14.学術講演会では触れられない国内未認可の性ホルモン関連薬剤

 コロナの影響で講演会は激減し、あってもオンライン講演会ばかりの時代となりました。聴講する側としては便利で、似た内容の講演だったら飛ばせるので大歓迎です。
 最近になって、たまに製薬会社からの講演を引き受けると、「国内未承認薬については話さないでください」と書かれた内容の書面にサインをさせられることがあります。

 企業としてのコンプライアンスの問題があるのでしょうが、聴講される先生方は、普段の臨床に直接役立つ内容だけではなく、教養として関連するUp-to-dateな情報も仕入れたいから、わざわざ自分の時間を割いていると思われます。しかし、企業によって「1歩先」までの情報のみ提供されて、「3歩先」の情報は統制されているのが現状です。

 あと、関連学会等である程度議論されていないと、特に女性医学領域では大学スタッフや勤務医が全く知らない国内未承認薬が、開業医を中心に個人輸入または輸入代行業者を通じて、日常的に多くの施設で処方されている実態もありそうです。

 国内未承認薬だと、有害事象発生の際に規制当局(厚労省やPMDA)の責任がないだけで、自己責任であることを説明して処方すれば全く問題なし、とまでは言えなさそうです。また、臨床研究として処方するにしても、最近はヒト臨床研究に対する法整備が進んでおり、申請や研修等を整備するのが相当煩雑で、小規模施設で臨床研究をきちんと行うには高いハードルが存在します。

 それなりに信念をお持ちの先生方にとっては、ドラッグラグに対する草の根運動とも解釈できますが、勤務医の立場から申しますと、日常臨床において国内未承認薬を安易に個人輸入や輸入代行による自己責任で処方するのは推奨できず、あくまで教養や将来への心構えとして国内未承認薬の情報を収集することが望まれます。

 それでは、国内未承認の性ホルモン関連薬剤を具体的に取り上げてみます。
前回の性交痛のコラムでは、SERMであるオスペミフェン(Ospemifen, Osphena®)や、DHEA(一般名プラステロン、Intrarosa®腟錠)を解説しました。

 あと、経口中絶薬(ミフェプリストン)は、母体保護法との関連、厚労省から個人輸入に関する注意喚起文書が発出されていることから、国内で市販されるまで処方は御法度です。

 今回は、エステトロールとウリプリスタールについて取り上げてみます。

・Estetrol(エステトロール、E4)
 エストロゲンでE1(エストロン)、E2(エストラジオール)、E3(エストリオール)は皆さんにとって常識の範疇と思われますが、E4(エステトロール)が存在します。
 ちなみにE5以降は今のところ提唱されていないと思いますし、黄体ホルモンでは、P4(プロゲステロン、4-pregnene-3,10-dione)の代謝産物が、P2(プレグナンジオール)、やP3(プレグナントリオール)、P4の前駆物質がP5(プレグレノロン)だそうです(これ以上の詳細は知らないので教えてください)。

 E4は、胎児の肝臓でE2やE3から生成され、E2よりは弱くE3に近いエストロゲンアンタゴニスト活性を有しながら、肝臓(凝固系)や乳腺への影響が少ないとされています。

 1965年に発見されていますが、おそらく2002年のWHI試験結果発表以降から注目され始め、Mithra社(ベルギーの製薬会社、国内では富士製薬が開発治験を担当)によると、E4はNEST®(Native Estrogen with Selective action in Tissues)の登録商標を取得しており、下記の商品名で治験等が進んでいます。

・Estelle®:ドロスピレノンとの配合剤(E4 15mg+DRSP 3mgの経口剤)、適応は避妊。第三相試験は終了しており、欧州規制当局の承認待ちです。

・PeriNesta®:Estelle®と同様のE4 15mg+DRSP 3mgの経口剤。周閉経期における血管運動神経症状と避妊の両方を適応とした(LEP慎重投与となる40歳以降においても血栓副作用リスクが少ないので使いやすい)最初の薬剤として、第三相試験が開始される予定です。

・Donesta®:E4 15 or 20mgの(単剤)経口剤。閉経期における血管運動神経症状を適応に、従来のHRTに代わる新世代のホルモン補充療法候補剤として2019年から第三相試験が開始されています。個人的にはドロスピレノンとの合剤でないと、E3と同様に長期投与で子宮内膜増殖症・子宮内膜癌リスクが軽度増加しそうな気がしますが、今後の結果が待たれます。

・酢酸ウリプリスタール(Ulipristal acetate)
 選択的プロゲステロン受容体調節薬(Selective Progesterone Receptor Modulator, SPRM)として海外では子宮筋腫、緊急避妊の適応で承認されています。主にLHサージの抑制と子宮平滑筋腫細胞特異的な増殖抑制とアポトーシス促進作用があります。

 Esmya®の商品名で子宮筋腫の経口治療薬(5mg/日)として海外では市販されていますが、重度肝障害の複数報告例があるため、手術前やUAEを含む手術困難例での使用は禁忌で、定期的な肝機能チェックが勧められています。

 緊急避妊薬としては、ellaOne®30mg tabletの商品名で海外では市販されています。効果はレボノルゲストレル(ノルレボ®錠)1.5mg単回服用と比較して、性交後72時間以内で同等、72-120時間では優れているとされています。また、Esmya®と違い、単回投与なので、肝障害のリスクは低いとされています。