第八回:vNOTES(経腟腹腔鏡手術)
四谷メディカルキューブ婦人科
羽田 智則
問 vNOTESとはどのような手術ですか?
答 NOTES(Natural Orifice Transluminal Endoscopic Surgery:発音はノーツ)は腟・口・肛門などの自然孔(Natural Orifice)から腟・食道・胃・直腸といった管腔臓器を経由(Transluminal)して行う経管腔的内視鏡手術であり、経腟的アプローチはvNOTES(Transvaginal NOTES:発音はヴイノーツ)と呼ばれています。vNOTESは他のNOTESアプローチと比較してアクセス方法と閉創方法が容易で確実性も高いため、近年行われているNOTESはvNOTESが主流となっています。国内においては、2019年11月にGelPOINT V-Path トランスヴァジナルアクセスプラットフォーム(アプライドメディカルリソーサズ社、アメリカ合衆国)がvNOTESを目的とした経腟プラットフォームとして一般医療機器の承認を受け、徐々に普及してきました。現在では他社製品の経腟デバイスも販売されています。
問 vNOTESは保険適用ですか?
答 vNOTESは腹腔鏡手術の一つの形態であり、保険適用手術となります。数社からvNOTES対応デバイスが販売されております。今まで行われてきた経腹的腹腔鏡手術と同様の保険算定が可能です。
問 vNOTESでできる手術は?
答 vNOTESで行われる主な術式は良性子宮全摘術や付属器に対する卵巣嚢腫核出術、付属器切除術、卵管切除術などです。骨盤臓器脱に対する仙骨腟固定術(Shull法)も非メッシュを用いた術式として2022年度から保険算定可能となりました。HBOC症例に対するリスク低減両卵管卵巣摘出術や子宮体がんの初期症例に対する腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術も行われ始めています。子宮筋腫核出術は適応が限られるため、ごく少数例のみ行われています。
問 vNOTESのメリットは何ですか?
答 経腟手術と比較すると付属器へのアプローチが容易になったことが一番大きいです。また腹部創が無い経腟手術では、腹部の創感染や創痛、腹壁ヘルニア、トロッカー関連合併症が無いこと、早期回復、入院期間短縮も言われています。従来型腟式手術では難しいと思われる症例もvNOTESでなら可能な症例もありますので、腟式手術の適応が広がったと考えられます。また、vNOTESで完遂できない場合には腟式または腹腔鏡へコンバージョンできることもメリットです。
問 vNOTESの除外基準は何ですか?
答 経腟手術と同様に骨盤内に感染や炎症が疑われる状態(直腸手術既往、ダグラス窩周囲内膜症、卵巣癌疑い、骨盤腹膜炎、骨盤内放射線治療既往)、既往子宮全摘出術後、性交未経験、妊娠中がなどが挙げられています。そうした症例に対しても行っている施設や症例報告はあります。
問 腟式子宮全摘出術でいいのではないでしょうか
答 そういう症例ももちろんあります。vNOTESでは子宮全摘出術で同時に行われる予防的卵管切除術が容易になること、また腟式子宮全摘出術の適応とはならないような症例でもvNOTESでならできる症例もあり、適応が広がることがポイントです。従来型腟式手術で完遂できる症例は腟式手術で行えばよいと思います。
問 vNOTES子宮全摘出術には二種類あるということですが
答 vNOTES子宮全摘出術には、腟切開から腹腔鏡機器を用いて鏡視下に行うTVNH(total vaginal NOTES hysterectomy)とダグラス窩・膀胱子宮窩腹膜を開放し一部の子宮頸部支持靭帯を処理してから腹腔鏡操作に移行するVANH(vaginally assisted NOTES hystere-ctomy)があります。TVNHは腟狭小例でもできるメリットがありますが、操作は煩雑であり、海外のごく一部の医師が行っているのみです。ほとんどの子宮摘出術はVANHで行われています。VANHではどこまで腟式でやるかは自由であり、ある程度子宮上行血管まで腟式に処理すると腹腔鏡パートが容易になります。
問 vNOTESで必要とされる機器は?
答 腟式手術と腹腔鏡手術の機器および経腟デバイスが必要です。光学嘴管(スコープ)は30度斜視硬性鏡が視野範囲が広いため、多くの施設で使われていますが、小さい子宮のVANHであれば0度直視硬性鏡でも可能です。単孔式手術の要素があるため、腹腔鏡のライトケーブルをL字型にすると手元の干渉が減ります。新たな投資機器が少ない点もvNOTES導入のハードルを下げています。
問 vNOTESでの合併症にはどのようなものがありますか?
