(1)頭痛

1 )頭痛の病態

  • 国際頭痛学会の『国際頭痛分類第3版』1)に,疾患としての「頭痛」が詳細に分類されている.
  • 頭痛は,①一次性頭痛,②二次性頭痛,③有痛性脳神経ニューロパチー・他の顔面痛およびその他の頭痛の3群に大別される.
  • 他の器質性疾患に由来する二次性頭痛や有痛性脳神経ニューロパチー・他の顔面痛およびその他の頭痛は,脳神経内科や脳神経外科での早期の診断と治療が必要なものであり,産婦人科外来で遭遇するケースは少ない.
  • 臨床的に頻度が最も高いのは一次性頭痛であり,それは片頭痛,緊張型頭痛,三叉神経・自律神経性頭痛,その他の一次性頭痛の4つに細分類されている.
  • 女性に多い一次性頭痛は,片頭痛と緊張型頭痛であり,中高年女性に認められる頭痛の中でまず鑑別すべきは,片頭痛と緊張型頭痛である.
  • 更年期障害による頭痛という明らかな病態は存在しない.

2 )片頭痛の診断と治療

①診断

  • 片頭痛は,頭痛に先行ないし随伴する一過性の局在神経症状(前兆)を伴う「前兆のある片頭痛」とそのような前兆を伴わない「前兆のない片頭痛」という2つの主要なサブタイプに分類される.頻度的には,「前兆のない片頭痛」の方が圧倒的に多い.
  • 表 14 に,国際頭痛分類における「前兆のない片頭痛」の診断基準を示す.1項目のみ満たさない場合は,「(片頭痛の)疑い」となる.
  • 前兆のある片頭痛においても,診断基準は基本的に同じであるが,「前兆とは,通常5~60 分持続し,片頭痛発作の起こる前 60 分以内に生じる完全可逆性の再発性中枢神経症状」と規定され,具体的には視覚症状,感覚症状,言語症状,運動症状,脳幹症状,網膜症状の6症状に分類されている.これらの中で,典型的前兆を伴う片頭痛でよくみられるのは,視覚症状(きらきらした光・点・線および・または視覚消失:閃輝暗点),感覚症状(チクチク感および / または感覚鈍麻:アロディニア),言語症状(失語性言語障害)がある.
  • 片頭痛は,月経周期,妊娠・出産,更年期という女性の一生におけるエストロゲンの変動と密接な関係がある(TIPS).

表 14.前兆のない片頭痛の診断基準  A.B ~ D を満たす頭痛発作が5回以上ある  B.頭痛発作の持続時間は4~72 時間(未治療もしくは治療が無効の場合)  C.頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす  1.片側性  2.拍動性  3.中等度~重度の頭痛  4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪するあるいは頭痛のために  日常的な動作を避ける  D.頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす  1.悪心または嘔吐(あるいはその両方)  2.光過敏および音過敏  E.ほかに最適な国際頭痛分類第3版の診断がない  (文献 1 より改変)

②治療

急性期の薬物治療

  • 『頭痛の診療ガイドライン 2021』によれば,治療薬として,①アセトアミノフェン,②非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),③トリプタン,④エルゴタミン,⑤制吐薬が挙げられている.
  • 症状の程度に応じて,軽度~中等度の頭痛にはアセトアミノフェンや NSAIDs が,中等度~重度の頭痛または軽度~中等度の頭痛でも過去にNSAIDsの効果がなかった場合は,トリプタンが推奨される.
  • 呉茱萸湯,五苓散,桂枝人参湯などの漢方薬の使用も,安全に使用できる薬剤であるとしている.
  • 片頭痛発作が月に2回以上,あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上ある症例では,予防療法の導入も検討する.

予防的薬物治療

  • 『頭痛の診療ガイドライン 2021』によれば,①抗てんかん薬,②抗うつ薬,③β遮断薬,④ Ca 拮抗薬,⑤カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連薬剤などが挙げられている.
  • 予防的薬物治療が必要な症例は,産婦人科での管理は難しく,脳神経内科や脳神経外科(可能であれば日本頭痛学会専門医)へのコンサルテーションが望ましい.
  • 特に,近年新しい片頭痛の予防治療薬として登場したカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連薬剤は,頭痛診療に関連する学会(日本神経学会,日本頭痛学会など)の専門医でなければ,使用することはできない.

3 )緊張型頭痛の診断と治療

①診断

  • 緊張型頭痛は,稀発反復性緊張型頭痛,頻発反復性緊張型頭痛,慢性緊張型頭痛,緊張型頭痛の疑いの4つに大別される.
  • 表 15 に,最も遭遇する機会の多い頻発反復性緊張型頭痛の診断基準を示す.1項目のみ満たさない場合は,「(緊張型頭痛の)疑い」となる.
  • 緊張型頭痛も女性に多い疾患であるが,片頭痛に比べて,40 代以降の中高年女性に多い.

