(1)月経困難症

・ 月経困難症は月経に随伴して起こる病的症状で,月経時あるいは月経直前より始まる強い下腹部痛や腰痛を主症状として,下腹痛,腰痛,腹部膨満感,嘔気,頭痛,疲労・脱力感,食欲不振,イライラ,下痢および憂うつの順に多くみられる.

1 )機能性月経困難症と器質性月経困難症

・ 月経困難症は,子宮内膜症などに起因する器質性月経困難症と特定の疾患のない機能性月経困難症にわけられる.思春期では,機能性月経困難症が多い.
・ 機能性月経困難症の痛みは,月経の初日および 2 日目頃の出血が多い時に強く,痙攣性,周期性で原因は頸管狭小やプロスタグランジン(PG)などによる子宮の過収縮である.この痛みは排卵がない周期では出現することが稀で,排卵周期が確立されるのに伴って出現する.本邦の文献では,初経後 2~3 年より始まると記載されていることが多いが,ACOG のガイドラインなどでは初経の 6~12 カ月後から始まるとされている.痛みの原因となる PG は月経血を排出するために子宮内膜から産生され,PG により子宮筋の過剰収縮とそれに伴う虚血性疼痛が発生する.月経時にみられる悪心,下腹痛,下痢,頭痛などの全身症状は,PG とその代謝物質が体循環に流入することによって生じると考えられている.
・ 器質性月経困難症の原因疾患としては,子宮内膜症,子宮筋腫,子宮腺筋症などがある(表25).思春期においては,器質性月経困難症として月経血流出路の狭窄を来すような奇形(非交通性副角を伴う単角子宮(図13),OHVIRA 症候群など(図14))がみられる場合がある.これらの疾患は稀であるが,見逃さないようにする必要がある.器質性月経困難症は 30 歳以上,20 ~ 40 歳代などと記載されているものが多いが,最近では 10~20 歳代での子宮内膜症も増加している.機能性月経困難症は,年齢とともに,妊娠出産とともに軽快すると説明されていること多い.しかし,女性のライフスタイルが変化し,妊娠出産の年齢が高くなっている現代において,思春期女子に対して機能性月経困難症が加齢にしたがい軽快する可能性を話してやり過ごすよりも,症状への対処や治療の選択肢,子宮内膜症のリスクなどをきちんと提示して対応するのが望ましい.

 

2 )月経困難症の生活に対する影響

・ 近年,思春期における月経困難症が生活に及ぼす影響について,様々な報告がなされている.
・ 思春期・若年女性における月経困難症の割合は34~94%,月経困難症による学校の欠席は7.7~57.8%と報告されており,学校欠席以外にも集中力の低下や学業への影響(テストを受けられない,テストで実力を発揮できないなど),スポーツアクティビティへの影響,社会生活への影響などが指摘されている.
・ 2016 年のスポーツ庁委託事業「子供の体力向上課題対策プロジェクト」で千葉県の中高生に行った調査によると,71%に月経痛を,34%に月経前症候群(PMS)を認めており,月経関連症状がないと答えた割合は20%であった(図15).月経痛の程度に関しては,我慢しているが43%,薬で我慢しているが35%,1 日寝込むが2%であり,月経痛に関して積極的な治療が行われていないことが分かる(図16).
・ 山陰地方での高校生のアンケート調査の結果でも,月経痛は90%に認められ,月経困難症が毎回/ ほぼ毎回あると答えた女子は高校 1 年生で39.6%,2 年生で48.7%,3 年生で55.5%と,学年が上昇するにつれて高かった.また,月経困難症の症状の強さも日常生活への影響も学年が上がるにつれて高かった.

3 )子宮内膜症との関係

・ 思春期女子の腹腔鏡手術症例の検討では,月経困難症や慢性骨盤痛のある思春期女子の約 3 分の 2 に子宮内膜症を認めたと報告されている.思春期の子宮内膜症は,成人と比較してチョコレート囊胞の形成の頻度は少なく,透明または赤色の腹膜病変を中心とした子宮内膜症の頻度が高い.
・ 月経困難症を認める女性では将来の子宮内膜症の罹患率が高く(オッズ比2.6;95%CI,1.1~6.2),月経痛の頻度が高いほど子宮内膜症のリスクが上昇したと報告されている.
・ 妊娠がない状態では加齢に従い子宮内膜症の発症リスクが高まり,いったん子宮内膜症を発症すると,その30~ 50%が不妊になると報告されている.

4 )診断

①問診
・ 初経年齢,初経後の月経の状態,最近の月経の状態,月経痛や月経時の症状,痛みの程度や部位,持続期間,鎮痛薬などの内服歴や薬の詳細,既往歴,アレルギー,性交経験の有無などを聴取する.
・ 受診に際しては,緊張していることも多いため,はじめは初経年齢や月経周期,既往歴などから聴取し,少し慣れてきたところで痛みの詳細をたずねるとスムーズにいくことが多い.
・ 思春期女子の場合は母親などの保護者とともに受診することが多いため,既往歴やアレルギーの有無などについては,付き添いの保護者から聞くことも有用である.喫煙や性交経験の有無については,付き添いと隔離した状態で確認するとよい.

