日産婦医会報(平成21年5月号)

産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編の作成について

日本産婦人科医会医療対策・有床診療所検討委員会


はじめに

 平成20年4月日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は合同で産科ガイドラインを作成した。各論細部に関しては議論の余地があり、それも含めて次の改訂に向け作業が始まっているが、実際の臨床の場では、標準的な診療基準として既に応用されはじめている。一方、平成21年4月から妊婦健診補助額が増額されたが、厚労省はその金額の決定に際してこのガイドラインに示された検査項目を参考に算出したとされている。ガイドラインが多方面に有用であることが示されている。平成20年11月、引き続き両会共同で婦人科外来編の作成に入ったので紹介する。

ガイドライン作成の目的

  1. 標準的診断、治療の確認
    現状の医療は大学病院等最先端の施設でなされるものもあれば、診療所で一人の医師がこなしているものもある。診療所でも実行可能、または対応可能であることを大原則とし、広く一般的に通用する診療内容とは何かを確認する。

  2. 医療安全の確保
    標準的な診療を示すことで、医療安全を確保する。

  3. 人的、経済的負担の軽減
    ガイドラインに準拠した合理的な医療を行うことにより、過剰な人的負担や、経済的損失を防ぐ

  4. 医療従事者、患者の相互理解の助長

 以上を考慮し、Q&A方式で書かれ、Answer では推奨レベルが示される。推奨レベルの基準は産科ガイドラインと同じである。詳細は産科ガイドラインを参照されたい。
 ガイドラインは現状是認で留まってはならない。逆に発刊の時点で書かれたことをすべて実行していなければならないのではない。将来はこうあるべき、こうなることが望ましいということも含みにおいて掲載される。
 また海外では認められていても、日本での臨床適応が未承認であったり、あるいは保険適応がなく、使用を断念せざるを得ない検査法や薬剤がある。診療上やむを得ないと判断し、患者の十分な同意が得られれば使用することもできるよう、解説文にはそのような検査法や薬剤も紹介する。決して未承認薬のみだりな使用を推奨したり、混合診療をせよと勧めているのではなく、臨床適応、保険適応の地位を得ることにガイドラインがその後押しの力になることも期待するのである。

ガイドラインの完成に至るまで

  1. 学会と医会から作成委員を選出する。委員には大学教授もいれば、開業医もいる。分娩を取り扱う診療所の医師もいれば、扱わない医師もいる。

  2. 分担を決め一人当たり2〜3題を担当。それぞれのQ&Aを執筆する。記述にあたっては参考文献を挙げる。日本における当該分野のエキスパートの意見も取り入れ、推奨レベルも考案する。

  3. 作成委員全体で討議。

  4. ガイドライン評価委員を選出し、評価委員会を開催する。

  5. ここで初めてパブリックコメントを求めるための学会誌に掲載する原案が示される。

  6. 数回のコンセンサスミーティングを経て両会の承認を受けて発行される。

産科ガイドラインとの違い

 医学の進歩や社会情勢の変化に応じた標準的診療基準を求めることは産科ガイドラインと変わりない。しかし、刻一刻と状況が変化し、いつ何時正常が異常に変わるかもしれない産科領域では「でなければならない」という性格が強いのに対し、婦人科領域では以下の点で異なる。

  1. 施設、地域、医師の専門分野・年齢等の条件がきわめて多岐にわたり、過疎地や離島などで非常勤医師によって行われているものもある。

  2. 昨今の分娩事情の悪化が社会的に認められ、産科領域とりわけ救急領域においては保険点数や諸手当面で比較的優遇されつつあるものの、婦人科領域は他科と同じく厳しい状況にある。

作成上の基本

 以上述べたように産科とは状況が異なることを認識し、「このような診断、治療もある」といった幅のある、医師の裁量権をより広く認め、かつ医業面も考慮したものが望ましいと考えられる。

(文責 小関 聡)