(1)妊娠時期の特徴と正常妊娠・異常妊娠

ポイント

  • 妊娠初期・中期に出現する症状には,正常妊娠経過,正常妊娠経過から逸脱した異常妊娠,他科疾患の偶発合併症によるものなど様々である.
  • 早期に診断し治療しなければ母体の生命に影響する疾患もある.
  • 他科疾患が疑われる場合には専門医にコンサルトする.

<腹痛>

  • 妊娠初期,異所性妊娠破裂は必ず否定する.
  • 持続的な腹痛は異所性妊娠,付属器炎,虫垂炎を鑑別する.
  • 間欠的な腹痛は,切迫流早産に伴う子宮収縮,腸閉塞,尿管結石を鑑別する.
  • 聴診器にて腸蠕動の亢進や抑制,金属音ではないか確認する.
  • 白血球数,CRP,肝・胆道系酵素やアミラーゼ,尿沈査を確認する.

<頭痛>

  • 「緊急性の高い頭痛」を見逃さない.

1)妊娠初期

  • 妊娠初期とは妊娠13 週6日までを示す.
  • 正常妊娠でも骨盤内の血液うっ滞や黄体囊胞による腹膜刺激症状など軽度の下腹部痛は出現する.子宮内容の増大は少ないが,子宮を支持する円靱帯が牽引され腹痛と感じることもある.
  • この時期には多くの妊婦が嘔気や嘔吐,胃部不快感,頭痛などの悪阻症状を訴える.多くは自然に軽快するが,体重減少が高度で水分摂取が困難な場合には重症妊娠悪阻として加療が必要となる.脱水による血栓症の発症やビタミンや微量元素欠乏症にも注意する.
  • この時期の異常妊娠は完全流産,進行流産,不全流産,切迫流産,異所性妊娠が主たるもので,腹痛や性器出血を主訴とする.切迫流産に対する確立した治療法はない.
  • 異所性妊娠破裂は一昔前に妊産婦死亡の主要因となっていた疾患であり,必ず否定する.
  • 妊娠初期は胎児の器官形成期のため,使用薬剤の制限もある.

2 )妊娠中期

  • 妊娠中期は妊娠14 週0日~27 週6日までを示し,子宮内容が増大し子宮筋は伸展し,それに伴う軽度の子宮収縮を起こし腹痛を感じることがある.また,腰痛や消化管の圧排により便秘や腹部膨満感などの消化器症状を訴えることがある.
  • 異常妊娠として,子宮頸部の短縮や熟化は細菌性腟症から子宮内への上行性感染を来し,その結果,絨毛膜羊膜炎から子宮収縮を引き起こし流早産へ進行することがある.
  • 妊娠中の高血圧を主徴とする妊娠高血圧症候群や,それに関連して発症することが多い常位胎盤早期剝離・HELLP 症候群は,妊娠中期に発生することもあるが多くは妊娠末期に発症し,また,前置胎盤やそれに伴う性器(警告)出血も同様である.

 正常および異常妊娠では様々な症状が出現するが,その詳細は正書に譲る.
 本項では,偶発合併症を考慮した診察法および産科医が留意すべき頻度の高い重要な疾患について症状別に概説する.