(2)めまい

ポイント

  • めまいは,平衡機能に関連する前庭性めまいと平衡機能に関連しない非前庭性めまいに大別される.
  • 中高年女性の自律神経や更年期障害に起因するめまいは,非前庭性めまいに含まれる.
  • 前庭性めまいの可能性が高い場合は,早期に耳鼻咽喉科や脳神経内科へコンサルテーションする.また,非前庭性めまいでも薬物療法で改善がみられない場合は,耳鼻咽喉科のみならず,随伴症状に応じた各科へコンサルテーションする.

1 )めまいの病態

  • 医学用語としての「めまい」に対して,万国共通の統一した定義はみられない.比較的簡潔な定義は,「めまいは,空間における身体に関する見当識(空間識)の障害あるいは空間覚の失調」3)である.
  • めまいの病態別分類は体系化がなされている.すなわち,「めまい」は,平衡機能に関連する「前庭性めまい」と平衡機能に関連しない「非前庭性めまい」に大別される 4).そして「前庭性めまい」は,さらに中枢前庭系である脳幹(前庭神経核)・小脳・大脳の障害による「中枢性めまい」と末梢前庭系である内耳(耳石器,半規管)や内耳神経の障害による「末梢性めまい(耳性めまい)」に分類される.「中枢性めまい」は,脳腫瘍・脳循環障害・脳外傷などの脳神経系疾患に起因し,「末梢性めまい」は,メニエール病・良性発作性頭位めまい症(BPPV:benign paroxysmalpositional vertigo)・前庭神経炎などの耳鼻咽喉科系疾患がその主たる疾患となる.
     平衡機能の異常を呈さない「非前庭性めまい」には,眼科的要因,内科的各疾患,あるいは精神医学的,婦人科的(月経・妊娠・更年期障害),神経症,自律神経失調症などが含まれるとされる.すなわち,中高年女性の更年期障害による「めまい」は,病態別には「非前庭性めまい」に属する.
  • 「めまい」は性状により,回転性めまい(真性めまい:vertigo),非回転性めまいである動揺性めまい(dizziness),失神型めまい(impending faint)の3タイプに分類される.回転性めまいとは,その名のとおり周囲や自分がぐるぐる回るような感じのめまいであり,一般的に「末梢性めまい(耳性めまい)」はこのタイプが多い.動揺性めまいは,身体がふらふらする・宙に浮いたような・足が地につかないような感じのめまいであり,失神型めまいは,目の前が暗くなる・気が遠くなるような感じのめまいであり,これらの非回転性めまいはともに「中枢性めまい」に多い.

2 )産婦人科におけるめまいの診断と治療

①診断

  • 産婦人科外来では,眼振の有無や平衡機能検査などの神経学的検査までは行えないので,患者が訴えるめまいの状態を可能な限り正確に把握することが最も重要である.そして,前庭性めまいの疑いやその可能性が否定できない場合は,耳鼻咽喉科ないし脳神経内科・脳神経外科などへコンサルテーションを行う.
  • 第一には,「めまい」の性状を把握することが大切である.すなわち,「回転性めまい(真性めまい)」なのかそうではない「非回転性めまい」なのか.もし「非回転性めまい」ならば,動揺性めまいなのか,失神型めまいなのかについて,詳細に聴取する.
  • 次に,めまいの発症パターンを確認する.発症パターンとしては,急性ないし発作性のものと慢性ないし非発作性のものに大別できる.急激に起こるめまいは,末梢性めまいである内耳性疾患(BPPV,メニエール病,前庭神経炎など)に多いが,中枢性めまいでも,小脳出血・脳幹梗塞,延髄梗塞などでは急激に起こる強い回転性のめまいが出現することがある.
     反対に慢性的・緩徐に発症するめまいは,聴神経腫瘍などの脳腫瘍,脊髄小脳変性症などで認められる.
     また,めまいが発症してからの時間的経過(めまいの持続時間,増悪傾向に向かうか改善傾向に向かうか,反復して起こるか否か)も鑑別診断に有用な場合がある.BPPV では,秒単位で症状が改善することが多い.また,メニエール病では数分以内に症状のピークに達し,その後数時間かけて徐々に改善しやすい.発症してから数日に及ぶ疾患としては,急性末梢性前庭障害,突発性難聴,迷路損傷,梗塞,外傷などがある.数週から数カ月で増悪傾向にある場合は,脳腫瘍や脊髄小脳変性疾患が疑われる.
  • めまいの誘発要因として,頭位の変換に伴ってめまいが誘発される場合は,BPPVが強く疑われる.すなわち,起き上がったり,急に振り返ったり,寝返りをうった時などにめまいが誘発されないか,具体的な表現を用いて問診することが大切である.また,急に立ち上がったり起き上がったりすることでめまいを起こす場合には,起立性低血圧を,長時間の起立後にめまいを起こす場合は,起立性調節障害を疑う.
  • めまいの随伴症状として最も重要なものは,耳鳴り・難聴・耳閉感などの蝸牛症状である.内耳性の障害では,めまいに随伴してこのような蝸牛症状を伴うことが多い.
  • 既往歴および合併症について,前庭神経炎ではウイルス感染が示唆され,2~3週間前あるいは発症時に上気道感染の症状がみられることがある.頭部外傷の既往がある患者では,骨折がなくても迷路損傷を来していることがある.また耳の手術も迷路損傷の原因になり得る.
  • バルビツール酸,ベンゾジアゼピン,抗うつ薬などは,中枢神経系の抑制に伴う非特異性のめまいを起こすことがある.
  • 上記に示した各事項を確認した上で,他科疾患の可能性が低い場合は,更年期障害や自律神経失調症によるめまいとして,治療を考慮する.また内耳性疾患の中でも,BPPV は比較的よく見られるものであり,軽症のものであれば,産婦人科外来での薬物治療も可能である.

