ホーム  ピル    目次   OCとは   処方手順   定期検査   シート 

 

第2章 経口避妊薬(OC)の処方の手順
    (初回処方時)

1.問診、検査
2.
OCの一般的な説明
 (1)
服用者に関する説明と理解
 (2)
OCの有効性と安全性
 (3)
性感染症(STD)予防のための説明
3.
問診
 (1)
服用が禁忌となる場合
 (2)
服用にあたり慎重な判断を要する場合
 (3)
服用希望者の使用する併用薬と対処法
4.
服用前臨床検査
 (1)
検査の進め方、必要性の説明
 (2)
検査の内容
5.
問診及び検査結果からの判断
 (1)
血栓症
 (2)
STDに関する対応
6.
服用に際しての注意事項の説明
 (1)
正しい服用方法とのみ忘れた場合の対応
 (2)
副作用
 (3)
妊娠への注意
 (4)
服用中の定期検査
 (5)
処方の間隔・期間
 (6)
服用者への情報の徹底

 

1.問診、検査

 OCは健康な女性が長期にわたり服用するものであり、これによって健康が損われることがあってはならず、OCを処方する医師には女性の健康管理の一環としてこれを処方することが求められている。OCを処方する前に、OC投与の絶対的あるいは相対的禁忌の有無を確認し、服用中の経過観察の基礎とする目的で、健康状態をチェックしておく必要がある。そのためには適切な問診と医学的診察、スクリーニング検査が有用である。スクリーニングや検査にあたっては、これが本人の健康管理にとって重要な検査であることをよく説明しする。

 

2.OCの一般的な説明

  (1) 服用者に関する説明と理解(インフォームドコンセント)

 OCは避妊の目的で健康な女性が長期間にわたり使用する薬である。服用禁忌例を見逃し、不用意にOCが処方されることなどがあってはならない。また、ホルモン含有量の低下によりその副作用は減少したとはいえ、服用に対し注意すべき点については、服用者が十分に理解できるよう、よく説明する。併せて服用者向けの情報提供資料を活用されたい。 

 (2) OCの有効性と安全性

  「第1章低用量経口避妊薬(OC)とは(一般的有効性及び安全性)」参照

 (3) 性感染症(STD)予防のための説明

  1. 性感染症(STD)予防のための説明

 OCは避妊のために処方されるものであり、OCの使用により、STDを予防したり、治療したりするものではないこと、コンドームの代わりにOCを使用するとSTDのリスクが増大する可能性があることを服用希望者に十分説明する。近年、STDのまん延が注目され、なかでもHIV感染は極めて重大な社会問題となっている。OCを処方するにあたっては、OC服用による安心感からSTDに対する予防が疎かにならないよう、STDの防止のためには、コンドームを使用していた、いないに関わらず、正しいコンドーム使用法を指導することが必要である。また、必要に応じ、STDに関する検診を行った上で、服用希望者に処方する。

 

3.問診

 問診を行うことは、服用禁忌の有無の判定、投与前検査の項目の決定、および投与時のカウンセリングの参考にするために必要かつ重要である。月経歴、結婚歴、妊娠分娩歴、避妊歴、既往歴、家族歴、嗜好品等を詳細に問診し、それに基づいて、必要な診察および臨床検査を実施する。特にOCに対する明らかな危険因子を持つ場合には、状態を確認するため十分なチェックが必要である。OCに対する危険因子としては、静脈炎、血栓・塞栓症、エストロゲン依存性腫瘍、高脂血症、慢性的な頭痛、糖尿病、内分泌疾患、肝臓・胆嚢疾患、喫煙者、高血圧症、肥満、OCの作用に影響を及ぼす薬剤の服用、などが挙げられる。これらの疾患の既往歴、家族歴をもつ場合には、各疾患についての詳細な検査を行う。なお、問診を効率的に行うため、本書の巻末のチェックシート例を利用することを奨める。