表 15.頻発反復性緊張型頭痛の診断基準  A.3カ月を超えて,平均して1カ月に1~14 日(年間 12 日以上 180 日未満)の頻度で  発現する頭痛が 10 回以上あり,かつ B ~ D を満たす  B.30 分~7日間持続する  C.以下の4つの特徴のうち少なくとも2項目を満たす  1.両側性  2.性状は圧迫感または締めつけ感(非拍動性)  3.強さは軽度~中等度  4.歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない  D.以下の両方を満たす  1.悪心や嘔吐はない  2.光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみ  E.ほかに最適な国際頭痛分類第3版の診断がない  (文献 1 より改変)

②治療

  • 日常生活に支障を来す場合に,治療が行われる.
  • その治療は,急性期治療と予防療法に分類されるが,それぞれに薬物療法と非薬物療法がある.

急性期治療

  • アセトアミノフェンや NSAIDs の薬物療法が基本となる.ただし,これらの薬剤の使用頻度が増加した場合,薬物の使用過多による頭痛(MOH:Medication overdoseheadache)への移行が懸念されるので,1週間で2~3日以上の使用は避けることが望ましい.
  • 葛根湯,釣藤散,二朮湯などの漢方薬の使用が,頭痛の軽減に有用な場合がある.
  • 非薬物療法として,精神療法および行動療法,理学療法,鍼灸,神経ブロックが挙げられるが,産婦人科外来で行うことはほとんどない.

予防療法

  • 抗うつ薬を主体とした薬物療法と非薬物療法(筋電図バイオフィードバック療法,認知行動療法,リラクセーション法,理学療法,鍼灸など)が挙げられる.
  • これらを行う必要がある場合は,脳神経内科や脳神経外科(可能であれば日本頭痛学会専門医)へのコンサルテーションが望ましい.

4 )中高年女性の頭痛を診る際のフローチャート

 図 16 に,中高年女性が慢性頭痛を訴えて受診した際のフローチャートを示す.産婦人科外来においては,頭痛のみを主訴として受診する患者はまずいないが,問診上,脳血管系などの器質性疾患による二次性頭痛の疑いやその可能性が否定できない場合は,ただちに脳神経内科ないし脳神経外科へコンサルテーションを行う.

 表 16 に,二次性頭痛を疑うポイントを示す.

 また来院時に,頭痛に対しての鎮痛薬の服用量が多い(1カ月当たりに換算して,10 錠以上をコンスタントに服用している)場合も,MOH の可能性があるため,脳神経内科ないし脳神経外科(可能であれば日本頭痛学会専門医)へのコンサルテーションが望ましい.

 二次性頭痛や MOH の可能性が低い場合は,一次性頭痛のうち,片頭痛と緊張型頭痛の鑑別診断を行う.先の項で述べた,片頭痛と緊張型頭痛の診断基準を意識した問診を行い,診断基準をすべて満たすか,あるいは1項目を除いて満たす(疑い例)か,該当しないかを判断する.

 いずれの場合においても,先の項で述べたような薬物治療を開始し,効果がないかあるいは症状がむしろ増悪する場合は,脳神経内科ないし脳神経外科へのコンサルテーション(可能であれば日本頭痛学会専門医)が望ましい.

図 16.中高年女性が慢性頭痛を訴えた時のフローチャート  表 16.二次性頭痛を疑うポイント  ①突然発症した今までに経験したことがないような激しい頭痛  ②日頃認められている頭痛と明らかに様子が異なる頭痛  ③その頻度と程度が時間的経過で増悪していく頭痛  ④ 50 歳以降に初発した頭痛  ⑤神経脱落症状(神経麻痺,歩行障害,言語障害など)を有する頭痛  ⑥精神症状(会話が支離滅裂,認知症の傾向がある)を有する者に認める頭痛  ⑦発熱,項部硬直などの髄膜刺激症状を有する頭痛

TIPS

 産婦人科の立場からは,月経困難症や月経前症候群(PMS)でみられる自覚症状の中に頭痛も含めているが,頭痛診療の立場からみると片頭痛の可能性が考えられる.『国際頭痛分類第2版』より,「付録」の項目として「前兆のない純粋月経時片頭痛」並びに「前兆のない月経関連片頭痛」という診断基準が示されている.

 すなわち「前兆のない片頭痛」の診断基準を満たすという前提で,その発作が月経3周期中2周期以上で,月経開始2日前から月経3日目までの間にのみ生じ,そのほかの時期には発作を全く認めないものを「前兆のない純粋月経時片頭痛」,月経開始2日前から月経3日目までの間とともにそのほかの月経周期の時期にも認めるものを「前兆のない月経関連片頭痛」とそれぞれ定義している.月経前や月経時の頭痛が,月経困難症や PMS の薬物治療で軽減されればよいが,改善しない場合は,頭痛に関しては片頭痛としての対応を考慮すべきである.