(1)Coagulopathy:血液凝固異常

ポイント

  • AUB の原因として先天性止血異常症があることを念頭に置く.
  • 問診や症状から血液凝固異常を疑った際には,血算,凝固検査,von Willebrand因子抗原量および活性,血液凝固第Ⅷ因子を提出する.

 以下の3点の理由でAUB の原因としての先天性止血異常症を軽視することはできない.

  • 過多月経の女性の約12~30%が止血異常症の背景があるとされており,過多月経の13%がフォン・ヴィレブランド病(VWD:von Willebrand Disease)と診断されたというシステマティックレビューもある.
  • 米国CDC の調査によると,過多月経の症状出現から先天性止血異常症の診断に至るまで約16 年を要している.
  • 先天性止血異常症の診断を得て今後の出血時対応を容易にするために,AUB は看過することのできない診断機会である.

1 )有病率

  • 女性先天性止血異常症の種類は,VWD,血友病保因者,血小板機能異常症,血友病類縁疾患などがあるが,その約9割はVWD である.VWD の推定頻度は100 人に1人ともいわれているが出血症状を呈するのはその1%程度とみなされている.

2 )診断

  • 『 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編 2020』には,以下の検査項目が示されている(表11).なお,検査会社により検査項目が異なることに留意する(表12).

  • 検査の前に出血傾向の家族歴の聴取は欠かすことができない.しかし,孤発例も多く家族歴がなくとも先天性止血異常症を否定はできない.表13 に問診票の一例を示す.
  • 「 VWD 鑑別のための検査」はその有病率の高さを考えると,スクリーニング検査と捉えて施行するのが適切である.「フォン・ヴィレブランド病疑い」と「血友病A 疑い」という病名を付けて保険診療検査とすることが肝要である.それらの検査項目をセット検査として組み込んでいただくと見落としがないかもしれない.
  • 産婦人科医のワンクリックが,先述のように診断を求めて16 年間も渡り歩く彼女らの診断を1週間に短縮することができる可能性がある(約1週間で検査結果は出揃う).検査による診断は喫緊の課題である.

3 )治療(VWD を中心に)

  • 治療方法はそれぞれの止血異常症によって異なってくるのは当然であるが,共通することも多い.VWD 女性の過多月経治療を表14 に示す.また妊孕性を考慮した治療選択のアルゴリズムを図16 に示す.

<トラネキサム酸>

  • 先天性止血異常症に幅広く使用され,特に線溶活性の高い粘膜出血の治療や予防には有効であり,過多月経にも単独あるいは他の治療法と併用して用いられる.
  • 国内の用法用量は1日750~2,000㎎を3~4回に分けて経口投与,あるいは1日250~500㎎を1~2回に分けて静脈注射とされている.しかし,必要に応じて1回500~1,000㎎静脈注射も可能である.
  • 近年,分娩前のたった約1US ドルの1,000㎎静脈注射が途上国の分娩後異常出血死を30%減少させたという大規模研究結果が報告されて,本剤が見直されている.

<デスモプレシン酢酸塩水和物:DDAVP >

  • 国内では,注射用のDDAVP(デスモプレシン注Ⓡ)が軽症・中等症血友病A(Ⅷ因子活性2%以上)とType 1・Type 2A のVWD に保険適用が認められている.その効果には個人差があるため,あらかじめ用法用量に従って投与試験を行っておくことが必要である.諸外国では高濃度の点鼻スプレーが使われていて患者自身による自己管理が可能で利便性が高い.日本でも導入されることが待たれる.

<欠乏因子補充療法>

  • それぞれの欠乏因子の補充になるが,希少疾患で欠乏因子製剤がない場合は新鮮凍結血漿で補うことになる.VWD の場合は,von Willebrand 因子を含む製剤が血漿由来のコンファクトF Ⓡと遺伝子組み換え製剤であるボンベンディⓇが利用可能であり,用法用量は添付文書を参照されたい.血友病保因者でⅧ因子あるいはⅨ因子活性が40%以下の場合は,それらの凝固因子製剤の輸注が必要となることもある.