 (1) 服用が禁忌となる場合

  1. 本剤の成分に対し過敏性素因のある女性
  2. エストロゲン依存性腫瘍(例えば乳癌、子宮体癌、子宮筋腫),子宮頸癌、性器癌及びその疑いのある患者
     【腫瘍の悪化あるいは顕性化を促すことがある。
  3. 診断の確定していない異常性器出血のある患者
     【性器癌の疑いがある。出血が性器癌による場合は、
      癌の悪化あるいは顕性化を促すことがある。
  4. 血栓性静脈炎,肺塞栓症,脳血管障害,冠動脈疾患またはその既往歴のある患者
     【血液凝固能が亢進し、これらの症状が増悪することがある。
  5. 35歳以上で1日15本以上の喫煙者
     【心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
  6. 血栓症素因のある女性
     【
    血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
  7. 抗リン脂質抗体症候群の患者
     【血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
  8. 大手術の術前4週以内,術後2週以内,産後4週以内及び長期間安静状態の患者
     【血液凝固能が亢進し、心血管系の副作用の危険性が高くなることがある。
  9. 重篤な肝障害のある患者
     【代謝能が低下しており肝臓への負担が増加するため、
      症状が増悪することがある。
  10. 肝腫瘍のある患者
     【症状が増悪することがある。
  11. 脂質代謝異常のある患者
     【血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
      また、脂質代謝に影響を及ぼす可能性があるため、
      症状が増悪することがある。
  12. 高血圧のある患者(軽度の高血圧の患者を除く)
     【血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
      また、症状が増悪することがある
  13. 耳硬化症の患者
     【症状が増悪することがある。
  14. 妊娠中に黄疸、持続性そう痒症または妊娠ヘルペスの既往歴のある女性
     【症状が再発するおそれがある。
  15. 妊娠または妊娠している可能性のある女性
     【妊娠中の服用に関する安全性は確立されていない。
  16. 授乳婦
     【母乳の量的、質的低下が起こることがある。
      また、母乳中に移行することが報告されている。
  17. 思春期前の女性
     【骨端の早期閉鎖を来すおそれがある。

 

 (2) 服用にあたり、慎重な判断を要する場合

  1. 40歳以上の女性
     
    一般に、心筋梗塞等の心血管系障害が発生しやすくなる年代
      であるため、これを助長するおそれがある。
     
  2. 乳癌の家族歴または乳房に結節を有する女性
     【エストロゲン投与と乳癌発生との因果関係についてその関連性を
      示唆する報告もある ので、定期的に乳房検診を行うなど慎重に投与する。
  3. 喫煙者
     【心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
  4. 肥満の女性
     【血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
  5. 血栓症の家族歴を持つ女性
     【血栓症等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。
  6. 軽度の高血圧(妊娠中の高血圧の既往も含む)の患者
     
    血栓症等の心血管系障害が発生しやすくなるとの報告がある。
  7. 耐糖能の低下している女性(糖尿病患者及び耐糖能異常の女性)
     
    耐糖能が低下することがあるので、
      十分コントロールを行いながら投与すること。
  8. ポルフィリン症の患者
     
    症状が増悪することがある。
  9. 肝障害のある患者
     【代謝能が低下しており肝臓への負担が増加するため、
      症状が憎悪することがある。
  10. 心疾患、腎疾患またはその既往歴のある患者
     
    ナトリウムまたは体液の貯留により症状が増悪することがある。
  11. てんかん患者
     
    症状が増悪することがある。
  12. テタニーのある患者
     
    症状が増悪することがある。

 上記リスク因子は、単独とは限らず、複数のリスク因子を併せもつことも少なくない。このような場合には、OC投与の可否について慎重に検討すべきである。

注)デュビン・ジョンソン症候群、ローター症候群は、禁忌の「重篤な肝障害のある患者」、「妊娠中に黄疸の既往歴のある患者」及び慎重投与の「ポルフィリン症の患者」、「肝障害のある患者」にあたり、注意が必要である。

 

 (3) 服用希望者の使用する併用薬と対処法

  a  薬剤

  1) OCにより作用が増強される薬剤

     副腎皮質ホルモン (プレドニゾロン等)、
     三環系抗うつ剤 (イミプラミン等)、
     塩酸セレギニン、
     シクロスポリンなどの薬剤
    
OCによりその作用が増強することがある。

  2) OCにより作用が減弱される薬剤

     硫酸グアネチジン、
     インスリン製剤、
     スルフォニル尿素系製剤、
     スルフォンアミド系製剤、
     ビクアナイド系製剤等、
     Gn-RH誘導体(酢酸ブセレリン等)
    
