1 )産婦人科でみるうつ・不安
- うつ病や不安症は男性に比べ女性の有症率が高いことが知られている.また,女性においてうつの好発時期は月経前,産後,更年期の三峰性をとり,エストロゲンレベルの変動が関連すると考えられている.
- うつ状態を呈する患者が初診する科は,精神科や心療内科のような専門科よりも,内科や産婦人科などが多いことが分かっており,産婦人科を受診する中高年女性にうつや不安を認めることは珍しくない.
- うつ病や不安症の診断は,米国精神医学会による『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5-TR)』の診断基準によりなされる.産婦人科での治療対象は,それらの診断基準は満たさない程度の,うつ状態や不安感,神経症が主となる.
- うつ病のスクリーニングとしては,下記の項目を尋ねる二質問法が有用である.ここで1つも当てはまらなければ,うつ病の可能性は低いといえる.
- 1カ月以上毎日,気分が沈んだり,憂うつな気持ちになったりすることがよくありましたか?
- 1カ月以上毎日,どうも物事に対して興味がわかない,あるいは心から楽しめない感じがよくありましたか?
2 )うつ・不安への対応
- 産婦人科における中高年女性のうつ・不安への対応フローチャートを図 26 に示した.DSM-5-TR のうつ病や不安症診断基準に合致するようであれば,原則として専門科の受診を勧める.また,精神疾患の既往についても問診で確認し,既往がある場合は精神疾患の再発を疑う.
- 精神科へ紹介する場合も,身体症状の治療は産婦人科で行うことを保証し,次回の予約を取得するなど,引き続き患者を見守る姿勢を示す.
- 治療法としては,心理療法(受容,支持,保証の3原則に基づいて患者の訴えを傾聴する),漢方薬,ホルモン補充療法(HRT),向精神薬が挙げられる.
- 漢方薬としては,加味逍遙散,加味帰脾湯,半夏厚朴湯,抑肝散,柴朴湯,柴胡加竜骨牡蛎湯,補中益気湯などがよく用いられる.
- 患者が更年期に相当する場合は,HRT も選択肢となる.『HRT ガイドライン 2017年度版』では,HRT に期待される作用・効果として,HRT は更年期のうつ気分またはうつ症状を改善するとされている.一方,うつ病に対する効果はコンセンサスが得られていない.HRT を行う場合は,子宮を有する女性ではエストラジオール経皮剤と天然型プロゲステロンの併用がすすめられる.
- 向精神薬としては,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)/ セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が第一選択となる.主な SSRI/SNRI を表 19に示した.まず少量から開始し,漸増する.一般的に効果がみられるまで2~3週間かかるため,すぐに効果が出ないことを患者によく説明する.また,症状改善後すぐに中止せず継続することと適切な時期の精神科へのコンサルテーションが重要である.

