日産婦医会報(平成19年07月)

茨城県における周産期医療危機的状況と地域医療ネットワーク
〜一次医療機関の立場から〜

茨城県副支部長 船橋 宏幸


茨城県医療体制図(H18.4) 図をクリックするとPDFが開きます。

はじめに

 われわれ一次医療機関開業医は各地域で産婦人科医の使命感とボランティア精神に支えられながら、わが身を削って働き、妊婦さんに安全なお産の場を提供してきた。しかし、現在、安全、安心を担保とする施設・医療スタッフが減少傾向にあり、周産期医療崩壊の危機に直面している。

 茨城県では、出生数は平成7年(27,517)から平成16年(26,751)の10年間に2.8%減少したのに対して、分娩機関は、97から76と22%減少し、全国の減少率をはるかに上回っている

  1. 産婦人科開業医の平均年齢は64歳を超え、後継者が他科に進むことも多い。
  2. 平成14年、16年の2回にわたる看護課長通知により、助産師が十分に確保されていない医療機関の分娩からの撤退。
  3. この10年間に新規開業の産婦人科診療所は4医療機関あるも、分娩を扱う機関は1軒である。
  4. 卒後臨床研修の実施による大学関連病院からの産科医師の撤退の結果、分娩を取り扱う病院が減少している。(平成7年における県内の分娩を取り扱う病院数は37であったが平成16年には32となり、平成17年に4軒、平成18年には2軒の病院が産科から撤退している。)

〈県央・県北ブロック〉

 産科医療機関が激減消滅している東海村以北の県北地区は「陸の孤島」になりかねない。分娩医療機関は日立総合病院と開業医1軒の2施設のみであり、近隣の福島県の総合病院が分娩を取りやめたため、茨城県に妊婦が通院分娩している状況である。今直ぐにでも産婦人科医を全国募集しなければ「お産難民」から悲鳴があがるのは時間の問題である。地域中核病院としての日立総合病院に今以上の負担がかかることになり、茨城県総合周産期母子センターとして機能が発揮できるような対応が必要であろう。

〈県南・鹿行ブロック〉

 土浦協同、霞ヶ浦医療センター、筑波大、東京医大霞ヶ浦、筑波学園病院(県南北)があり、さらに南には、セントラル、龍ヶ崎済生会、取手協同の各病院がある。
 つくばエクスプレスなどの開通に伴い、今後さらに分娩が増加した場合の予想は難しい現状である。数名の有床診療所が健闘しているが、ここ数年後の状況は不確定である。新規有床開業はつくば市で1軒、後継者が継承予定の診療所は分娩再開の声も聞く。
 無床診療所医師がセンター病院などへの当直の参加も提案されているが、医局の異なる医師が当直することへの混乱、診療所−病院間連携関係への不安などが残る。また、セミオープン・オープンシステム等の検討は、各大学関連病院との、今後5〜10年先を見据えた地域ごとの対策を立てなければならない。

〈つくば・県西ブロック〉

 茨城県の西部に位置し、栃木・群馬・千葉・埼玉各県と隣接しており、診療圏は、単純な行政単位では解決できない広域性を持つ地域である。特に隣接する栃木県には2つの大学(自治医大・独協医大)があり、県を越えた母体搬送・病診連携が地域周産期医療の大きな支えになっている。平成18年4月から、茨城県地域周産期医療システムがスタートし、当ブロックの緊急母体搬送はまず筑波大学に連絡し、その指示を仰ぐことになった。しかし地域性・距離などの問題で、栃木の2大学に搬送されることもあり、まさに行政単位だけでは割り切れない周産期システムの問題点がある。

まとめ

 われわれ一次医療機関開業医は長い間地域に密着し世代を越えて診療に従事してきた。世界に誇れる保険診療とともに、自由にアクセスできる「かかりつけ医」としての産科開業医が安心して診療ができ、住民の視線に立って、地元で安心して分娩ができる環境づくりを急がなくてはならない。予想を超える産科医の減少、特に勤務医の減少により、一次産科診療所の重要性が再認識されるようになってきている。茨城県のように、医師の少ない県では、一次医療機関自らのレベルアップとともに診診連携の重要性を、地域、住民、行政へもアピールしていかなくてはならない。