OCにより、硫酸グアネチジンの降圧作用が減弱すること、
     耐糖能、インスリン分泌が影響され血糖降下剤の作用を減弱すること、
     Gn-RH誘導体の治療効果を減弱することがある。

  3) OCの作用を減弱する薬剤

     リファンピシン、
     バルビツール酸系製剤 (フェノバルビタール等)、
     ヒダントイン系製剤 (フェニトインナトリウム等)、
     カルバマゼピン、
     グリセオフルビン、
     テトラサイクリン系抗生物質 (テトラサイクリン等)、
     ペニシリン系抗生物質 (アンピシリン等)、
     HIV感染症治療薬(リトナビル、メシル酸サキナビル、ネビラピン)、
     トログリタゾン

  4) 副作用が増強するおそれがある薬剤

     塩酸テルビナフィン月経異常を起こすおそれがある

 

  b 対処法(短期使用薬剤、長期使用薬剤)

  1) 短期間使用薬剤

抗生剤であるリファンピシンや抗真菌剤のグリセオフルビンを服用中又は服用中止後7日間以内では、他の避妊法を併用する必要がある。OCと他の薬剤との相互作用は個人差が大きいことも念頭におく必要がある。

  2) 長期間使用薬剤

この種の薬剤では抗てんかん剤、抗結核剤及び抗HIV剤が問題となる。これらの薬剤を使用している者に対して、OCを処方する場合には十分注意しなければならない。
服用をやめた後も、これらの薬剤が完全に体外に排泄されるまでにしばらく時間がかかるので、とくに長期にわたって使用した場合は、OC処方は4週間ぐらい延期した方がよい。

  3) 広域スペクトルムの抗生剤

a.広域スペクトルム抗生剤の服用中及び服用後7日間は他の避妊法を併用する必要がある。
広域スペクトルム抗生剤の使用では腸内細菌叢が変化し、性ステロイドの腸肝循環は抑制され、OCの血中濃度は低下することが報告されている。
b.OCを服用している婦人にテトラサイクリンがはじめて処方される場合は、1カ月間は、妊娠する可能性があるので注意を促す必要がある。
テトラサイクリンなどの長期使用では、耐性菌が腸内細菌叢として腸肝循環に関与するようになることが知られている。
 

 4.服用前臨床検査

  (1) 検査の進め方、必要性の説明と同意

 問診で危険因子がないと思われる場合でも、以下に示すスクリーニング検査項目を目安として、臨床検査を実施する必要がある。これらの検査は、OC投与前の必要な検査の例であるが、服用希望者に対する問診の結果等を踏まえ、この中から必要な検査を選択すること、又は、必要に応じて適当な検査を追加することもありうる。その場合でも、検査の必要性を説明し、服用希望者の同意のもと、服用希望者の同意のもと、検査を行うことが必要である。また、疾病がある場合は、必要ならば投与前に治療を行う。

  (2) 検査の内容

  a 一般検査

 一般的スクリーニング検査として、全身の理学的診察は必須であるが、OCの副作用が現れやすい疾患や生殖年齢の女性に多い疾患に対しては十分留意すべきである。頸部の診察では甲状腺腫、胸部の診察では心肥大、心雑音の有無、腹部の診察では肝臓の腫大の有無等に注意する。

  b  婦人科的検査

 乳癌は女性ホルモン依存性疾患であり、必ずチェックしておく必要のある項目である。スクリーニング検査として、触診による乳房検診を実施する。婦人科的検査は、妊娠、女性ホルモン依存性疾患である子宮筋腫や子宮内膜症等の有無をチェックする上で重要である。また、子宮頸部細胞診は、子宮頸癌のスクリーニングのためにを実施するものである。

  c 性感染症(STD)検査

 STD検査は、OCの服用の機会を利用して、服用者及びパートナーのSTDの予防の意識を高める手段であること、服用者及びそのパートナーにとって、STDの早期発見、早期治療が始められる機会となることから実施を考慮すべき検査である。無自覚のSTD感染の頻度が高いことを、OC処方時に十分認識させ、STD検査を積極的に勧奨することは、服用者本人の健康(リプロダクティブヘルス)を守るための基本的な問題であることを啓発する機会となり、また、STD感染の抑制や、危惧されているHIV感染流行のまん延予防につながる極めて重要な対応策と考えられる。

