日産婦医会報(平成23年11月号)

ドクターカー、ヘリコプター、ドクタートレインを用いた
鹿児島県の周産期救急搬送システムと今後の展開

鹿児島市立病院総合周産期母子医療センター新生児科 平川 英司、茨 聡

[鹿児島県の現状]

 本県は九州最南端に位置し、種子島、屋久島、トカラ列島、奄美大島 などの離島を有し、南北600km、総面積9,188km2( 全国10位)、総人口170万人、離島人口19万人(全国1位)である。 出生数は約15,000名、NICU への入院を必要とする新生児は1,00 0名おり、そのうち約200名が新生児搬送されている。NICU 併設病院が 3つあり、鹿児島市内に集中している。唯一の総合周産期母子医療センター である当院が、新生児搬送も中心となって行っている。
 平成13年の新生児専用ドクターカー導入により、往復2時間以内の地域 では新生児死亡率が改善してきている。一方で、往復2時間以上かかる地域 や離島の新生児死亡率は依然として全国平均を上回っている。平成21年10 月より、ドクターヘリ(平成23年11月導入予定)が導入されるまでの間、 往復2時間以上の地域については暫定処置として県防災ヘリコプターによる本 土内ヘリコプター搬送が開始された。また、これまでにも種子島、屋久島、ト カラ列島、奄美大島など有人離島と県防災ヘリコプターや自衛隊ヘリコプター を用いた離島本土間の新生児搬送も行ってきた。また、超低出生体重児などが 離島で出生した場合にはPE MAT(Perinatal Emergency Medical Assistant Tea m)を派遣し、現地で初期治療を行い、状態が落ち着いてから当院に搬送するな どの方法を行っている。
 平成23年3月には九州新幹線の全線開通に伴い、九州新幹線を用いた新 生児搬送の実績もある。特に北薩エリアは新幹線の停車駅もあり、ドクターカ ーに比べ新幹線では半分以下の時間で到着することができ、ヘリコプターの運 用できない天候不良時や日没以後などでの運用、さらには県外への安全で迅速 な搬送手段としても期待されている。

[新生児搬送システム]

 新生児搬送依頼があれば、昼夜問わず新生児科医師2名と看護師1名がドク ターカーで出動する体制を取っている。平成22年3月には2代目のドクター カーが導入され、NICU と同等の設備を有している。車内前方にはV-808 Transcapsule(ATOM 社製)を配置し、人工呼吸器はBabylog 8000plus(Drager 社製)、モニターはinteliview X2(Philips 社製)をベースにし、搬 送中の新生児の状態を車内全員で共有できるよう大画面のマルチモニターも備 えている。後方にはストレッチャーも搭載しており、母体搬送またはヘリ搬送 専用のV―707Transcapsule(ATOM 社製)を母体搬送用ストレッチャーの上 に搭載し搬送することができる。超早産児など新生児搬送よりも母体搬送が好 ましいが分娩直前で車内分娩を想定せざるを得ない症例があり、このような場 合はダブルセットアップして母体搬送をドクターカーで行う。

[ヘリコプター搬送による時間短縮効果]

 遠方では4時間かかっていた搬送が1時間強短縮された。平成23年12月 には新生児搬送用ドクターヘリが当院に導入され、一層の時間短縮が期待できる。

[新幹線を用いた搬送(ドクタートレイン)]

 当院と熊本市医師会から新幹線を用いて新生児搬送する構想をJR 九州に提案したところ、 JR 九州の協力が得られ、新幹線の多目的室には医療機器を接続できる電源が設置された。 これにより新幹線の沿線については新幹線の多目的室を利用した搬送も行っている。ヘリ コプター搬送の行えない日没以後、天候不良や道路が通行止めになっている場合や県外へ の搬送を想定している。実例としては大雪で県内の交通網が遮断されたが、新幹線を用い て速やかに現地入りし蘇生し得た症例や、気管軟化症に対する外ステント術目的に東京へ の搬送を行った症例がある。これまで東京への搬送は飛行機で行われていたが、本症例で は呼吸状態が悪く飛行機搬送によるリスクが高いと判断され、新幹線で6時間かけて搬送 を行った。ダイヤという制限はあるが、飛行機に比べ医療機器の持ち込みや電源の確保な どを行うことができ、JR との協力でスムーズに搬送は行われている。緊急時には担当窓口 に電話をするだけで座席の確保および駅構内の移動などをJR 側が手配して頂ける関係にな ってきている。