(1)「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020」でAUB が採り上げられた経緯

  • 日常臨床では,不正性器出血,不正出血,不正子宮出血,機能性出血,機能性子宮出血,異常子宮出血,器質性出血,非器質性出血など多くの言葉が使用されており,本邦における学会報告や論文でもこれらの文言が散見される.なかでも「不正性器出血」は産婦人科外来で日常的に遭遇する症状であるが,『日本産科婦人科学会用語集・用語解説集』では明確に定義されていない.
  • 一方,海外では国際産婦人科連合(FIGO)によって「異常子宮出血(AUB:abnormaluterine bleeding)」という概念が定義され,AUB に関するエビデンスも蓄積されつつある.このため,本邦からの学会や論文での報告の際に海外との疾患概念のずれが生ずることが懸念されるようになってきた.また,海外ではAUB の鑑別診断システムであるPALM-COEIN 分類が提唱されたが,本邦では不正性器出血の体系的鑑別診断が確立しているとはいえない状況であった.
  • そこで『産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020 年版』(日産婦GL)では,「不正性器出血」から妊娠性出血と「腟内異物・外傷・腟炎・子宮腟部腫瘍・子宮腟部びらんなど,直視下あるいはコルポスコピーにて確認できる病変」による出血を除外した,標準的な月経以外の出血を「異常子宮出血」と定義し,AUB の概念や鑑別診断をフローチャートで示し,原因疾患それぞれに対するCQ & Answer を再構成した.
  • AUB は日産婦生殖内分泌委員会でも議論され,関連用語や定義が日産婦誌で周知されている(藤原ら.日産婦誌 2020;72:667-675,大須賀ら.日産婦誌 2019;71:833-853).
  • 2025 年に刊行される『日本産科婦人科学会用語集・用語解説集』でも「異常子宮出血」が採用・定義される予定であり,適切なAUB 診療を本邦の日常診療に定着させることが重要である.
  • 図1では本研修ノートの各章が,AUB の定義,症状,鑑別診断,原因疾患の治療・管理など,AUB 診療全体の中で占める位置づけを示した