   1) パートナーについて

 STDはパートナーとともに予防を行うべきものであり、予防のためには、パートナーのSTD検査やパートナーの性行動も重要であり、処方の機会にこのことを啓発することが必要である。OCは避妊に有効であることは知っていても、STDを予防するものではないことを認識していないカップルがいるので、STD感染のないことを互いに確かめた上でOC使用を開始することが望まれる。

   2) STD検査の意義及び頻度

 STDのスクリーニングは、STDのまん延抑制のため必要かつ重要な検査である。OC処方は、無自覚のSTD感染の隠れた感染の検出(スクリーニング) の良い機会であり、現在の流行の抑制に結びつく、極めて望ましい医学的対応になると考えられる。OC初回処方時のみではなく、使用中もOC開始時と同様な立場で検査を施行することを忘れてはならない。性的環境の変化がある場合(例えば、パートナーにSTD感染の疑いが生じたり、パートナーに変更があったりした場合)には、検査を施行する。性的パートナーが多ければ、検査はより頻回に行うべきことはいうまでもない。

   3) クラミジアについて

 現在本邦においても、HIV感染の原因として、異性間の性的接触による感染の傾向が強まり、HIV感染のまん延が危惧されている。OC使用により子宮膣部にクラミジアが感染しやすくなるとする報告は多く見られており、クラミジア感染例では非感染例より4倍もHIVに感染しやすくなるという事実が明らかにされていることから、感染頻度の高いクラミジアは、検査を行う場合に是非行うべき検査である。必要ならば(特に複数のパートナーを持つと考えられる場合)、淋病検査、及び梅毒抗体検査等を行う。

   4) 服用者の同意

 検査の必要性について、説明した後、服用者の同意を必ず取得した上で検査を行う。

   5) 検査項目の決定

  検査項目は、HIV、梅毒、性器ヘルペス、淋病、クラミジア感染症、尖形コンジローム、膣トリコモナス症、B型肝炎などを服用者と十分に相談して選択する。

表6.OC処方前のスクリーニング検査例

検査項目
一般検査

1)血圧測定
2)身長・体重測定
3)身体的診察
  (特に甲状腺腫、心肥大、心雑音、肝腫大の有無)
4)検尿(蛋白、糖、ウロビリノーゲン)
5)血液生化学検査
  (AST(GOT)、ALT(GPT)、
   コレステロール、中性脂肪等)
6)血液学的検査
  (赤血球、白血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板)
7)血液凝固系検査 (血栓症のリスクが高いとき)

婦人科的検査

1)内診(妊娠、子宮筋腫・子宮内膜症などの有無)
2)子宮頸部細胞診
3)乳房検診(触診)

性感染症
(STD)検査

クラミジア(重要)、梅毒、淋病、B型肝炎、 HIVなど

 

5.問診及び検査結果からの判断

3.問診」の項中の「服用が禁忌となる場合」、「服用にあたり、慎重な判断を要する場合」及び「服用者希望者の使用する併用薬と対処法」の項に記載された事項に加え、次の点に注意が必要である。

 (1) 血栓症

  a 投与を避ける場合

 OC服用者は、非服用者に比べて血栓症発生の危険性が高いと報告されている。従って、血栓症の発生を防止するためには、1)血栓症発生の可能性が高いハイリスク女性にはOCの投与を避けること、2)可能性が疑われる場合には血液凝固系検査を行い、もし異常があれば投与を避けること、である。また、血栓性静脈炎又は血栓塞栓症の初期症状には、十分注意が必要である(注1)。

