日産婦医会報(平成23年4月号)

大分県ペリネタルビジット事業から

日産婦医会医療対策委員会委員 岩永成晃

はじめに

 大分県では、「大分県ペリネイタルビジット事業」として、県産婦人科医会・県小児科医会・県医師会・県市町村の保健師が協力して、妊娠時から出産後までの子育て支援に取り組んでいる。母子にとって出産・育児は一つの流れであって、産科と小児科が連携し母子を主体にした支援体 制を整えていけるように努力することが肝要であり、そこに行政の子育て支援サービスと密に連携し、地域にとって有効な子育て支援を実施しようというものである。

大分県ペリネイタルビジット事業の概要

 大分県では、平成13年から「大分県ペリネイタルビジッ ト事業」に取り組み、試行錯誤を重ねながらも、現在では小児科と産科のみではなく、地域の行政の保健師や精神科医さらに児童相談所までが連携して、妊娠中からの妊婦の支援と子育て支援にあたれるようになってきた。その結果、県下のほぼ全域において、妊娠中からの母親のフォローと産後の子育て不安の軽減、さらに産後うつ・虐待などのハイリスク例の支援にも効果がみられている。

1.産科から小児科への紹介

 妊娠28週から産後56日までのすべての母親を対象に、希望者を産科施設から小児科医へ紹介することでこの事業がスタートする。産科では、子育ての不安を軽減するために、 また生まれてくる子の主治医を早く確保しておくためにも、小児科医と知り合いになっておくことの大切さ、小児 科医の指導で安心感を得られること、さらに産科と小児科 および行政の保健師が連携して母子を支援する体制を作っていくことを説明して、産科からの紹介状を持たせて出産前や出産後早期のペリネイタルビジットを勧める。

2.小児科での指導

 小児科での指導の基本的な目的は、小児科医と母親が信頼関係を築くこと、家族から種々の情報を取得すること、 育児に関する情報や助言を提供すること、ハイリスクであれば後のサポートシステムにつなげること等である。指導に当たっては、産科での指導内容との相違による混乱を招 かないように産科医の意見も取り入れ統一を図っている。
 小児科医の指導によって、多くの育児不安のない母親にとっては、安心感を与え育児不安を事前に予防することができる。また、育児に少し問題のある母親にとっても、小児科指導で問題の軽減や解消ができ、産後の見守りにもつながっている。

3.ペリネイタルビジット専門部会

 毎月1回大分県医師会館にて開催され、各市町村から検討を要請された事例を協議し、支援の方向性を検討する。 専門部会の参加者は、小児科医会および産婦人科医会と各市町村の担当保健師、大分県健康対策課および県の担当保健師、さらに事例に関連する小児科医や産科医および助産師らが参加するが、その他に精神病院協会からの担当精神科医、児童相談所の担当者の参加もあり、幅広い検討を行 うことができる。産後うつ等の精神疾患の事例、虐待の事例等、多岐にわたる。保健師の訪問指導につながった事例は毎年100例を超える。
 対応が急がれるハイリスク例については、専門部会開催以前に、産科施設や小児科が行政の保健師と直接連絡をと りあって迅速に支援を行う体制も作れるようになってきた。

ペリネイタルビジットの意義

  1. 多くの妊産婦への育児支援と「育児不安の予防」がで きる。

  2. 育児のハイリスク者に対しても、早期からの発見、見守りのセーフティーネットのひとつとなり支援につなげる機能を果たす。

  3. 「周産期からの育児支援」を軸 に、産婦人科・小児科・行政の連携の育児支援システムを育むことが可能である。

  4. ペリネイタルビジット事業の流れの中で、ハイリスク症例への早期の取り組みが行われ、 ペリネイタルビジット専門部会の取り組みの中で、虐待防止対策としての効果が形成されていくことが期待される。

 このような有効なシステムが、大分県のみでなく、全国に広がることを期待している。