29.ジャンプアップ5(複雑な基線細変動)

 複雑な心拍数基線の次は複雑な基線細変動をご覧いただく。

1.判読してください(図1)

 日本医療機能評価機構の産科医療補償制度における脳性麻痺事例の胎児心拍数陣痛図をご覧いただく。心拍数基線細変動に注目して判読して下さい。
 心拍数基線は160bpmから165bpmで正常脈と頻脈の間で、心拍数の一過性の変動はない。基線細変動はいかがだろう。5bpm以上の変動はなさそうだが、全く平坦になっているわけではない。
 この波形、産科医療補償制度の原因分析委員会では、基線細変動の減少と判読している。正常脈なら心拍数波形分類レベル2、頻脈とすればレベル3となる。

2.もう一つ判読してください(図2)

 同様に脳性麻痺事例の引用である。基線細変動はどうであろう。

 心拍数基線はおよそ150bpmで正常脈。心拍数の一過性の変動はない。さて、基線細変動はいかがだろう。産科医療補償制度の原因分析委員会では、基線細変動の消失と判読している。心拍数に関わらずレベル4である。

 画面を拡大してみていただければ分かるが、わずかな起伏(1-3bpm)がみて取れる。レベル2とレベル4ではその対応が大きく異なる。もちろんこのCTGの波形が良いと言っているのではない。直ちに急速遂娩か、状況(週数や陣痛の有無など)により次回解説する胎児機能評価が必要になる。

 ここで重要なのは、減少か消失かを厳密に判読できるようにすることではない。基線細変動が正常ではないこと、胎児低酸素血症が酸血症に移行しだしていることを認識できることである。分娩中、あるいは娩出可能な状況で、この波形を持続させることは看過できない。

3.図1、図2のCTG 所見への対応‥‥あくまで個人的な意見

 この2症例の経過は公表されていない。少し想像して、検討してみよう。

 図1は規則的な子宮収縮が出現している。この状態が持続しているとすれば、躊躇せず急速遂娩することを勧めたい。頻脈気味で、子宮内は低酸素状態あるいは胎児低酸素血症に陥っている。しかし、子宮収縮があるにも関わらず、有害な徐脈が出現していない。あくまで個人的な見解だが、児を健常にレスキューできる可能性がある。

 図2は、もう少し複雑である。子宮収縮がなく、本来、児にストレスがかかる状況ではない。例えば、このCTGが妊娠37週の健診時に行ったサービス(?)モニターの結果であったらどうだろう。「仮に急いで帝王切開しても、すでに児には相応の障害が存在しており、新生児に高度な蘇生が必要になり、手が足りなくなる。」あるいは「先天異常や先天感染などによる胎児異常があり、新生児専門医が必要になる可能性がある」などと考えてしまわないだろうか。もちろん、現時点の低酸素状態による変化とも考えられるが、児がすでに以前に受けた低酸素傷害や先天異常の結果、このような状態に陥っている可能性も否定はできない。後者の場合、現時点の酸素供給は安定しているはずで、急ぐ必要がなくなる。

 これはあくまで個人的な見解だが、こうした場合も急速遂娩を勧めたい。確かに新生児の管理に不安があるが、搬送など時間をかけて良い結果につながった経験は少ない。なんだか、丸投げしたようで、後から患者、家族にクレームをつけられそうである。患者、家族にその旨、きちんとICを行い、やれるだけのことをやるというのは無謀であろうか。あくまで個人的な見解である。

4.基線細変動の増加1(図3)

 基線細変動の増加も低酸素ストレスを想起させる。図3の基線細変動はどうであろう。

 確かに増加しているが、インクが滲んだような変な記録である。これは単にプローブの装着不良である。児背の反対側に装着した時や、胎動が激しい時に遭遇する。インクが滲んだような波形をみたときは、まず、プローブの位置を確認しよう。

 

5.チェックマークパタン(図4)

 図4は、脳性麻痺事例の引用である。珍しい基線細変動の増加である。

 低酸素ストレスに対する胎児のあえぎ様の呼吸運動が、反映された波形と考えられている。心電図のQRS波形のごとく、鋭く上下に変動することが特徴である。いわゆるチェックボックをマークする形(✔)に類似していることから、チェックマークパタンと言われている。呼吸運動による肺への急速な羊水の流入や流出が、圧受容器を刺激すると推察される。

 臨床上、遭遇することは稀だが、出現すれば胎児が低酸素状況にある可能性を想起しなければならない。しかし、この波形だけで、急速遂娩が勧められているわけではない。判読に迷えば、CTGを継続することである。