  1. 問診にて血栓症(浅在性血栓性静脈炎、深在性血栓性静脈炎、血栓塞栓症、虚血性心疾患、脳血管障害など)の既往歴、家族歴の有無を聴取し、既往歴がある場合には投与してはならない。特に、家族歴がある場合、その原因が血栓性素因による可能性が高い場合には投与しない。
  2. 先天性血栓性素因保有者(注2)には投与しない。先天性血栓性素因が無症状のまま潜在的に存在し、加齢、妊娠、手術、OC服用などを契機として症状が発現し、血栓症となることがあるので注意を要する。
  3. 後天性血栓性素因保有者(非家族性、後天性の要因により易血栓傾向を来す疾患を保有するか、または血栓を起こす可能性が高い状態にある場合)(注2)には投与しないか慎重に投与すべきである。これに該当するものは、以下のとおりである。

  a.禁忌(添付文書の禁忌の項の血栓性素因のうち後天性血栓性素因の例)
    抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患(検査法等は
注3)、
    悪性腫瘍、
    溶血性貧血(鎌状赤血球症、サラセミアなど)、
    濃縮凝固製剤輸注中、
    著明な静脈瘤、
    手術の前後、
    高血圧症(軽度を除く。)、
    糖尿病、
    高脂血症(脂質代謝異常)、
    寝たきりなどの不動の状態や外傷後、
    脱水症、
    重症感染症

  b.慎重投与(添付文書の禁忌の項の血栓性素因のうち後天性血栓性素因の例)
    肥満[body mass index (体重(kg)/身長2(m))が30以上]、
    加齢(年齢40歳以上)、
    軽度の高血圧症など。

  b  血液凝固系検査の結果により投与を避ける場合

 上記の先天性および後天性血栓性素因保有者には該当しないが、喫煙、軽度の肥満、静脈瘤、血液的検査などで血栓症のリスクを有すると判断された場合には、慎重に投与を検討し、血液凝固系検査を行い、検査値に異常がある場合には投与しない。

 検査項目の例については、表7、8を参照のこと。なお、血液学的検査において、ヘマトクリット45% 以上、血小板40万/mm3 以上では血栓症を起しやすい。血液凝固系の検査における目安は、アンチトロンビンIII(15.0mg/ml以下、または70%以下で異常)、プロテインC(50ng/ml 以下で異常)、プロテインS精密測定(60%以下で異常)などがあり、また、線溶系の検査では、D-dimer(150ng/ml以上で異常)、TAT (3.0ng/ml 以上で異常)などである。


 

(注1)OC服用時の血栓・塞栓症発生リスク

   1961年、JordanがOC服用者に血栓症が偶発したと報告して以来、OC服用と血栓・塞栓症発生リスクとの関連性に関し、数多くの疫学的調査や血液凝固学的検討がなされてきた。現在では、OC服用時には血栓症を併発しやすいことは、ほぼ間違いない事実とされている。

 OC服用時の副作用を軽減するために、含有するエストロゲン量を減少させ、また、プロゲストーゲンも第一世代(ノルエチステロンのグループ)、第二世代(ノルゲストレルのグループ)、第三世代(デソゲストレル、ゲストデンのグループ)と新しいタイプのものが開発され、更にまた、投与法にも工夫が加えられてきた。

 エストロゲンの量を減少させた低用量OCでは、高用量OCよりも血栓症の危険性は減少したものの、しかし、OC非服用者に比べれば依然として高いと報告されている。また、第三世代のOCにおいて,血栓・塞栓症発生リスクがむしろ増加するとの報告があるので、他の経口避妊薬の投与が適当でないと考えられる場合に投与を考慮することとされている。

 

(注2)血栓性素因保有者

  血栓の形成には、(1)血管壁の異常、(2)血液成分の異常、(3)血流の停滞、が3要因(Virchowの説)として知られているが、これら要因の先天性異常(遺伝子異常)、あるいは後天性異常による易血栓性疾患を有する場合をthrombophiliaと総称している。

 1)先天性血栓性素因 inherited thrombophilia
特定の遺伝子異常を原因とし、血栓症の家族歴がある場合に疑われ、通常40歳以前に、下肢深部静脈血栓症や肺梗塞などを起こし、発症率は加齢に伴い増加する傾向にある。この先天性血栓性素因には、アンチトロンビンIII(AT-III)異常症、ヘパリンコファクターII(HCII)異常症、プロテインC(PC)異常症、プロテインS(PS)異常症、APCレジスタンス(凝固V因子の遺伝子異常症、Leiden V因子)、トロンボモジュリン(TM)異常症、異常フィブリノーゲン血症、プラスミノーゲン異常症、組織プラスミノーゲンアクチベーター異常症、プラスミノーゲンインヒビター増加症、ヒスチジンリッチグリコプロテイン増加症、ホモシスチン尿症、などがある。
 2)後天性血栓症素因 acquired thrombophilia
非家族性の要因により、易血栓傾向をきたす疾患をいう。
(1) 抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患
(2) その他 悪性腫瘍、妊娠、OC服用、溶血性貧血(鎌状赤血球症、サラセミアなど)、肥満(body mass index>30)、静脈瘤、加齢(年齢40歳以上)、手術後、寝たきりなどの不動の状態、外傷後、脱水症、濃縮凝固製剤輸注、高血圧症、高脂血症、重症感染症、糖尿病、などの種々の原因により、血栓症を来すことがある。

