産婦人科受診の機転となる症状の多くが,性器出血です.出血を起こす疾患には,生命にかかわる悪性腫瘍や,重篤な貧血を起こす状態も含まれています.自覚症状は様々で,健康診断や内科受診の際に貧血が指摘されたことで,初めて異常出血を自覚される方もいらっしゃいます.ネット情報の氾濫により,受診が遅れたり,過度な心配をされて受診されたりすることもあります.そのため,出血の適切なマネージメント,つまり適切な診断と治療,情報提供が必要不可欠です.時には,円滑な医療連携を行い,女性の福祉につなげることが大切です.これまで出血と言ってきましたが,異常な性器出血それ自体の定義が曖昧でした.また,各種疾患の症状として,出血があると知っていても,症候論として体系的に学ぶ機会は医学部あるいは研修医,そして産婦人科医にとってもあまりないのが現状でした.

 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020 年版に,はじめて出血の鑑別がまとめられました.まず,異常子宮出血という用語を定義し,これはFIGOで提唱されたAUB(abnormal uterine bleeding)という概念に由来します.同じくFIGO はAUB の鑑別診断のアルゴリズムとして,PALM-COEIN 分類を提唱しています.出血の原因をシステマティックに評価するプラクティカルな内容です.

 研修ノートは産婦人科診療ガイドラインなどのガイドブックとしての位置づけです.それぞれの専門領域の先生に執筆をお願いしました.新しい分類ができた時には,その基本原理を押さえることはとても重要です.本書ではAUBの概念とPALM-COEIN 分類の詳しい解説を行っています.新しい考え方が導入された時は正しい理解が必要です.丁度,子宮頸部細胞診の報告システムとして,ベセスダ分類が取り入れられた直後は,診療現場に多かれ少なかれ混乱があったと思われます.しかし,ベセスダシステムにおいても悪性腫瘍や上皮内病変を適切に管理する方向性に変わりはありませんでした.今回の内容も同様にAUB の正しい鑑別診断が重篤な疾患の発見につながる,もしくは重症度が低い状態であることを患者に提示することで,安心感が得られるはずです.
本書が,女性ヘルスケアの一助になっていただければ幸いです.

 最後に,貴重な時間を割いて執筆にあたっていただいた先生方には深甚なる感謝を示します.また,執筆・編集・校正などにあたっていただいた研修委員会の先生方,医会役員の諸君に深く感謝いたします.

令和5年1月 
会長 石渡 勇