3.妊娠まで 卵胞発育、卵の成熟、排卵、受精、着床

 卵胞の発育は、原始卵胞(primordial follicle)から一次卵胞(primary follicle)、二次卵胞(secondary follicle)1)、すなわち前胞状卵胞(preantral follicle)と胞状卵胞 (antral follicle)を経て、成熟卵胞(mature follicle)であるグラーフ卵胞 (Graafian follicle)となり、排卵のへ準備を整える2)。一次卵胞と二次卵胞は形態変化による分類であり、原始卵胞を立方化した顆粒膜細胞が単層で取り巻いているものを一次卵胞、多層に取り巻いているのを二次卵胞と呼んでいる3)。
 二次卵胞の時期には、多層化した顆粒膜細胞を取り囲む卵胞膜(theca folic)が形成され、卵胞膜の内側(theca interna)を構成している莢膜細胞(theca cell)が黄体化ホルモン受容体(luterinzing hormone receptor)を、顆粒膜細胞は卵胞刺激ホルモン受容体(follicle stimulating hormone receptor)が現れてくる4)。
卵胞発育はゴナドトロピン感受性の有無に左右される。まず感受性ない原始卵胞から前胞状卵胞までは、ゴナドトロピン非依存的に約120日かけて発育する。2mm以下の前胞状卵胞から胞状卵胞までは感受性があるが、感受性は低く約70日かけてゆっくり発育する。直径2-5mm以上の胞状卵胞になると感受性は高くなり、月経周期に伴うゴナドトロピンの変動に応じて、およそ14-20日で急速にグラーフ卵胞になる5)。
 エストロゲンの血中 濃度が200-300pg/ml以上で2-3日間持続するとLHサージが生じる。このLHサージにより第一減数分裂前期で停止していた減数分裂が再開し、第二減数分裂中期で停止する6)7)。 また、LHサージにより卵胞は急激に増大し、卵丘細胞・卵子複合体として排卵され、卵管采に捉えられ卵管膨大部に運ばれる。一方、精子は精巣内において精祖細胞より段階的に成長し、減数分裂を終了し精巣上体において成熟した後に射精される。女性生殖器内を移動しながら受精能力を獲得(capatoation)し、卵管膨大部まで到達すると、先体反応(acrosome reaction)を起こして卵子透明帯を通過して卵子内に進入し受精が進行する8)。

Topic1. 「Izumo」の話
2005年にNature9)に報告された「Izumo」は、大阪大学のグループが発見したマウス精子の頭部にあるタンパク質で、先体反応を起こして初めて露出する精子抗原を同定し発見された。精子と卵子の融合に必須である「Izumo」は、ヒト精子にも存在し、「Izumo」の抗体を阻害するとヒト精子は透明帯に融合することが出来ない。この「Izumo」は、
縁結びで有名な出雲大社にちなんで名付けられたそうで日本人研究者のロマンを感じます。

 受精後卵子は第二減数分裂を再開する。卵子の半数の染色体は第二極体(second polar body)として周囲腔に放出される。残りの染色体は雌性前核(female pronucleus)を形成する。そして精子由来の染色体は雄性前核(male pronuclesus)を形成し、両前核は卵子の中央に移動し、合体して減数分裂は終了する10)。
 着床とは、受精卵が胚盤胞になり子宮内膜上皮への接着・侵入をして絨毛構造を形成するまでの一連の現象である11)。また着床可能な時期を着床ウィンドウ(imolantation window:IW)と言いい、排卵日を0日として排卵後7±2日と推定されている12)。

