17.OC/LEP服用者のコロナワクチン接種リスクは?

 コロナワクチンの接種が若い世代にも対象が拡がってきました。巷ではコロナワクチンが卵巣に蓄積して不妊になるとか遺伝子が組み込まれるとかの陰謀論がネットでは賑わっているようですが、割とスムーズに接種が進んでいる印象を受けます。
 ところで、OC/LEPを服用している患者さんから「コロナのワクチンを接種してよいですか?」とよく尋ねられるのではないでしょうか?
 妊婦のコロナワクチン接種による安全性については、エビデンスも増えてきて関連学会から声明も出されていますが、OC/LEP服用者の情報は学術情報だけでなく、ネットで海外の情報を調べても今一つはっきりしない感じがします。欧米人にとって、OC/LEPは数ある頻用薬の一つで、リスクが少ないのは調査するまでもない当然の認識なのかもしれません。
 ちなみに、2020年12月14日~2021年5月8日における米国妊婦のコロナワクチン接種率は16.3%でしたが、結果について様々な解釈ができるので、情報としてあまり知られていません(感染研のHPには掲載されています)。

 しょうがないので、自身はVTEリスクがOC/LEP服用者の数倍から数十倍高い妊産婦でもコロナワクチンを接種するメリットが高く推奨されているので問題ない、と患者さんには説明しています。
 本来臨床において、このような三段論法が通用するかは疑問ですが、とりあえずの現実的な対応策としています。

 ところで、どうしてコロナワクチンで血栓症が問題となるのでしょうか?
 コロナワクチンに限らずワクチン全般の副作用として、免疫機序の変化によってvon Willebrand Factorを制御するADAMTS13という酵素活性が低下したり、産生された抗体が血小板第4因子(PF4)に結合したりして血小板凝集が亢進した結果として血栓が形成し、血液中の血小板数が減少するようです。
 米国CDCやFDAでは、vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia(VITT)を提唱していて、コロナワクチンでは50歳未満の若年女性が接種後5~24日後に動静脈血栓症を発症し、コロナワクチン接種後の血栓症の2/3を占めるようです。

 特にアストラゼネカ社製のワクチンの血栓症関連報道が目立ち気になるところですが、英国の医学雑誌であるBMJでは、「血栓症は極めて稀(100万人中4,5人程度)」でメリットがリスクを上回る、と規制当局が結論付けています。
 その一方で、ファイザーやモデルナのmRNAワクチン接種では、アストラゼネカのワクチン接種と比較して約30倍の門脈血栓症リスクがあると、オックスフォード大学が報告しています。

 頻度の低い重度の合併症に遭遇した接種者にとっては、お気の毒であり、救済制度の整備は必須ですが、国内のワクチン接種に対するメジャーな論調が、もう少し科学や確率に立脚した内容になっても良く、欧米社会を見倣う点があるかとも思います。