(2)フレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドローム
1 )フレイル
フレイルは,「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下し,複数の慢性疾患の併存などの影響もあり,生活機能が障害され,心身の脆弱性が出現した状態であるが,一方で適切な介入・支援により,生活機能の維持向上が可能な状態像」とされ,健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味する.
加齢や病気で筋肉量が低下しサルコペニア(後述)を起こすと身体の機能が低下する.全体の活動量が減少すると,エネルギー消費量が減り,必要なエネルギー量も減少する.加齢による食事量の低下,食欲低下が慢性的な栄養不足を招き,サルコペニアをさらに進行させ,筋力低下が進むという悪循環(フレイルサイクル)に陥る.タンパク質合成を促すための十分なエネルギー摂取,骨の維持のためカルシウムやビタミン Dの積極的な摂取が推奨されている.
日本版フレイル基準(J-CHS 基準)3)では,以下の5項目を評価する.3項目以上に該当するものをフレイル(Frail),1項目または2項目に該当するものをプレフレイル(Prefrail),いずれも該当しないものを健常(Robust)とする .
- 体重減少:6カ月で2㎏以上の(意図しない)体重減少
- 筋力低下:握力;男性< 28㎏,女性< 18㎏
- 疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
- 歩行速度:通常歩行速度< 1.0m/ 秒
- 身体活動:「軽い運動・体操をしていますか?」「定期的な運動・スポーツをしていますか?」の2つのいずれも「週に1回もしていない」と回答
2 )サルコペニア
サルコペニアとは,加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指す 4, 5).65 歳以上の 15%程度がサルコペニアに該当すると考えられ,各種疾患の重症化や生存期間にも影響するとされるが,運動と栄養により改善が期待できる.
筋肉の力,機能,量という3つの指標によって判定するが,一般の診療所などでは,筋肉の力と機能のいずれかが低下(握力< 28㎏(男性)or < 18㎏(女性),5回立ち上がりテスト≧ 12 秒)している場合にはサルコペニアの可能性ありと判断し,運動や栄養を意識した対策や,専門機関への紹介が推奨される 6).
3 )ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)とは,「運動器の障害のために移動機能の低下を来した状態」7)のことを表し,2007 年に日本整形外科学会によって新しく提唱された概念である 8).略称は「ロコモ」,和名は「運動器症候群」と言われている.運動器(骨・筋肉・関節・靱帯・腱・神経など)自体の疾患によるもの(変形性膝関節症,骨粗鬆症,関節リウマチ,変形性脊髄症,背柱管狭窄症,骨折など)と,加齢に伴って起こる運動器の機能低下によるもの(筋力低下,体力・全身耐久性の低下,関節可動域制限,関節や筋の痛みなど)とがある.骨や筋肉,関節などの運動器が衰えていないかを7つの項目でチェックできる簡易テストであるロコチェックで,7項目のうち,1つでも当てはまればロコモティブシンドロームの心配がある 8).ロコモティブシンドロームの疑いがある場合には,産婦人科での判断は難しいため整形外科に紹介することが望ましい.
予防対策として,自分のレベルに合わせて安全に行える「片脚立ち」と「スクワット」のロコモーショントレーニング(ロコトレ)があり 9),患者の体力に合わせて「ヒールレイズ」「フロントランジ」を加えて行うとさらに効果的とされる.
ロコチェックおよびロコトレの具体的な方法は,日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト(https://locomo-joa.jp)に紹介されている.
ロコモティブシンドロームを予防するには,若いうちからの運動習慣,栄養バランスのとれた食事摂取,健康維持,骨と筋肉の強化が大切であり,生活習慣病の予防にもつながる.産婦人科でもその重要性を理解し,必要に応じて情報提供を行うことが望まれる.
文献
- 1)日本骨代謝学会,日本骨粗鬆症学会合同 原発性骨粗鬆症診断基準改訂検討委員会:原発性骨粗鬆症の診断基準(2012 年度改訂版).Osteoporosis Japan.21:9-21,2013
- 2)骨粗鬆症治療の予防と治療のガイドライン作成委員会編.骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン 2015 年版
- 3)Satake S, Arai H. The revised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J-CHS criteria). Geriatr Gerontol Int. 20(10): 992-993, 2020 DOI: 10.1111/ggi.14005.
- 4)サルコペニア診療ガイドライン作成委員会編.サルコペニア診療ガイドライン 2017 年版.ライフサイエンス出版,2017
- 5)サルコペニア診療実践ガイド作成委員会編.サルコペニア診療実践ガイド.ライフサイエンス出版,2019
- 6)Chen LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020 Feb 4. pii: S1525-8610(19) 30872-2. [Epub ahead of print]
- 7)Nakamura T. A “super-aged” society and “locomotive syndrome”. J Orthop Sci. 13: 1-2, 2008
- 8)日本整形外科学会編.ロコモティブシンドローム診療ガイドライン 2010.文光堂.2010
- 9)日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト(https://locomo-joa.jp)