②治療

  • めまいに対する治療には,その原因となる各疾患に対する治療とめまいを軽減するための対症的な治療とがある.
  • 産婦人科におけるめまいの治療は,症状の軽減が主であるが,特に確立された治療法はない.
  • 他科での治療と同様に,抗めまい薬(ベタヒスチンメシル散塩,ジフェニドール塩酸塩,アデノシン三リン酸など)が第1選択となる.
  • 「めまい」に対するホルモン補充療法(HRT)の有効性を示すエビデンスはなく,むしろ漢方医学において,めまいは「水毒」の症状として捉えているところから,利水剤(五苓散,半夏白朮天麻湯,苓桂朮甘湯など)が有効な場合がある.
  • 「めまい」に続発して不安障害や気分障害を訴える場合は,抗不安薬を併用することもある.

3 )中高年女性のめまいを診る際のフローチャート

 図 17 に,中高年女性がめまいを訴えて受診した際のフローチャートを示す.産婦人科外来では神経学的検査までは行えないので,問診から前庭性めまいの疑いやその可能性を探り,中枢性めまいの可能性が高ければ脳神経内科・脳神経外科に,末梢性めまいの可能性が高ければ耳鼻咽喉科にコンサルテーションを行う.

 非前庭性めまいの可能性が高いと判断されれば,薬物治療を検討する.薬物療法を開始しても効果がないか,あるいは症状の増悪を認める場合は,めまいに随伴する症状に応じて,耳鼻咽喉科もしくはそれ以外の科(例えば,心療内科,精神神経科など)へのコンサルテーションも検討する.

図 17.中高年女性がめまいを訴えた時のフローチャート

TIPS

 めまいを訴えて受診する中高年女性の中に,中等度から時に重度の鉄欠乏性貧血を認める場合がある.1年以上月経がなく閉経と判断される場合を除いて,若い頃から過多月経で鉄欠乏性貧血の治療歴があるような場合や過去に子宮筋腫を指摘されたことがあるような場合は,めまいに関する問診とは別に末梢血一般検査を実施し,必要時は貧血の治療を行う.

文献

  • 1)日本頭痛学会,国際頭痛分類委員会訳.国際頭痛分類第3版.医学書院.2018
  • 2)日本神経学会,日本頭痛学会,日本神経治療学会監修.慢性頭痛の診療ガイドライン 2021.医学書院.2021
  • 3)内野誠.東儀英夫編集.めまいを生じる主な疾患.よくわかる頭痛・めまい・しびれのすべて.永井書店.198-210,2003
  • 4)切替一郎.野村恭也編著.8.めまい,眩暈.新耳鼻咽喉科学 10 版.南山堂.51-54,2004