12.排卵誘発方法 自然、セロフェン、レトロゾール法、cc+FSH、レトロゾール+FSH、アンタゴニスト法、ショート法、ロング法

体外受精は自然周期採卵から始まったが、様々な排卵誘発法の開発と共に体外受精の成績も向上してきた。早発LHサージを抑制するGnRHアゴニスト・GnRHアンタゴニスト法により安定して排卵誘発を行うことが可能になった。また近年日本ではクロミフェン・レトロゾールによる低刺激法も広く用いられるようになっている。

自然周期

排卵が予想される日の数日前に受診、卵胞径・E2・LHをモニタリングし卵胞成熟が確認できればhCG又はGnRHagonistを投与し32‐36時間後に採卵を行う(図1a)。患者の受診回数が少ない・FSH製剤を使用しないため費用が少なくて済む・OHSS等の副作用も少ないのが利点である。欠点としては早発LHサージを防ぐ薬剤を使用していないため、一定の割合で排卵を防げないことがある。採卵数も1個であるため、移植まで到達しないで中止となるケースも多い1)。
LHサージに応じて採卵の時間を調整する必要があり、常時採卵を行える施設でなければ自然周期採卵は積極的には行いにくいと考えらえる。

クロミフェン周期

クロミフェン(clomifene citrate・CC)は視床下部のエストロゲン受容体に結合しエストロゲンのnegative feedbackを阻害することで視床下部からのGnRH分泌増加、下垂体からのFSH・LH分泌増加をおこし卵胞発育を促進する。卵胞径・E2・LHをモニタリングし卵胞成熟が確認できればhCG又はGnRHagonistを投与し32‐36時間後に採卵を行う(図1b)。

利点は自然周期と同様に受診回数・費用などが少ない点、LHサージを一定程度抑制するため、自然周期よりも管理が容易な点である2)。
欠点としては抗エストロゲン作用により子宮内膜が菲薄化するケースがあるなど、新鮮胚移植の妊娠率が低下する場合がある。

CC-FSH

杉山産婦人科では本プロトコールを主に使用している。以下は当院のプロトコールの一例である。

① 月経2-3日目からCC50㎎連日5日間投与FSH150‐225IUを隔日投与する。
② 月経8-10日目にモニタリングし必要に応じてCC・FSHを追加する。
③ 主席卵胞径18㎜以上・E2値1卵胞あたり200‐300pg/mlを目安にGnRH 

agonist又はhCGで排卵誘起を行い、34-36時間後に採卵を行う(図1c)。
CCとFSHを併用することでFSH製剤の使用量を少なく抑えることができ、OHSSの発生もロング法やアンタゴニスト法に比して少ない利点がある。

レトロゾール法

アロマターゼ阻害薬はエストロゲン産生を抑制し negative feedback を抑制することでFSH分泌を促進する。卵胞径・E2・LHをモニタリングし卵胞成熟が確認後にhCG又はGnRHagonist投与32‐36時間後に採卵を行う(図1b)。
多嚢胞性卵巣症候群の一般不妊治療での排卵誘発においてはクロミフェンよりもアロマターゼ阻害薬が有効であると考えられている3)。クロミフェンに比較して子宮内膜の菲薄化作用は弱いのが利点の1つである。閉経後乳癌の治療薬としての適応を有するが、排卵誘発剤としての使用は適応外であり使用前にインフォームドコンセントが必要である。

乳癌などの悪性腫瘍患者の卵子凍結、胚凍結においてエストロゲン上昇を抑制する目的でも使用されている。同使用法では採卵後もエストロゲン値が月経期レベルに低下するまでアロマターゼ阻害薬を継続する。

アンタゴニスト法

GnRHアンタゴニストは下垂体のGnRH受容体を競合的に阻害し、早発LHサージを抑制する。月経2-3日目よりFSHを開始し投与7日目にGnRHアンタゴニスト3㎎を単回投与するFixed法と主席卵胞径が14㎜に到達してからGnRHアンタゴニスト0.25mgを連日投与するFlexible法がある(図1d)。利点としては従来多く用いられてきたロング法に比してFSH使用量が少ないこと・治療期間が短いこと・重篤なOHSSの発生が少ないことがある。欠点としてはGnRHアンタゴニストを長期に使用すると子宮内膜の着床環境に対して悪影響を与える可能性が指摘されている・GnRHアンタゴニストが高価であることなどがある4)。

ロング法・ショート法

早発LHサージを抑えるために開発された方法である。
GnRHアゴニストを投与すると直後はflare-upと呼ばれるFSH・LHの分泌増加が起こる。投与継続すると下垂体の脱感作により FSH・LHの分泌が強力に抑制される5)。

ショート法はflare-upを卵胞発育に利用する方法であり、月経1-2日目よりGnRHアゴニスト、2-3日目よりFSH/hMG製剤を投与する。約10日間の投与によるdown regulationの完成で早発LHサージを抑制することができる。利点はロング法よりもFSH /hMG製剤 やGnRHアゴニストの使用量が少なくて済むことである。欠点は flare-up による初期のLH上昇は非生理的であることが指摘されている1)。

ロング法は刺激開始前周期の黄体期中期よりGnRHアゴニストを投与し月経開始からFSH /hMG製剤を投与する。利点は採卵日を調節しやすいこと・早発LHサージを確実に抑制できることなどがある。欠点はFSH /hMG製剤 やGnRHアゴニストの使用量が多く患者の経済的負担が大きいこと・治療期間が文字通り長いこと・PCOSなどのhigh responderに使用した場合OHSSのリスクが高まることなどがあげられる。

日本産科婦人科学会が集計しているオンライン登録によるデータを閲覧することができる。卵巣刺激法に関しては最新のものとして2013年の刺激法の内訳が公表されている(図2)。ロング法とショート法に相当するFSH+アゴニストが22.8%と最も多い。CC+FSH、FSH+アンタゴニスト、CCが17‐18%とほぼ同程度であった。自然周期は12.4%であった。

参考文献
1.桑原章ほか 不妊・不育症診療パーフェクトガイド 臨婦産70巻4号208‐214
2.寺元章吉ほか 卵子学 531‐536
3.Amer SA et al. Double-blind randomized controlled trial of letrozole versus clomiphene citrate in subfertile women with polycystic ovarian syndrome. Hum Reprod. 2017;32:1631-1638.
4.平池修 不妊・不育診療指針 307-311
5.生殖医療の必修知識 273‐276