11. スタートアップ11(徐脈と細変動消失と特殊な波形)

 徐脈はだれしも出会いたくないCTG所見である。低酸素状態の最終型ともいえる。胎児に一体何が起こっているのか、もう一度確認しておいていただきたい。

1. 徐脈を読む

1) 元気な徐脈?(図1)

 10分以上の心拍数減少の持続は基線の変化とみなす。徐脈の多くは基線細変動の減少、ないしは消失を伴うが、図は細変動が中等度に認められる?
 不整脈など特殊な状態を除けば、徐脈は深刻である。子宮内の低酸状態の持続は、胎児に低酸素症を引き起こす。低酸素症が持続すれば胎児は酸血症に陥る。酸血症は胎児の自律神経機能の抑制や破綻を招く
 CTG上、自律神経機能の抑制や破綻は基線細変動の減少・消失として表現され、その最終形が徐脈であり、それに引き続くものは心停止である。胎児は声を失うのである。
 徐脈のCTGはなかなか手に入らない。日常診療で10分以上持続する徐脈などそうそう記録されるものではない。著者の施設では5分もあれば、超緊急帝王切開で児を救出できる。
 お分かりかもしれないが、このCTGは分娩直前のものである。

2) 深刻な徐脈(図2)

 この症例は、年齢不詳。某警察署うらの駐車場で倒れていたところを発見され、救急搬送されてきた妊婦で、来院時のCTGを示す。母子手帳の携帯はなく、産科施設の受診歴もない。
 解説不要かもしれないが、極めて深刻なCTGである。心拍数基線は50bpmから55bpmの徐脈で、基線細変動は完全に消失している。胎児酸血症はもちろんのこと、胎児の心機能まで強く抑制を受けている。酸素不足により、心筋そのものが収縮できなくなっており、全身への極めて重篤な低酸素傷害が予測される。
 妊娠週数も不明で、すでに破水しており、児はこの直後自然娩出された。1750gの男児で、臍帯動脈血はpH6.65で、児のアプガースコア1分0点、5分0点であった。
 徐脈は低酸素状態の最終型である。

2. 特殊な波形ーサイナソイダルパタン(sinusoidal pattern)

 心拍数曲線が規則的でなめらかなサイン曲線を示す。持続時間は問わず、1分間に2-6サイクルで、振幅は平均5-15bpmで、大きくても35bpm以下の波形を称する。
 特殊な波形で、この場合、基線細変動の有無は問わない。このCTGは胎児貧血によるもので、出生児のヘモグロビンは7.0 g/dlであった。
 こうした波形を見た場合、まず、胎児貧血を疑い、超音波パルスドプラー法を用い胎児の血流計測を行う。貧血の胎児では中大脳動脈の血流速度が速くなることが知られている。
 サイナソイダルパタンは、低酸素状態に曝された胎児でも出現することがあり、監視を強化しなければならず、この波形を疑えば、必ずCTGを継続していただきたい。