②診察(診察時の注意点の項 5 頁参照)
・ 内診は必ずしも必要でないが,器質的疾患を鑑別するために,超音波検査は施行した方がよい.本人や付き添いの保護者と相談しながら,検査をすすめていく.
・ 性交経験のない場合は,膀胱を充満した状態での経腹超音波検査を行い,子宮奇形や卵巣腫大などの異常所見の有無を調べる.経腹超音波検査のみでは不十分と判断した場合は,経直腸超音波検査やMRI 検査を検討する.性交経験のある場合は,内診や経腟超音波検査に加え性感染症,骨盤内炎症性疾患などの検索も行う.

5 )治療

①非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
・ 月経に伴う痛みは,プロスタグランジン(PG)に起因しており,月経困難症の鎮痛薬としては,PG 合成酵素阻害薬である非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)が第一選択となる.
・ 薬剤としては,ロキソプロフェンナトリウム,ジクロフェナクナトリウム,メフェナム酸,イブプロフェン,ナプロキセンなどがある.
・ NSAIDs は機能性月経困難症を訴える女性のおよそ80%に有効である.しかし,痛みを我慢し続けたあとに内服すると,既にPG が産生されているので効果が発現するまでに時間がかかるため,痛みを感じたらすぐに内服するように指導する.とりわけ症状の強い場合には,月経痛開始時あるいはその直前から服用を開始して 6~ 8 時間ごとに 2 ~ 3 日間服用するように指導するとよい.
・ 空腹時の内服は避けるようにと注意書きに記載があるため,食後でなければ内服してはいけないと思い,薬を飲まなかったという発言もよくきかれる.痛みがある時には空腹時でも内服するように事前に説明し,同時に,NSAIDs の副作用として胃腸障害,胃部不快感,胃痛などがあることを説明する.状況により,胃粘膜保護剤の処方も検討する.
②低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP:low dose estrogen progestin)
・ 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)も月経困難症の治療に有効である.
・ 本邦では保険適用薬としてドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズⓇ配合錠,ヤーズフレックスⓇ配合錠),ノルエチステロン・エチニルエストラジオール錠(ルナベルⓇ配合錠LD/ULD,フリウェル配合錠Ⓡ LD/ULD),レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール錠(ジェミーナⓇ配合錠)がある.投与方法には28日周期でプラセボまたは休薬期間をおき消退出血を起こさせる周期投与と長期間連続投与がある.経口避妊薬(OC:oral contraception)には保険適用はないが,同様の効果が期待できる.
・ NSAIDs で十分な疼痛緩和が得られない場合や副作用が問題となる場合には,LEPを選択する.月経困難症の思春期女子においては,NSAIDs の効果がある場合にも,月経困難症の日常生活への影響や子宮内膜症の進行予防の観点から LEP は有効である.
・ LEP を投与する際には禁忌症例・慎重投与に当てはまらないかを確認し,副作用として血栓症について説明することが必要である.同時に,ニキビの改善や子宮内膜癌・卵巣癌・大腸癌の減少などの情報を与えることも不安を取り除くためには重要である.骨端線の早期閉鎖のなどが懸念されるが,国際家族計画連盟(IPPF)により発表された「思春期の避妊」に関する声明では,初経後 3 カ月を経過していれば安全に使用できると提言されている.
③漢方薬,鎮痙薬
・ 漢方薬も効果的に月経困難症を治療できる可能性がある.芍薬甘草湯は筋肉に対する抗痙攣作用があり,痙攣性の痛みには即効性が期待できる.他には,当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸,桃核承気湯,当帰建中湯などを漢方医学的診断に基づいて処方する.患者の状態から当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸が選択されること多いが, PMS を認めるものには加味逍遙散,便秘が強いものには桃核承気湯,むくみが強い場合は当帰建中湯などを考慮する.
・ 鎮痙薬のブチルスコポラミン臭化物は,子宮筋の過収縮を抑制し,月経困難症に有効な場合もある.NSAIDs が使用できない場合は痛みに対して,ブチルスコポラミン臭化物や芍薬甘草湯などを考慮する.芍薬甘草湯を処方する場合は濫用による偽アルドステロン症,低カリウム血症には注意をする.
④ LNG-IUS(レボノルゲストレル放出子宮内システム:ミレーナⓇ 52㎎)
・ LEP などの経口薬のアドヒアランスが不良な場合や血栓症リスクがある患者では,LNG-IUS が有用である.本邦では 2014 年 11 月に月経困難症に対して保険適用となっており,英国の若年女子への投与でも90%以上でQOL を改善したと報告されており,海外では小型の製品も存在する.しかし,日本では,思春期女子への挿入は難しいことが多い.

6 )思春期における月経困難症の診療のポイント(図17