7.妊娠中のGBS検査について

新生児早発型B群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae, group B streptococcus,以下GBS)感染の予防対策法について、「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」における変更点について解説する。

GBSスクリーニング法

新生児早発型GBS感染予防対策として全妊婦に対するスクリーニング検査が推奨されている。生後7日未満に発症する新生児早発型GBS感染症の発症頻度は、スクリーニング検査と分娩時の抗菌薬投与による予防対策によって約5分の1に減少するとされる。しかし、児にGBS感染症を発症した母体をみると、妊娠中の検査で約6割は陰性であり、分娩時の抗菌薬投与の対象になっていない現実はある。我が国での早発型GBS感染症の発症率は0.1~0.2/1,000出生程度と推測され、約60%が出生当日に発症し、垂直感染によると考えられている。早発型GBS感染症児の約20%に死亡または後遺障害を残すことから、一旦発症した場合の重篤性を考慮して全例でのスクリーニングが推奨されている。
早発型のGBS感染児の4分の1が早産児におこり、早産児での感染症発症リスクは約3倍高く、早産は新生児早発型GBS感染症による周産期死亡の危険因子である。そのため早い時期に培養検査を行うことが早産に備えることにつながるという考え方もあると思われるが、検査から6週間以上経過した場合には陽性的中率や陰性的中率が大きく低下することから、今回の改訂では、「妊娠35~37週にGBS培養検査を行う.(B)」こととなり、従来に比べて遅い時期に設定された。早産での出生時の感染リスクを懸念する場合には妊娠後半に、例えば妊娠32週と37週の2回のGBS検査を実施するという選択肢もある。
次に、GBSの培養検査を行う部位について、可能なら腟鏡を用いないで綿棒で腟入口部から検体を採取する。その後に、同じ綿棒、もしくはもう1本の綿棒を肛門内に挿入し、肛門内部からも採取することが推奨されている。肛門内から採取することでGBSの検出率が1.7倍になるという報告もある。また、肛門内から検体を採取した場合には培養方法についての注意が必要になる。肛門内には腸内細菌などが多く存在するため、通常の培養ではGBSが検出されにくくなり、検出率が逆に低下することが知られている。そこで、一般的な培養とは異なり、GBSを選択的に増殖させる選択培地の使用が推奨されている。各施設では、肛門内の培養検体を行う場合には検査会社に培養法を確認する必要がある。
一方,生後7日目以降に発症する遅発型GBS感染症は、垂直感染以外にも水平感染もあるといわれており、その予防法は確立されていない。しかし、髄膜炎を併発する割合が高いことから早発型よりも後遺症率が高いとされる。

GBS感染予防対策の対象

感染予防の対象となる妊産婦についてであるが、腟および肛門内の培養検査でGBSを認めた場合、前児がGBS感染症であった場合、今回の妊娠中に尿培養検査でGBSが検出された場合、GBS保菌状態不明で、破水後18時間以上経過、または38度以上の発熱がある場合に推奨されている。未検査または検査結果が出ていない段階での分娩開始時の対応について、同診療ガイドライン2014年版には、GBSの保菌状態が不明でかつ、37週未満、あるいは破水後18時間以上経過、または38度以上の発熱がある場合に抗菌薬投与を推奨しているが、2017年版では破水後18時間以上経過、または38度以上の発熱がある場合のみの推奨となっている。破水や陣痛のない予定帝王切開例には予防投与の必要はない。
妊娠初期~中期に偶然GBS保菌陽性と診断されたものの,妊娠35~37週の再検査で陰性となった場合の取り扱いについてであるが、妊娠中のGBS保菌状態は一定していないこと、産科医療補償制度再発防止に関する報告書に,分娩前にGBS保菌陰性化したものの新生児早発型GBS感染症から脳性麻痺を発症した症例が2例報告されていることから、妊娠中に一度でもGBS培養が陽性になった症例では、抗菌薬の禁忌症例等でなければGBS保菌陽性扱いとして良いと思われる。同診療ガイドラインには、「米国では切迫早産管理中にGBS陽性と診断された妊婦の正期産時にも抗菌薬投与が推奨されている」と解説中に記載されている。

GBS感染予防のための抗菌薬投与法

GBS保菌妊婦に分娩の4時間以上前から抗菌薬投与を開始し、抗菌薬の血中濃度を維持することは、早発型新生児GBS感染症予防に有効である。そのため、「妊産婦の経腟分娩中あるいは前期破水後、新生児の感染を予防するためにペニシリン系などの抗菌薬を点滴静注する(B)」ことが推奨されている。GBSの薬剤感受性試験の結果,β-ラクタム系抗菌薬は抗菌活性を有するのに対して,erythromycinは25%に,clindamycinは15%に耐性があるとの報告がある。米国ではpenicillin Gやampicillinが推奨されており、ペニシリン過敏症がある場合はcefazolin,clindamycin,erythromycinなどが使用されているが、我が国では第3世代セフェム系やカルバペネム系なども使われている。投与量はampicillinであれば初回に2gを静注し,以後4時間ごとに1gを分娩まで静注することが勧められているものの、保険適用範囲を超えた用量になることを認識し、インフォームドコンセント後に行うことが望ましいとされる。