46.ジャンプアップ22(分娩第2期-2)

 分娩直前のCTG、第2弾である。今回も対応に反省すべき点のあるケースである(図説CTGテキスト アドバンス,メジカルビュー社から引用)。

1.さすらう心拍数基線(図1)

 33歳、1妊0産。妊娠40週、前期破水で入院し、翌日陣痛発来したケースである。子宮口8cm開大の時点で、続発性微弱陣痛のためオキシトシンを開始している。図1は全開大から児出生までのCTGで、吸引分娩により娩出に至らず緊急帝王切開となった。
 さて、CTGをもとに検証する。

2.分娩63分前(全開大)から43分前までのCTG判読と経過(図2)

 心拍数基線は140bpmで、細変動は10-15bpmと正常範囲にあり、最後のあたりから軽度一過性徐脈(↓)が出現している。早発一過性と判読しても、変動一過性と判読してもレベル2にあたる。
 患者背景にリスクはなく、妊娠経過に異常はない。破水後12時間で、陣痛発来し、バイタルサインや血液検査に感染の兆候はない。
 現場は、体位変換で経過を観察した。

3.分娩43分前から分前23分前までのCTG判読と経過(図3)

 CTG記録上、陣痛が減少しているが、実際にはオキシトシンにより相応の収縮があったとのことである。腹壁への固定圧が弱かったためか、あるいは本当に続発性微弱陣痛のためか、いずれにしろ、子宮収縮の記録が不明確であれば判読に影響する。
 波形(A)は前ページ同様、軽度変動一過性徐脈、波形(B)は2分を超え軽度遷延一過性徐脈(レベル3)になる。問題はその後に繰り返し発生した(↓)の一過性徐脈である。変動一過性徐脈ようにも見えるが、現場では高度遅発一過性徐脈と判読し(レベル3)、吸引分娩を開始した。児頭はすでに陥入しており、回旋異常もなく吸引分娩の条件は満たしている。

 カンファレンスでは、波形(B)以降の波形(↓)の判読と吸引分娩の適応に議論が集中した。心拍数低下(↓)は子宮収縮(↑)に遅れ、心拍数は30秒以上の経過で緩やかに低下し、緩やかに回復し、左右対称に近く、比較的似た形で繰返している。子宮収縮の記録が不明瞭だが、頻回収縮が疑われ、(↓)は15bpm以上の心拍数低下で高度遅発一過性徐脈になる。

 圧変化による心拍数の可能性を除外できたわけではないが、ルール上、判読に関する意見は高度遅発一過性徐脈で概ね一致した。引続く論点は吸引分娩の適応である。

 上述のごとく吸引分娩の条件は満たしているが、果たして吸引分娩が本当に必要であったか、保存的処置の継続ではどうであったか意見は分かれた。現場では、レベル3の異常波形と認識したうえで、経腟的な急速遂娩可能と判断し、吸引分娩を選択し、オキシトシンは減量することなく持続した。
 吸引分娩開始後、徐脈(C)が出現するが、低酸素負荷とするには先行する遅発一過性徐脈(↓)に深刻さがなく、吸引圧による硬膜の副交感神経叢刺激(迷走神経反射)とも考えられる。

4.分娩23分前から分娩までのCTGと反省点(図4)

 経過から説明するが、吸引分娩は11分間(4回)行われたが、娩出に至らず、緊急帝王切開となった。好ましからざる展開である。3280g、男児、アプガースコアー1分8点、5分9点、pH 7.118であった。

 CTGを解説しよう。徐脈に引き続く、否定形的サインカーブは深刻である。(↑)を子宮収縮とすれば、高度遅発一過性徐脈だが、子宮収縮は不明確で、否定形的サインカーブを描く、wandering baseline(迷走する心拍数基線)である。類似した波形は、「産科医療補償制度脳性麻痺事例の胎児心拍数陣痛図」に収載されたCTGで散見され、胎児酸血症と密接に関連する(図5:ジャンプアップ4の図4下段と同じCTG)。多くは徐脈に引き続き出現しており、低酸素状態が自律神経のみならず心臓血管中枢に深刻な影響を及ぼしているものと推察される。
 まさにさすらう心拍数基線である。

 このケースでは、緊急帝王切開でことなきを得たが、児は酸血症であった。吸引分娩中の迷走神経反射が、結果、胎児の酸血症を引起した可能性がある。保存的処置の継続ではどうであったか。回復したかどうかは不明だが、酸血症の発症はもう少し後であったのかもしれない。
 一か八か(ダメもと)の吸引分娩により児の予後を悪化させることは避けたいものである。私の施設では、鉗子分娩はほとんど行われていない。担当医が経腟的に娩出できると確信した時だけ、吸引を行うよう指導している。つまり、お試し禁止ということだ。