日産婦医会報(平成19年11月)

助産師養成所設立への取り組み(群馬県高崎市)

医療対策・有床診療所検討委員会副委員長
高崎市医師会理事
 角田 隆


はじめに

 日本医師会の働きかけにより、既存の看護師養成所に助産師養成所の併設が可能となったことを受けて、高崎市医師会では助産師養成事業に参画することとなった。 群馬県における分娩数および助産師の充足状況 平成17年の県内の施設分娩数は17,897件で、この内、 69.7%が民間医療機関で行われている。これに対し民間医療機関の常勤助産師数は、公的病院の1/3であった。助産師は全県下で445人が不足しており、民間医療機関での不足(254人の不足)が顕著であった。平成17・18年度の2年間で県内の医療機関に就職した新卒助産師42人中、民 間医療機関への就職は2人のみであった。県内では年間20 名程度の助産師を養成しているが、現在の養成基盤では民 間医療機関の助産師不足解消は不可能との結論に達した。

助産師養成所の開設に向けて

1.専任教員の確保

 入学定員20人とすると専任教員は教務主任を含め3人が 必要となる。下記の資格を有する専任教員の採用を短期間で行う事は困難と考え、日本助産師会に紹介を依頼した。

  1. 助産師として5年以上業務したもの
  2. 専任教員として必要な研修を終了したもの
  3. 教務主任は、専任教員の経験3年以上を有するか厚労省看護研修研究センターの幹部看護養成課程修了者

2.資金問題

 当初、総事業費に5,000万円程度見込んでいたが、開設準備資金に4,000万円、開設後の事業費が6,000万円と、当 初の予測を大きく上回った。これは、開設前より申請書作 成に専任事務員、専任教員が必要となったこと、実習施設の分散により5人の専任教員を雇用しなければならなかったためである。収入を学生の納付金3,600万円、国・県よりの補助金約1,000万円、高崎市よりの補助金500万円、県・郡市医師会よりの支援金300万としても、約500万円を高崎 市医師会が負担することとなる。

3.施設基準

 当医師会立の看護師養成所は施設に十分なゆとりがあったことより、ほとんど改修することなく利用可能であった。

4.実習施設の確保

 高崎市では分娩の約98%が民間医療機関で行われてお り、症例の多い4つの民間施設で行うこととなった。助産所実習は県内に適当な施設がなく、他県での実習となった。

5.助産師養成所の概要

  1. 開設予定平成20年4月1日
  2. 定員20名昼間定時制1年課程
  3. 授業時間1050時間(実習を含む)
  4. 納付金180万円

6.会員の理解を得るために

  1. 会員への負担をいかに軽減するか
  2. 卒業後、地域への定着率をいかに向上させるか
  3. 選抜方法をいかにするか
  4. 助産師養成による地域周産期医療への貢献度をいかにアピールするか

 現在、県単独事業として県よりの補助金増額を交渉中であるが、開設準備資金、開設後の事業費の不足分は会員が 負担することとなり、十分理解を求める必要がある。卒業後地域の定着率向上には、入学者の選抜方法が重要である。 所属医療機関よりの推薦枠を設定し、推薦状の提出を義務 付けることで所属医療機関との関係を強固にする。地域の周産期医療を担うことの重要性と義務感を助産教育の中で十分浸透させる。群馬県では民間医療機関と公的病院の役割分担は保たれているが、助産師不足が持続すると、分娩を取り扱う民間医療機関は減少し周産期医療の崩壊につながる。この結果、地域医療に大きな混乱を招き、市民生活に大きな不安と混乱を招くことが推察される。これらのこ とを会員に十分説明し、理解を求めることが重要である。

おわりに

 当医師会では周産期医療の崩壊をくい止めるモデル事業の1つとして助産師の養成を推進するつもりである。