬は,ベンゾジアゼピン受容体作動薬と異なり,筋弛緩作用や転倒,健忘などがみられず,依存形成も少ないと考えられる.ただし作用時間が長いため,翌日の持ち越し効果や悪夢などの副作用のチェックを行う.
- ベンゾジアゼピン受容体作動薬は,常用量であっても長期間服用すれば耐性や依存性を形成するため,原則として不眠が改善したら減量・中止を試みる.

文献
- 1)日本産科婦人科学会,日本女性医学学会.ホルモン補充療法ガイドライン 2017 年度版.日本産科婦人科学会.2017
- 2)睡眠障害の対応と治療ガイドライン第 3 版.じほう.2019