(1)出生直後から退院まで

ポイント

  • 早発黄疸は病的である.
  • 新生児の早発型感染症の予後改善には早期治療が重要である.
  • 健康新生児の目標血糖値は生後 48 時間までは 50㎎/dL 以上,48 時間以降は60㎎/dL 以上である.

1 )出生直後の初期対応

保温に努める

  • ラジアントウォーマーの下で,身体を温かいタオルで拭い皮膚を乾かす.

ルーチンケア

  • 呼吸と筋緊張を評価する.必要に応じて口鼻腔吸引を行う.気道確保をしやすいように頭部体幹をまっすぐに整え,肩枕を入れて体位を保持する.蘇生初期処置の必要性を評価する.

母子接触

  • 全身状態の観察を行いながら,早期に母と接触させる(早期母子接触については別に解説).

2 )観察項目と異常時の対応

①早発黄疸

  • 生後 24 時間以内に肉眼的に認められる黄疸である.血液型不適合による溶血性疾患を最も疑う.
  • 日齢0から経皮ビリルビンメーターを用いてスクリーニングを行う.

血清総ビリルビン値が高値である場合の対応

  1. 直ちに光線療法を開始する.
  2. 血液型,ヘモグロビン値,クームス試験を実施する(表1)
  3. 検査結果がすぐに得られない施設では,専門施設へ紹介する.
  4. ABO 血液型不適合による黄疸であれば光線療法のみで治療できる例も多い.その場合は,6~8時間ごとに血清ビリルビン値と,可能であれば核黄疸のリスクを直接的に反映する血清アンバウンドビリルビン値の検査を行い,交換輸血のタイミングを逃さないようにする.

表1.生後 24 時間以内の高間接ビリルビン血症の鑑別  考えられる病態 母体血液型 母体妊娠歴 貧血*1 直接クームス 間接クームス  Rh 血液型不適合 Rh D(-)*2 多くが経妊 あり 陽性 陽性  ABO 血液型不適合 0 不定 なし~軽度 陰性(稀に陽性) 陽性  血液型不適合以外*3 不定 不定 不定 陰性 陰性

②消化器症状(嘔吐,吐血,下血)

  • 吐物が緑色や血性,数日間持続する,全身状態不良や腹部膨満を伴う場合には病的な嘔吐を疑う.主な原因疾患を表2に示す.
  • 腹部レントゲン検査,血液検査(血算,白血球分画,止血機能,生化学,血液ガス)を行う.
  • 初期嘔吐が原因であっても,電解質異常や低血糖,脱水のために嘔吐や哺乳不良が遷延し,輸液が必要となることもある.
  • 下血は直腸体温計による外傷や母体血の嚥下(仮性メレナ)を除き,緊急性の高い疾患(腸回転異常,新生児メレナ,乳児消化管アレルギー)であることが多い.専門施設への紹介を検討する.

表2.吐物の性状別にみた原因疾患  緑色(胆汁性嘔吐) 十二指腸以下の器質的または機能的閉塞・狭窄  血性 血液の混入した母乳や羊水の嚥下,吸引カテーテルによる外傷  急性胃粘膜病変,ビタミン K 欠乏性出血症(新生児メレナ)  乳汁 初期嘔吐,乳児消化管アレルギー,代謝異常症

③体温異常

低体温

  • 直腸,口腔内の深部体温が 36.5℃未満であることを指す.
  • 新生児は皮下脂肪が少なく,体積あたりの体表面積が大きいために熱を喪失しやすい 1).特に低出生体重児や,light for dates 児は低体温のリスクが高い.
  • 分娩室は 25~28℃,新生児室は 23~25℃に室温を維持する 2)
  • 児の保温に留意し,帽子の着用や定期的な検温を行う.
  • 体温保持が困難であれば保育器やウォーマーに収容する.
  • 無呼吸発作や低酸素血症を警戒してモニタリングを行う.
  • 重症感染症では低体温になることがある.全身状態が不良である場合は血液検査で感染症のスクリーニングを行う.

