日産婦医会報(平成21年8月号)

秋田県における妊婦の新型インフルエンザの取り扱い

日本産婦人科医会秋田県支部常任理事 並木 龍一


はじめに

  妊婦が新型インフルエンザのハイリスク群であることは周知の事実である。現在のH1N1 型新型インフルエンザは一部の地域の流行にとどまり、今も発症者は見られるが少数であり、全国的な大流行には至っていない。しかし、これから季節を迎えるにあたり、全国的な大流行が懸念されている。また、強毒化するという可能性も否定できない。そこで新型インフルエンザの国内発生を機に秋田県支部では、妊婦の新型インフルエンザ取り扱いマニュアルを作成した。

秋田県の医療提供体制

 厚生労働省の4月の段階での通達では、産科の場合、構造、人員上、対応可能な感染症指定産科医療機関をあらかじめ指定し、当該医療機関が優先して受け入れるとしていた。しかし、感染症指定医療機関だけでは直に対応に限界を来すことは、今回の例をとっても明らかである。そこで当支部では、発熱外来および産科を有する一般医療機関(病院)をすべて新型インフルエンザ指定医療機関として対応することにした。ただし、秋田大学医学部附属病院は、パンデミック時において新型インフルエンザ以外の重症患者に医療を提供する施設と位置付け、指定医療機関にはなっていない。

感染拡大期における対策

  1. 産科的訴えのない場合:基本的に一般の患者と同様に取り扱う。すなわち、診療所では発熱相談センターに電話相談するよう指示し、病院では発熱外来を受診させる。決して産科の通常外来では診察しないようにする。発熱外来より妊婦であることで相談を受けた場合には、産科医は診察しないようにし、新型インフルエンザの診断が確定したら抗インフルエンザ薬の投与を勧める日本産婦人科医会の勧告があることを説明し処方してもらう。授乳婦も同様に処方してもらい、必ずしも授乳を禁ずる必要がないことを説明してもらう。入院が必要な場合には、それぞれの病院の取り決めに従って入院させる。

  2. 産科的訴えがある場合:腹緊、性器出血等の産科的訴えを有する妊婦で新型インフルエンザを疑う場合、診療所では診察せず、指定病院を受診させる。指定病院では産科的症状に余裕がある場合は発熱外来で診察し、新型インフルエンザが否定されれば産科外来で診察をする。新型インフルエンザが疑わしい場合は、新型インフルエンザ妊婦の分娩を取り扱う分娩室で診察し、入院が必要な場合には取り決めに従い入院させる。
    分娩の場合は、上記分娩室で分娩としそのまま専用個室に入院させ、続いて新型インフルエンザの精密検査を行う。帝王切開が必要な場合は取り決めに従い手術室で行う。

  3. 診療所の妊婦の指定病院への振り分け:無床診療所に通院中の妊婦は、分娩予定の病院の発熱外来を受診させる。有床診療所の場合は、最寄りの指定病院があらかじめ決められており、その各指定病院を受診させる。

  4. 分娩前から授乳期の具体的な取り扱い:米国CDC のガイドラインを参考とする。

  5. 母体搬送:産科救急で搬送が必要な新型インフルエンザ感染妊婦は、総合周産期母子医療センターのある秋田赤十字病院が、新型インフルエンザ感染以外の母体搬送は秋田大学医学部附属病院が必ず受け入れる。

まん延期以降における対策

 この段階になると指定病院において新型インフルエンザ専用の分娩室、個室の確保が困難になる事態も考えられる。その場合、指定病院以外での診療所における診察、有床診療所での分娩も考慮しなければならない。

おわりに

 当支部における、妊婦の新型インフルエンザ取り扱いマニュアルの特徴は、指定病院の振り分けが決められていることにあると思われる。特に緊急を要する母体搬送も指定病院が決められている。6月19日に厚生労働省から出された運用指針では、原則すべての一般医療機関で患者の診療を行うと見直されたが、その中でも産科は除外されている。したがって原稿締切の7月17日時点ではこのマニュアルに変化はない。問題はまん延期以降の、診療所での診察、有床診療所での分娩である。これには現実に起こり得ることを想定し、医療従事者、妊婦への新型インフルエンザワクチン接種の周知、防御服等の準備などを考慮しなければならない。
 最後に、日産婦医会ではインフルエンザ(新型を含む)発症妊産婦に対する分娩施設の管理指針を策定中であることを付記致します。