 

(注3)抗リン脂質抗体症候群

 抗リン脂質抗体症候群分類基準案(Harris;Br.J.Haematol.,74:1,1990)では、抗リン脂質抗体検査(抗カルジオリピン抗体、又はループスアンチコアグラントテスト)が陽性で、臨床所見(動脈血栓症,静脈血栓症,反復性流死産(子宮内胎児死亡),血小板減少症など)の認められるものを抗リン脂質抗体症候群(APS)と診断する。

 


表7.血栓症関連検査

1-1. 服用前及び服用中の血液検査項目

検査項目
検査概要

ヘマトクリット値

45%以上で血栓症の原因となる多血症を疑う。

血小板数

40万/mm3以上で血栓症の原因となる血小板増多症を疑う。

1-2. 血栓症関連血液検査項目

 検査項目
検査概要

凝固系の検査

凝固系のスクリーニングまたは総合検査

 活性化部分トロンボプラスチン時間
               
(APTT)

血液凝固時間の測定法であり、血液凝固因子の異常を検出する。

 プロトロンビン時間 (PT)

血液凝固時間の測定法であり、血液凝固因子の活性を総合的に把握でき、一般的スクリーニングテストとして広く用いられる。

 フィブリノーゲン

血液凝固機序の中心として凝固血栓を作る。血栓傾向の一般的なスクリーニングテストとして広く用いられる。

トロンビン生成の検査

 可溶性フィブリンモノマー複合体測定
               
(SFMC)

血中のトロンビン形成を直接的に証明でき、血栓症の極めて初期の段階を捉えうる。播種性血管内凝固症候群(DIC)の補助診断基準となっている。

凝固抑制物質

 プロテインC

ビタミンK依存性血液凝固制御因子であり、活性物質は抗凝固作用および線溶促進作用を持つ。低値で血液凝固亢進状態を疑う。

 プロテインS

ビタミンK依存性血液凝固制御因子であり、活性プロテインCの補酵素として機能する。単独でも血液凝固反応を抑制する。低値で血液凝固亢進状態を疑う。

 アンチトロンビンIII (ATIII)

生理的に最も重要な血液凝固抑制因子で、血管内凝固や血栓形成に対して防御作用をもつ。低値で血液凝固亢進状態を疑う。

 トロンビン・アンチトロンビンIII複合体
                
(TAT)

活性化されたトロンビンと、血液凝固抑制因子のATVの複合体であり、血液凝固におけるトロンビンの量を反映する。高値で血液凝固系亢進状態を疑う。

 プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)

特異的にトロンビンの生成を証明する。播種性血管内凝固症候群(DIC)およびその準備状態、血栓症で上昇する。

線溶系の検査

 プラスミノーゲン

線溶を発現させる酵素であるプラスミンの前駆物質である。線溶亢進の有無と程度が測定でき、線溶亢進時に低下する。

 プラスミノーゲンアクチベータ・プラスミノーゲンアクチベータインヒビター1複合体(t-PAPAI-1)

プラスミノーゲンアクチベータの活性を中和し線溶系を抑制する。増加は線溶亢進を反映する。感染症における播種性血管内凝固症候群(DIC)では高値を示す。

 フィブリン/フィブリノーゲン分解産物
               
(FDP)

血管内凝固過程におけるフィブリン・フィブリノーゲン両方の分解産物の総称であり、この測定値のみでは両者の区別はできない。播種性血管内凝固症候群(DIC)研究と共に注目されてきた。高値で血液凝固亢進状態を疑う。

 フィブリン分解産物 (Dダイマー)

