19.くも膜下ポートを用いた婦人科がん疼痛緩和治療

 病院の勤務医ということで、婦人科がんで再発・終末期の患者さんも診ています。大学病院やがん専門施設だと新たな手術患者さんが次々と入り忙しいので、再発・終末期の患者さんで化学療法等をやり尽すと、早々に在宅医療に移行してもらうこともあるようですが、地域の中小病院では患者さんの希望によっては最期まで担当することも少なくありません。

 がんの疼痛をはじめとする症状緩和治療は、今では終末期でなくても手術や化学療法と併行して積極的にオピオイド(麻薬)等を用いた治療が、ほとんどの病院で行われていますが、特に婦人科がんで再発・終末期の患者さんでは、①胸腹水の貯留と②腹部・骨盤の疼痛が問題となります。

 胸腹水の貯留に対してはCARTに関して、以前紹介させていただきました(第6回)再発腫瘍による腹痛・骨盤痛に対しては、WHO三段階除痛ラダーによるオピオイド等を用いた薬物療法が標準治療と考えられます。しかし、高用量のオピオイドを使用しても腹痛、特に排泄時の疼痛緩和に難渋することが少なくなく、副作用の傾眠・せん妄・嘔気等によりQOLも決して良いとはいえません。

 このような疼痛に対して、日本ペインクリック学会から「がん性痛に対するインターベンショナル治療ガイドライン」が出ており、硬膜外ブロック、くも膜下鎮痛法、くも膜下フェノールブロック、腹腔神経叢ブロックが推奨されています。

 その中でも脊髄くも膜下にカテーテル・ポートを埋め込み、少量のモルヒネと麻酔薬(ブピバカイン)を持続的に投与するくも膜下鎮痛法(便宜的に、くも膜下ポートと呼びます)が大変有用です。帝王切開等の麻酔で用いるいわゆる「ルンバール」の類ですが、脳圧亢進や明らかな凝固異常でない限り可能であり、術中透視を用いてカテーテル位置を調整し、持続少量投与法なので、頸部より尾側であれば腹部・骨盤全体のブロックも可能で血圧低下も軽度です。副交感神経ブロックによる便秘や尿閉が副作用として挙げられますが、それまで全身的に投与していた高用量オピオイドを減量・中止できますので、排泄しやすくなることの方が多い印象です。

 難点は、くも膜下ポートを造設・管理経験のある麻酔科医師が少ないことです。その結果、外部から医師を招聘する手続き中に、患者さんの状態が悪化して適応がなくなることも考えられます。

 全国の婦人科がん性疼痛で苦しまれている患者さんが、くも膜下ポートを用いた鎮痛法の選択を検討できることを願っています。