周産期はクリニック,診療所,病院において多くの産婦人科医師がかかわる領域です.

 近年国内外では多くのガイドラインが作成され,日本全国の医療の標準化さらにその普及が検討されております.様々なガイドラインによって多くの医療者が,標準医療を実施できるようになり,患者は均一な医療を享受できるようになっております.その一方でガイドラインに頼りすぎると記載されたとおりの医療のみを行いかねません.その結果として,患者ごとに異なる症状に対してその本質を忘れてしまい,ガイドラインに頼り切った医療は本当に患者によい医療を提供しているとは断言できません.さらに妊産婦の高齢化に伴い様々な合併症妊婦は増加傾向にあり,複数の合併症をもつ患者も増加しております.すなわちガイドラインに記載されていることを覚えるだけではなく,理解しそれを組み合わせて応用することが非常に重要になります.

 本研修ノートはそのような合併症妊婦を管理する上で,ガイドラインを踏まえ,さらに日常診療に活用しやすいように編集されております.総論,各論に分け,総論では妊娠時期(妊娠初期・中期,妊娠末期,分娩時・産褥期)による症状に対して様々な鑑別疾患を挙げて解説しております.また各論は13 章で構成され,1.心疾患,2.糖尿病・妊娠糖尿病,3.高血圧,4.慢性腎臓病(CKD),5.てんかん,6.気管支喘息,7.精神疾患,8.甲状腺疾患,9.膠原病(全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群,関節リウマチ),10.消化器疾患(虫垂炎,潰瘍性大腸炎,クローン病),11.悪性疾患(乳癌,婦人科癌),12.交通事故,13.食物アレルギー・医薬品アレルギー・ワクチン副反応を取り上げています.

 執筆は各分野のスペシャリストの先生にお願いしております.総論では様々な症状に関する解説,各論では臨床的に重要な疾患における解説と注意点を網羅しております.また各々の章の重要な点を「ポイント」として説明しており大変理解しやすい内容になっております.是非会員の諸先生方の日常診療に活用していただければ幸いです.

 最後になりましたが,本書の発刊にあたり貴重な時間を割いてご執筆いただきました先生方,編集,校正などにご尽力いただきました研修委員会の委員の先生方に深く感謝申し上げます.

令和5年12月
会長 石渡 勇