FDPのうち安定化フィブリン由来のDD分画に反応する抗体を用いるものでこの増加はフィブリンが分解された証明となる。線溶系亢進の診断方法で最も有用性の高い検査法として注目されている。高値で血液凝固亢進状態を疑う。

 α2-プラスミンインヒビター (α2PI)

プラスミンと複合体を形成することによりプラスミンを不活性化する。線溶亢進の有無と程度が測定でき、線溶亢進時に低下する。

 プラスミン・
 α
-プラスミンインヒビター複合体
               
(PIC)

血中のプラスミンの存在を間接的に確認することができ、線溶系活性化の指標となる。播種性血管内凝固症候群(DIC)の補助診断基準となっている。

表8.現実的に実施可能と思われる血栓症関連検査(例示)

 凝 固 系 の 検 査

 凝固系のスクリーニング
 又は総合検査

活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)

プロトロンビン時間(PT)

フィブリノーゲン

 トロンビン生成の検査

可溶性フィブリンモノマー複合体測定(SFMC)

 凝固抑制物質

トロンビン・アンチトロンビンV複合体(TAT)

 線 溶 系 の 検 査

 フィブリン/フィブリノーゲン分解産物(FDP)

 フィブリン分解産物(Dダイマー)

 (2) STDに関する対応

 STD陽性の場合にはパートナーの検査も必要であり、服用希望者及びパートナーの状況やSTDの感染性等の性質を踏まえ、必要に応じ、その治療を優先する。STDが陽性であっても、コンドーム等の使用により服用を継続できる場合があるが、医師が個別に服用者やパートナーにとって最も適切な処置となるよう、処方するかどうかの判断を慎重に行う必要がある。

 

6.服用に際しての注意事項の説明

 (1) 正しい服用方法とのみ忘れた場合の対応

  a  正しい服用方法

 1) のみ忘れないための注意
毎日ほぼ一定の時刻(例えば就寝前)に決めて服用するように指導する。

  b  OCの中止

服用を中止すべき血栓症等の症状の発生、体を動かせない場合等の血栓症のリスクが高まる状態、手術や入院の前にはOCの服用を中止する。また、消退出血が2周期連続して発来しない場合などは、服用を中止し、投与継続に先だって妊娠していないことを確認する。

  c のみ忘れた場合の対応

  1) 1日だけのみ忘れた場合
のみ忘れが1日だけであれば、気づいたときに直ちにのみ忘れた錠剤を服用し、その日の分も通常通りに服用させる。つまり、その日は2錠を服用することになる。なお、1日のうちに2錠服用しても重大な副作用がおこったという報告はない。
  2) 2日以上連続してのみ忘れた場合
のみ忘れが2日以上連続した場合は、そのシートの残りの錠剤を服用することをやめて、次の月経を待って新しいシートの錠剤の服用を開始する。その際、「月経第1日目」から服用を開始するOCと、「月経が始まった最初の日曜日(月経が日曜日に始まったらその日)」から服用を開始するOCの2種類があるので、手元の服用者向け情報提供資料に記載された「のみ方」にしたがって服用し始める。なお、次の新しいシートの服用開始までは妊娠する可能性は否定できないので、他の方法で避妊するよう指導すること。

  d OCの避妊効果が発現するまでの期間

月経周期5日目以降からOC服用を開始した場合には排卵は抑制されない可能性もあり、初回のOC服用は月経周期の第1日目から服用を開始させる。その後は7日間の休薬期間をおいて、次周期のOC(実薬)を開始する
OCの避妊効果が確実になるまでには7日間を要する。月経開始後の最初の日曜日から服用を開始するタイプのOC(sunday pill) では、初回周期の服用開始後7日間は他の避妊法と併用することが必要である。