Topic2. HOXA―10の話
着床に必要な遺伝子マーカーとして、ホメオボックス遺伝子群の1つであるHOXA―10は、胚発育の転写因子で、着床期子宮内膜上皮に発現し、プロゲステロン受容体により誘導され子宮内膜間質細胞の反応性を調節している。すなわち、受精後4日~5日における胚盤胞の子宮内膜への接着から侵入まで(Blastcyste attachment~Embryo invasion)の期間に重要な役割を果たしている13)。このため、この発現の欠落マウスでは着床が生じないことが示されている.
Topic3. TH1/TH2の話
ウイルス、寄生虫などの炎症に関与する Th1細胞(細胞性免疫)は、母体が胎児を認識し,免疫系を賦活させるが,それに対し,アレルギー、喘息などに関与するTh2細胞(液性免疫)は、胎児側が免疫からの攻撃に対応している。正常な妊娠では、Th1は抑制的に働き胎児を受け入れている。このためTH1/TH2のバランスの異常が、着床と児の成長に関与すると考えられています。
体外受精反復不成功(5回以上)例81名を対象に、Th1/Th2比>10.3の42名に免疫用製剤であるタクロリムス投与群25名と非投与群17名に分け検討すると、妊娠率は、タクロリムス投与群64%vs非投与群0%(P<0.0001)と免疫抑制剤の有効性が示された報告があります14)。

 近年、生殖医療に関する色々な基礎研究により、様々なことが解明されてきたが、いまだ不明な点は少なくない。不妊治療で日々重要なのは卵胞計測であり、様々な知識に基づいて経腟超音波検査、ホルモン検査、顕微鏡などの手法で、症例ごとに卵胞発育をモニターしている。症例ごとに様々な卵胞発育パターンを呈するので、今後は更なる情報やデータの蓄積により、精密な排卵予測が可能になる事を願っている。

参考文献

1) Gougeon A, Chainy GB:Morphometric studies of small follicles in ovaries of women at different ages. J Reprod Fertil. 1987; 433-442.
2)Gougeon A.Regulation of ovarian follicular development in primates: facts and hypotheses. Endocr Rev. 1996; 17:121-155.
3) Gougeon A. Dynamics of follicular growth in the human: a model from preliminary results. Hum Reprod. 1986;1:81-87.
4) Hillier SG1, Whitelaw PF, Smyth CD. Follicular oestrogen synthesis: the ‘two-cell, two-gonadotrophin’ model revisited. Mol Cell Endocrinol. 1994;100:51-54.
5)McGee EA, Initial and cyclic recruitment of ovarian follicles.Endocr Rev. 2000;200-214.
6) Ajduk A1, Małagocki A, Maleszewski M. Cytoplasmic maturation of mammalian oocytes: development of a mechanism responsible for sperm-induced Ca2+ oscillations.
Ajduk A, et al. Reprod Biol. 2008; 8:3-22
7) Brevini TA1, Cillo F, Antonini S, Gandolfi F. Cytoplasmic remodelling and the acquisition of developmental competence in pig oocytes. Brevini TA, et al. Anim Reprod Sci. 2007; 98:23-38.
8)生殖医療の必修知識 2013年
9)Inoue N1, Ikawa M, Isotani A, Okabe M. The immunoglobulin superfamily protein Izumo is required for sperm to fuse with eggs. Nature. 2005 Mar 10;434(7030):234-8.
10) Terada Y1, Schatten G, Hasegawa H, Yaegashi N. Essential roles of the sperm centrosome in human fertilization: developing the therapy for fertilization failure due to sperm centrosomal dysfunction. Tohoku J Exp Med. 2010;220:247-258.
11) Psychoyos A. Recent recerch on egg implantation. Ciba Foundation Study Group on Egg Implantation, London: Churchill, 1966;4-28
12)Bazer FW, Wu G, Spencer TE, Johnson GA, Burghardt RC, Bayless K. Novel pathways for implantation and establishment and maintenance of pregnancy in mammals. Mol Hum Reprod. 2010;16:135-152.
13)Bhurke AS, Bagchi IC, Bagchi M. Progesterone-Regulated Endometrial Factors Controlling Implantation. Am J Reprod Immunol. 2016 Mar;75(3):237-45.
14)Nakagawa K, Kwak-Kim J, Ota K, Kuroda K, Hisano M, Sugiyama R, Yamaguchi K.
Immunosuppression with tacrolimus improved reproductive outcome of women with repeated implantation failure and elevated peripheral blood TH1/TH2 cell ratios.
Am J Reprod Immunol. 2015 Apr;73(4):353-61.