高体温

  • 外的要因で生じる体温上昇を指す.高い室温やくるみ過ぎによるうつ熱で生じる.
  • おくるみを外す,室温を下げるなどして短時間で平熱に戻れば,発熱ではなく高体温であった可能性が高い.

発熱

  • 感染症を最も疑う.
  • 母が B 群溶血性レンサ球菌(GBS)保菌者であるなど新生児感染症のリスクがある場合は,後述する診断を進める.

④低血糖

  • 健康な新生児の血糖値の目標は,生後 48 時間までは 50㎎/dL 以上,48 時間以降は60㎎/dL 以上 3)である.
  • 先天性高インスリン症や下垂体機能低下症などの先天性低血糖障害を疑う児では、血糖値を70 mg/dL以上に維持する。
  • 哺乳やブドウ糖投与でも血糖値が目標値に届かない場合は,経静脈的にブドウ糖を投与する.10%ブドウ糖液2mL/㎏を 30 分程度で静注し,その後2~3mL/㎏ /時間で持続静注する.

3 )新生児期の感染症

原因

  • 早発型感染症は細菌,ウイルスなどの垂直感染により出生直後から産科施設退院までに発症する.起炎菌は GBS と大腸菌が半数以上を占める.GBS 保菌母体の分娩時に抗菌薬を投与しても,新生児 GBS 感染症を完全に予防することはできない.母体の GBS 保菌,発熱,炎症反応上昇,早産,既破水(特に 18 時間以上)などのリスクがある例では注意深い観察が必要である.

症状

  • 発熱,低体温,頻脈,無呼吸発作,not doing well(活気がない,哺乳力が弱い,皮膚色不良,不機嫌など)が見られる.単純ヘルペスウイルス(HSV)感染ではヘルペス様の水疱疹がみられることがある.

診断

  • 血液検査と細菌培養検査を行う.予後と治療方針に影響するため髄液検査が必須となる.HSV 感染を疑う場合は,母体の HSV 感染に関する情報収集,水疱や髄液のPCR を行うが,診断確定前であっても治療を開始する.

治療

  • 起炎菌が判明するまでは,GBS と大腸菌を考慮してアンピシリンとゲンタマイシンの2剤を投与する.菌血症,髄膜炎がある場合は大量の抗菌薬を長期間投与する.HSV感染が疑われる場合にはアシクロビルを投与する.細菌性感染と HSV 感染は短時間で重症化する.早期に適切な治療を行うことが予後改善につながる.

4 )哺乳(母乳と人工栄養)

  • 母乳による哺乳をできるだけ早期に,可能であれば分娩直後から開始すると,母乳栄養の確立に有利である.
  • 児の欲求に合わせて母乳を与える自律哺乳によって,体重減少が抑制され,体重増加が始まるのが理想的である.
  • 助産師が授乳指導に十分な時間をかけても哺乳量が増えない場合は,混合栄養も検討する.
  • 出生体重が軽い児は,哺乳力が弱くすぐに哺乳を休憩してしまうことがある.頻回に授乳しなければならない時期があっても,体重が 2,800g 程度になれば哺乳力が増して1回哺乳量が増えることが多い.

5 )ビタミン K 投与

  • ビタミン K 不足により,ビタミン K 依存性凝固因子が活性化せず,止血されないため,ビタミン K 欠乏性出血症を来し得る.生後早期は吐下血で,晩期には頭蓋内出血で発症する.
  • 従来のビタミン K 3回投与法では稀に頭蓋内出血が起こっていた.
  • 2021 年に「出生後早期,産科退院時,その後は3か月になるまで週1回ビタミンK を投与する」3か月法が提言された 4).現在はほとんどの施設が3か月法を採用している.
  • ビタミン K を3か月間投与された児に過剰症の報告はない.

文献