  e 他剤併用時の相互作用の注意

3 問診 (3) 服用希望者の使用する併用薬と対処法」の項を参照。

  f 下痢、嘔吐

服用中に激しい下痢、嘔吐が続いた場合にはOCの吸収不良をきたすことがあり、その場合には妊娠する可能性が高くなるので、その周期は他の避妊法を併用させる。

  g その他の注意

OC服用者でコンタクトレンズを着用している場合、異和感を感じることがある。

  h 他のOCから本薬に切り替える場合

  1) 21錠タイプのOCから28錠タイプに切り替える場合
前に服用していた薬剤をすべて服用し7日間の休薬の後、続けて本薬本薬の服用を開始させる。服用が遅れた場合、妊娠の可能性がある。日曜日から服用を開始するタイプのOCでは、7日間の休薬中の日曜日から服用を開始させる。
  2) 28錠タイプのOCから21錠タイプに切り替える場合
前に服用していた薬剤をすべて服用後、続けて本薬の服用を開始させる。服用開始が遅れた場合妊娠の可能性がある。日曜日から服用を開始するタイプのOCでは、プラセボ錠服薬期間中の日曜日から服用を開始させる。

  i 人工妊娠中絶後、産褥期などでのOCの服用

妊娠初期の流産、あるいは、人工妊娠中絶後の避妊希望者には、早期(流産後7日以内)からOCを使用する。分娩、又は妊娠中期流・早産直後のOC使用は血栓症のリスクを高めるので、産褥3〜4週間は使用を避ける。また、授乳中のOC使用は母乳中へ移行することが報告されているので避け、他の避妊法をすすめるなど適切な指導をするべきである。

 (2) 副作用

  a 重篤な副作用

2.OCの有効性及び安全性(2)副作用」の項を参照。

  b 初期にみられる副作用 

OC服用開始後3周期までは不正性器出血(破綻出血、点状出血)、吐き気、乳房痛、乳房緊満などの副作用が比較的多くみられるが、その後は消失することが多いことを説明する。
   1) 不正性器出血
OC服用時の不正性器出血はしばしばみられ、特に初めて服用する場合や,、中高用量OCから低用量OCに切り替える場合などに多いが、のみ続けると次第に減少する。出血はOCを中止する最も多い原因であり、出血の原因として最も多いのはのみ忘れであり、服用開始前に十分説明することが重要である。不正性器出血が長期間持続する場合は、細胞診(子宮頚部、子宮内膜)、必要ならば組織診などで、悪性疾患によるものでないことを確認する。
   2) 消退出血が発来しない場合
OC服用中には、OCのエストロゲン活性が低いことにより消退出血が発来しないことがしばしばみられる。また、長期間のOC服用継続後では子宮内膜の萎縮によっても起こる。一方、OC服用初期に見られる不正性器出血に関連して消退出血が発来しないこともある。消退出血が発来しない場合でも、7日間の休薬期間あるいはプラセボ錠服用後には、次周期のOC服用を開始させる。消退出血を待ってからのOC再開では妊娠する危険性が高い。なお、服用者の年齢によっては更年期になっている場合などに注意する。

 (3) 妊娠への注意

消退出血が2周期連続して発来しない場合、OC服用継続に先立ち、妊娠の有無を確認する。妊娠している場合は、投与を中止する。

 (4) 服用中の定期検査について

OC服用による副作用の出現をチェックするため、定期的に問診と検査を行う必要がある。その際には、OCの副作用を念頭においた計画的な定期検査が望ましい。
服用開始後早期に副作用の発生を知るために十分な問診と、保健指導、必要に応じ、内診を含めた身体的診察を施行すべきである。服用中の臨床検査は検査項目に応じて、6カ月〜1年毎に実施することを説明し、理解を得る必要がある。また、耐糖能異常のある人では定期的に血糖値等の検査が必要である。産科婦人科的検査及びSTD検査は、服用後6ヶ月毎が望ましいが、間隔は、問診等による症状や個人の性行動に応じて、個別に医師が必要性を判断する。

 (5) 処方の間隔・期間

OC服用開始直後の1〜3ヶ月はマイナー・トラブルをはじめとして比較的副作用の多い時期であり、またOC服用が習慣となってのみ忘れがなくなるまで服用状況を観察することが必要である。
OC使用開始1年間ののみ忘れを含めた一般的な使用では年間約5%の妊娠が認められるので注意が必要であり、またOC服用の副作用を早期に発見して重篤な合併症を予防するためにも、初回の処方は1ヶ月分、次回は2ヶ月分、それ以降は3カ月毎とすることが望ましい。

 (6) 服用者への情報の徹底

服用前に、これまでの処方に関する説明に対する理解を確認することは重要である。その意味で服用者向け情報提供資料が用意されている。
 
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