答 世界で4,565症例の子宮全摘出術を対象とした検討では、術中膀胱損傷(1.3%)、他の術式へのコンバージョン(1.6%)が1%を超えています。逆に尿管損傷は1例のみでした。腹腔鏡下子宮全摘出術(TLH)と比較したSystematic ReviewではVANHはTLHと比較して術後合併症は少ないという報告もありますが、まだ始まってから日の浅い手術なので症例の蓄積が望まれます。
問 vNOTESの付属器手術での腟切開の位置は?
答 付属器手術では後腟円蓋から少し離れた後腟壁を3㎝ほど横切開し、ダグラス窩を開放してリトラクターを挿入します。腟円蓋から離れた腟壁を切るのは、最後に縫合閉鎖が必要になるからです。腟は伸縮する臓器であり、腟を伸展した状態で腟切開をすると、縫合時に収縮するため、ある程度腟円蓋から離れた位置で切開をした方が最後の縫合がしやすくなります。前腟壁を切開する報告もありますが、多くの症例では後腟壁切開です。
問 vNOTESの付属器手術の特徴は?
答 卵巣嚢腫摘出術、付属器切除術、異所性妊娠手術など、今まで腹腔鏡で行ってきた手術がvNOTESでも可能になります。特に卵巣嚢腫核出術では嚢胞内容吸引後は気腹を解除し経腟的に核出術が行える症例が多いため従来腹腔鏡手術よりも簡便で腹腔内に飛散も少ない手術がしやすいです。付属器切除術では卵巣提索周辺へのアプローチには習熟を要します。従来腹腔鏡と違ってマニピュレーターが使えず垂れ下がってくる子宮をコントロールしながら卵巣提索付近で鉗子操作をするにはカメラワークと鉗子操作の両方においてトレーニングが必要です。
問 リトラクターはどのように装着されているのでしょうか?
答 VANHは膀胱子宮窩とダグラス窩腹膜が開放されており、リトラクターのインナーリングは開放部に引っかかるように装着されます(図)。

インナーリングは柔らかいため、少し楕円状に潰された上で軽くC字に折れ曲がって装着されます。そのため強く牽引すると外れます。VANHの腹腔鏡パートで傍子宮組織を処理していくと徐々にインナーリングが嵌まりこみ、最終的にはインナーリングの全周が腹腔内に入ります。vNOTES付属器手術ではダグラス窩腹膜のみ開放されているため、インナーリングはダグラス窩開放部を超えて腹腔内に全周が開いている状態です。
問 vNOTESで行う骨盤臓器脱の手術はどのようなものですか?
答 vNOTESで行われるものの多くはメッシュを使わない非メッシュ術式でして、左右の仙骨子宮靭帯と腟断端を縫合するShull法が主に行われています。Shull法は経腟手術でも行われていましたが、vNOTES視野では仙骨子宮靭帯や尿管が視認でき仙骨子宮靭帯への運針もより容易になりました。Shull法では腟壁形成術も併施できるため、腟式手術の選択肢が広がりました。
問 vNOTESの難しさはどこですか?
答 腟式手術と同様、腟壁の奥にある他臓器(膀胱・尿管・直腸)や血管を解剖学的に推測しながら腹膜開放する部分です。腹膜開放では骨盤内癒着を十分に評価できないままアプローチする難しさもあります。そのため腹膜開放できない場合は前述のHybrid術式や、従来腹腔鏡へのコンバージョンも検討していいと思います。安全にvNOTESを行うためには適切なリトラクター装着も重要な要素でして、その方法を事前に学習し習得する必要があります。また、経腟視野での解剖認識、単孔式手術と類似した鉗子操作、鉗子による子宮コントロールと術野確保などにも難しさがあり習熟したいです。
問 費用はどうでしょうか?
答 従来腹腔鏡手術と同じ保険算定が可能です。従来腹腔鏡手術において使用するトロッカー、子宮マニピュレーター、腟パイプは使いませんが、vNOTESでは経腟デバイスを使用します。他にもディスポ鉗子類をどこまで使うかで病院毎が費用算定をすることになります。vNOTESは基本的に医師2名で行う手術ですので、従来腹腔鏡手術を3名で行っている施設からすると2名で行える点も魅力です。
まとめ
vNOTESはまだ新しい手術で発展途上ですが、国内外で徐々に普及してきています。若手医師には腹腔鏡手術やロボット支援手術への習熟も求められておりますが、vNOTESでできる症例もあり、腹部に傷の無い手術として患者の利益をいかせる術式が安全に普及していくことが望まれます。