日産婦医会報(平成22年1月号)

過去5年間の神奈川県内の産科医療機関における分娩取扱い実態調査より分かったこと

医療対策委員会統括委員長(神奈川県産科婦人会会医療対策部) 小関 聡


はじめに

 神奈川県産科婦人科医会は、平成17年より毎年県内の分娩取扱いの現状と将来計画を調査し、これをもとに将来の分娩取扱い可能数、分娩に従事する産科医師数の具体的予測値を算出して、行政やマスコミに働きかけてきた。平成21年迄の過去5回の調査結果の詳細は其々の報告書に譲るが、本稿では一連の調査から分かったことを述べたい。

調査方法と結果

 県内の分娩を取扱うすべての医療機関を対象に、平成17年より毎年1回(初回は平成14年迄遡って調査)、各施設が前年に取扱った分娩数、および調査時点で分娩に従事している医師数を調査した。同時に今後の分娩取扱い予定を「今後5年以内に中止」、「5年〜10年で中止」、「10年以上継続」のいずれであるかを尋ね、その回答をもとに県内および各地域の総分娩数から当該施設の前年取扱い実績分を差し引き、調査年末、5年後、10年後の取扱い可能分娩数と産科医数の予測値を算出した。

  H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H26 H31
届け出
出生数
82,685 81,271 81,067 77,579 80,256 80,674 80,276 78,640*    
取扱い
分娩数
70,262 69,835 69,862 67,319 68,470 68,002 67,839 67,514 65,301 62,116
出生数と
分娩数の差
△12,423 △11,436 △11,205 △10,260 △11,786 △12,672 △12,437      
産科医数 515 514 504 489 475 440 455 454** 435 418
一人当たり
取扱数
136.4 135.9 138.6 137.7 144.1 154.6 149.1 148.7 --- ---

* 上半期からの推定値 ** 平成21年2月の確定数

考察

  1. 平成20年と調査開始の14年を比較すると、分娩取扱い数が2,423件の減少、出生数が2,409人減少とほぼ同数減少した。しかしながら分娩に従事する医師数も(表中産科医数)減少したため、医師一人当たりの負荷が増加した。

  2. 毎年1〜1.2万人(件)出生数の方が多い。多胎分娩、助産所分娩、自宅分娩などを考慮しても年間約9千から1万人が、他県に里帰り分娩している。この数字は神奈川県に里帰りして分娩する妊婦を差し引いた分であるため、実際にはさらに多くの妊婦が他県に依存している。

  3. 平成20年の取扱い実績と平成26年、31年の取扱い可能数を比較すると、それぞれ2,538件、5,723件減少になる。

 分娩に従事する医師数がこのままのペースで減少すると、さらに深刻な状況が危惧される。

行政はどこまで予測していたか

 出生数の将来予測はどれくらいか。行政に問い合わせたが、独自の資料はなかった。人口問題研究所平成18年発表の全国出生数予測によれば、平成19年102.2万人、20年98.7万人、26年85.2万人、31年78.4万人である。しかしこの推測値は、発表前5年間の出生激減期を基準に算出されており、平成19年は109.0万人、20年109.1万人の出生が全国であったことより、全国レベルでも神奈川でも、出生予測数は少なめに見積もられた可能性がある。

行政の反応と対応

 神奈川県と横浜市は、遅まきながら平成20年より本会と同じ調査を開始した。これで本会の調査は必要なくなると考えた。しかし平成21年4月の調査では、分娩を取扱う医療機関が明らかに減少しているのに、平成21年末の予測値は分娩取扱い予定数が増えているなど、疑問点が多い。

マスコミの反応

 マスコミ等の取材は初回調査発表後の3年半の間に新聞社7社12部局、テレビ局5社6部局、番組制作下請け会社2社、出版社4社7冊、政党2党、ミニコミ誌3部、その他学生研究3(卒論、文化祭テーマ、高校生課題研究)、その他2社(団体)であった。全26社(団体)、延べ37部局(冊)、面会回数50回以上に及んだ。十分な反響があったと考えたい。しかしながら、平成20年秋の経済ショック以後の取材数はわずか3団体であった。

まとめ

 行政が調査を開始した場合、他の機関が同様の調査を行ってもその結果は認めない傾向があり、かえって障害になる。今後も独自の調査を継続しなくてはならない。これは、他の調査にも共通する。
 マスコミの反応から判断すると、産婦人科への追い風は吹いてはいるが、相当弱まっていると考える。今後の対応はそのことを十分わきまえて、対処すべきである。