9.新生児聴覚スクリーニング検査について

新生児聴覚検査の説明は必須に
産婦人科診療ガイドライン産科編2017では新生児聴覚スクリーニング検査について「インフォームドコンセントを取得したうえで聴覚スクリーニング検査を実施し、母子健康手帳に結果を記載する(B)」と記載され、推奨度がCからBに上がりました。分娩を取り扱う医療機関にとって推奨度がBになったことは、すべての親に対して新生児聴覚スクリーニング検査について説明することが必須となったことを意味します。さらに、検査について知らなかったため検査を受けず、結果的に難聴の早期療養開始が遅れた場合に、障害克服の機会を逸したとして責任追及される可能性すら生ずることになります。

自施設で検査できない場合には他施設へ紹介を
2017年6月に行った日本産婦人科医会調査によると全医療機関の94.3%で検査が可能であり、実際に87.6%の児が検査を受けていることが確認されています。また、検査ができない医療機関においては、他施設で分娩した児の聴覚検査に対応する医療機関を紹介する必要があります。各都道府県の産婦人科医会にはそのような施設のリストがありますので、あらかじめ相談して、近隣の紹介施設を決めておくことをお勧めします。

厚生労働省は検査機器としてAABRを推奨
新生児聴覚スクリーニング検査には自動聴性脳幹反応検査(AABR)と耳音響放射検査(OAE)がありますが、厚生労働省母子保健課長通知(雇児母発0329第2号:平成28年3月29日発出)では、聴神経難聴スペクトラムではOAEではパスとなることがあるため、AABRの使用を推奨しています。

検査で「ㇼファー」の場合には速やかに精密検査施設へ紹介を
新生児聴覚スクリーニング検査は生後1か月までに終了し、生後3か月までに精密検査を終え、難聴が判明した場合には生後6カ月までに療育訓練開始が望ましいといわれています。東京都特別区が平成28年1月に検査の実態について生後3~4か月の乳児を対象に、乳児健診時に調査を行っています。対象は6555人で、そのうち5460人(83.3%)が検査を受けていました。その中で61人がㇼファーの結果を受けていますが、そのうちの7人(11.5%)は精密検査を受けていなかったという結果で、産婦人科医から速やかに精密検査できる機関に受診を促していない場合のあることが判明しました。難聴は早期介入することが重要であり、言語発育には臨界期があり、早期診断・早期介入が言語発育の上で重要であることから、速やかに精密医療機関で検査できるように産科医療機関が手配する必要があります。精密検査可能な医療機関のリストは日本耳鼻咽喉科学会のホームページにあります(http://www.jibika.or.jp/citizens/nanchou.html)。
難聴は発見年齢が早く、早期に介入するほど有意に言語性IQが高くなることが示されています。また、生後9か月前後の自覚的聴力検査と新生児スクリーニングで、聴覚障害と診断された小児の3~5歳時の発達に及ぼす影響を比較した報告でも新生児期に検査を実施した児の方が、発達転帰とQOLが有意に良好であることが示されるなど(Korver AMH et al. JAMA, 2010)、その有用性は明らかです。新生児聴覚検査を行い「ㇼファー」の結果が出た場合には、精密検査の実施場所を両親に話し、大至急ではなくとも速やかに受診するように指導することが重要になります。

新生児聴覚スクリーニングと早期療養開始が言語発達にもたらす効果