日産婦医会報(平成16年7月)

診療所での電子カルテ導入の問題点と課題 - 私が電子カルテをやめた理由 -

神奈川県 こまくさ女性クリニック院長 石井 淳


【はじめに】

 最近になり開業以来6年間使用していた電子カルテからレセコン専用機に乗り換えをした。フリーズの多発によるストレスとサポート体制の貧弱さによる自前メンテナンスに限界を感じた故の撤退である。電子カルテは、機種の選定がとても大切であると実感している。まず、価格重視対メンテナンス重視の点で2つのグループに大別される。安価であってもサポートやメンテナンスが希薄なグループと、購入価格は高額であるがサポートも充実しているグループ。一見後者の方に安心感があるが、実はここにも落とし穴がある。

【使いにくい点】

 診療所で電子カルテを使用して使いにくい点を列記してみると、(1)完全ペーパーレス化は困難である。(2)所見の記載や記述には結構不便である。(3)通常はレセコンと連動しているが、レセコン操作が極めて煩雑である。

1.ペーパーレス化が困難である:産婦人科診療では、紹介状、承諾書、細胞診・組織診の検査結果資料、超音波画像などペーパー資料が非常に多く取り扱われる。これらを電子カルテに保存するには、スキャナーでイメージデータとして取り込む方法があるが、記録容量が多くなり過ぎ、個人データの中に取り込むことは労力を要する。取り込めてもスムーズにカルテは動かないことやスキャナー取り込み操作自体が結構手間が掛かることもある。手書き文書はOCR も不完全になり得る。検査データも細胞診や組織診は業界トップの検査会社でも対応していないことが多い。超音波画像も現在フルデジタル機種が出ているが、電子カルテへの取り込みはまだ問題が多いと思われる。

2.所見入力も手書きの方が早いしストレスが少なく感じる:所見記載についても、事前登録した所見項目を選択し、ワンクリックで入力可能ではあるが、所見のバリエーションが多く、すべての所見を事前登録することは慣れていないと日常診療ではストレスになる。ワープロ入力するにしても、ブラインドタッチでも時間が掛かる。外国語が混在する所見はなおさらである。

3.電子カルテ連動レセコンの脆弱性:電子カルテに連動しているレセコンシステムは、レセコン専用機に比較して問題点が多い。これは、カルテ修正に厳しい制御をかけているため、会計システムまで影響を受けていることによるらしい。実際の日常診療会計処理で行われている保険変更、自費診療、未納金・未収金、実診療日数2日分確保の手続きのための未来会計処理(翌日処理)が煩雑で凄まじい。また、複数の処理が重複したらお手上げである。慣れていない事務職員の悲鳴が聞こえてくる。

【理想的な電子カルテは】

 今後ペン入力ボードの高性能化や机上の紙資料が自動的にかつ簡便にイメージデータとして取り入れられ、そういった大量のデータが入っていてもスムーズに動くシステムが開発されない限り、普及は難しいであろう。会計処理部分の高性能化も必至である。

【おわりに】

 電子カルテシステムに備わったレセコンシステムを使用する場合は、前述したようなイレギュラーな会計をスムーズに行えるかどうかが重要なポイントになる。事前に十分この点について説明を受け、実際に処理操作をして検討することが必要である。気を付けないと患者さんを前にして20分30分も会計で待たせることになってしまう。今後、診療所での電子カルテの普及を考えると、データ入力作業の簡素化、処理能力の高速化、レセコンとの共有の合理化が不可欠であろう。さらには、データセンターと診療所でのデータの共有化と統合化が確立されることが前提条件となりうるであろう。以上に述べたことが改善されるなら再び電子カルテの導入を考えている。

【医療対策委員会より】

今回掲載の原稿は産婦人科診療所の現状を示しているものと思います。しかし、電子カルテを駆使されている先生が多数存在することも事実です。今後、委員会では電子カルテ活用を積極的に推進するとともに、電子カルテについて会員の先生方とさらに議論していきたいと考えております。