33.ジャンプアップ9(宿題D―意外な顛末)

 今回は、ステップアップ12で提示したCTG(宿題D)を供覧する(図説CTGテキスト,メジカルビュー社から引用)。

1.切迫早産管理入院中(図1)

 34歳、初産婦。妊娠28週より切迫早産にて入院管理していた。33週、塩酸リトドリン使用中のルーティンCTG(NST)である。切迫早産管理では午前中一度だけ分娩監視装置を装着し管理している。本症例では、当初規則的な子宮収縮を認め、塩酸リトドリンが妊娠28週から低用量ではあるものの、持続点滴されていた。

 心拍数基線は155-160bpmで正常脈上限、基線細変動は10bpmで正常範囲だ。子宮収縮をわずかに認めるが、規則的なものではない。私は塩酸リトドリンの長期投与に反対である。理由は様々あるが、副作用として出現する母児の頻脈もその一つである。頻脈は多くの現場で無視されているが、投与の減量、中止を考慮するべき副作用である。

2.午後2時過ぎ、熱発!(図2)

 昼頃、妊婦は腹部が重く節々が痛いと訴えていたが、午後2時すぎに突然、体温が38.4℃に上昇した。その際のNSTである。

 補液、クーリングを行い、原因検索を行った。白血球は9500で、呼吸器、消化器症状はない。絨毛膜羊膜炎も否定はできないが、もし、そうであれば切迫早産兆候が進行することが一般的であるが、モニターでもわかるように子宮収縮はない。

 様々な培養検査や超音波検査を追加し、補液に抗菌薬を加えていたが、母体体温は38℃を超えたままで、胎児心拍数も頻脈が持続した。

3.シバリング、見当識障害出現(図3)

 午後5時過ぎ、母体にシバリング、見当識障害が出現し、モニターも急変した。

 グレードAの緊急帝王切開が行われ、10分後1937gの女児(pH 7.35、アプガースコア1分5点、5分8点)を娩出した。しかし、母体は術後収縮期血圧が60台でICU管理となった。

 モニター記録では、非特異的な心拍数低下が連続している。子宮収縮もなく、変動一過性徐脈様だが、30秒以上を経過し最下点に到達している部分もある。これは、母体循環動態(母体血圧)が不安定で、子宮への血流量(酸素供給)が急激に減少したための変化である。特に胎児心拍数波形を分類する必要はない。

4.事の顛末

 原因は敗血症性ショックであった。

 手術直前の白血球は2200と低下し、後に血液培養でセラチアが同定された。原因は長期点滴のための留置針であった。

 私の施設では、感染制御部の指導もあり少なくとも4日に1回は、留置針を差し替えている。しかし、本症例では長期間の点滴投与で、妊婦が頻回の留置針挿入を嫌がり、10日間留置針を交換していなかったのだ。まさに医源性の感染症である。

 患者の気持ちに配慮することは大切だが、マニュアル(この場合、感染制御部が定めた留置針の交換期間)に沿った対応の意義を患者に理解させることも重要であろう。また、その原因になった塩酸リトドリンの長期使用も考え直したいところである。