12.「女性医学の祖」をご存知ですか?

 「先生のご専門は?」とか訊かれますと、以前は「更年期医学です」とぼそぼそと呟いていましたが、今や「Dr石谷の女性医学四方山話」などと銘打ったコラムを担当して偉そうにしています。すなわち、この世に女性医学が存在しなければ、ただの四方山話をしているに過ぎません。

 若い先生方にとっては、女性医学は耳慣れた言葉かもしれませんが、日本独自の領域です。2010年以前には、今日使われている女性医学は存在していませんでした。

 HRT(女性ホルモン補充療法)が世界的に衰退ムードであった当時、日本更年期医学会の理事長でした故水沼英樹先生が、予防医学の重要性や専門医制度の将来性を見据えて学会名を日本女性医学学会に名称を変更されたのが、女性医学の始まりでした。

 もちろん当時は、女性医学は産婦人科学と何が違うのか?等の様々な意見がありましたが、10年経過した現在、産婦人科のsubspecialtyの一領域として確固たる地位を築き、日本女性医学学会の会員数は倍増し、専門医も誕生していることから、水沼先生の慧眼に今更ながら感服します。

 今でも「女性医学とは?」と自分なりに考えてみることはありますが、今月、診断と治療社から、「基礎から学ぶ女性医学」が発刊されました(写真)

 ご遺族によりますと、ご逝去される数日前まで、この校正原稿と向き合われておられたほど、本執筆が楽しそうだったようです。

 「基礎から」のタイトル通りで分量も厚くはないですが、内容は見た目よりも相当ハイレベルなので、第2部の診療の実際から読まれるのも一法かもしれません。

 病の床にあられた水沼先生の後世に遺しておきたい想いが随所に感じられ、女性医学のエッセンスが詰まった本書を一読されることをお勧めします。