日産婦医会報(平成22年5月号)

インターネットを周産期医療情報ネットワークシステム
 − 岩手県周産期医療情報ネットワークシステム“いーはとーぶ” −の紹介

医療対策委員会委員 小笠原敏浩

 

はじめに

  岩手県は面積が広く、山岳地形で北国気候のため交通ア クセスが非常に悪く、また分娩取り扱い医療機関の減少に より、妊婦が通う周産期医療機関までは、はるか遠く自家 用車で1時間〜2時間を要することもある。
 岩手県のような地域では、病院、診療所、市町村、県が IT 技術を活用した妊婦情報および胎児情報を共有・連携 することが非常に有効である。
 現在、岩手県ではインターネットを利用した周産期医療 情報ネットワークシステム“いーはとーぶ”を構築してい る。構築中のネットワークシステムは総務省のU―japan 大賞を受賞した。そこでその新しい情報ネットワークシス テムについて解説する。

インターネットを利用したシステムのメリット

 岩手県の周産期医療情報ネットワークシステムは、イン ターネットでネットワークを構築しているので、パソコン とインターネット接続環境があれば県内(全国)どこでも システムにアクセスが可能である。病院、診療所はもちろ ん、市町村、救急隊、助産院、妊婦自身も必要な情報にい つでもアクセスすることができる。また、救急車やヘリコ プターなど緊急搬送中の移動体からも情報共有が可能であ り、緊急時の迅速な情報伝達にも有効である。さらに、市 町村と妊婦健診情報を共有することで、リアルタイムに情 報交換ができ、産前産後の必要時にスピーディな支援、相 談、訪問が実現できるため、医療機関と市町村がリアルタ イムに情報共有することは効果的である。
 ネットワークのセキュリティの確保は、VPN サービス を使用したプライベートネットワークにて実現されてお り、平成22年1月22日のIT 戦略本部医療評価委員会でも、 インターネットを利用した情報ネットワークシステムへの 接続を推奨している。

岩手県周産期医療情報ネットワークシステム“いーはとー ぶ”に期待される効果

 ハイリスク妊婦・新生児の紹介・搬送では、紹介先の医 療機関は既に入力してある妊婦情報・健診情報を閲覧する ことができ、妊婦が到着する前に詳細な情報を得ることが できる。さらに、紹介元の医療機関では、紹介・搬送した 妊婦・新生児の高次医療機関での治療経過・転帰をパソコ ン画面で閲覧することができる。また、里帰り出産妊婦に 関する情報を、登録している医療機関同士であれば、妊婦 が病院を受診する前に妊婦健診の経過を閲覧することがで きる。
 市町村との連携では、市町村と医療機関で情報共有がで きるので、妊婦健診未受診妊婦の把握ができ、市町村が迅 速に対応することができる。健診情報や検査データもリア ルタイムで共有できるので、異常経過の妊婦や家庭内の問 題が生じている妊婦の情報も市町村に迅速に伝達され、市 町村では早期に訪問指導が可能になる。
 また、産後メンタルヘルスケアにも貢献でき、産後うつ 病や育児不安の情報が市町村へリアルタイムに送信される ので市町村でも早期に対応ができる。双方向での情報の書 き込みが可能なので連続したケアを提供できる。

最終目標はメガホスピタルと妊婦見守りネットワーク

 現在、登録医療施設は38施設(分娩取り扱い施設40施設 の95%)で、登録市町村17市町村(34市町村の50%)であ る。ほぼ、県内の分娩取り扱い医療機関の登録が済んでい るので、岩手県の分娩取り扱い医療機関をオンラインで繋 ぐ巨大なデータベース(メガホスピタル)が構築され、対 象となる(紹介された)妊婦の健診・診療情報が県内のど の分娩取り扱い医療機関でも閲覧することができ、ハイリ スク妊婦の紹介・緊急搬送や里帰りに利用できる。また、 データベースから岩手県の周産期統計情報を容易に出力す ることができ、各種提出書類・帳票の作成・出力、学会発 表用の統計が容易になる。今後は、市町村の登録を増やし、 全市町村が登録すれば県内の分娩取り扱い医療機関と市町 村で妊婦の情報を共有でき、妊婦見守りネットワークが構 築される日は間近である。市町村との情報共有で妊婦の不 安の減少、サービスの向上につながると考えている。
 (なお、本システムは妊婦と同意書を交わして行ってい ることは言うまでもない)