日産婦医会報(平成15年9月)

少子化と思春期保健
 ― 10代の人工妊娠中絶についてのアンケート調査より ―

医療対策委員会委員 幡 研一


◇ 少子化が止まらない

 先日発表された人口動態統計によると、平成14年の出生数は、前年より約17,000人減少し1,153,866人、合計特殊出生率も1.32人と、共に過去最低を記録した。これらは厚生労働省が昨年公表した2050年までの「将来推計人口」の予測値を2年連続で下回り、少子化が予想を超えるスピードで進んでいることを示している。

◇ 少子化の背景

 少子化の最大の原因は晩婚化と未婚率の上昇にあることは間違いない。昨年の女性の平均結婚年齢(初婚)は27.4歳、第1子を産む平均年齢は28.3歳で、前年より高齢化している。男女雇用機会均等法は、職場において性によって差別を受けないようにするのが目的であって、男女が仕事を競い合い出産を諦めることが目的ではないことを啓発すべきである。子供を持つことの幸せ、家庭の素晴らしさを、男性・女性双方に対して教育すべきと考える。

◇ 健やか親子21

 「健やか親子21」では、思春期保健対策の強化と健康教育の推進を挙げ、その中の具体的目標に、10代の人工妊娠中絶の減少と、10代の性感染症の減少が含まれている。近年、わが国における人工妊娠中絶件数は年々減少している一方で若年者、特に10代の総件数は増加の一途をたどっている。昭和50年までは全中絶件数の1%台だった10代の中絶が平成13年には13.6%と増加し、平成7年以降は10代の占める割合だけではなく、その件数も増加している(表)。

◇ アンケート調査

 医療対策委員会では昨年、10代で人工妊娠中絶を受けた女性にアンケート調査を行った(回答数626名)。概要は「医療と医業特集号」に報告したので、ここではその結果を踏まえ、少子化対策と思春期保健について検討する。

◇ 10代への思春期保健

10代の妊娠中絶女性は16歳以降急激に増加しており、同様のことは相手の男性についても言えた。このことから、性教育は、このような事態の起こる以前の年齢、すなわち少なくとも中学生になったら男子生徒・女子生徒双方に対して行われる必要があると思われる。避妊については、女性自らが積極的に避妊している人は殆どなく、男性任せである。避妊知識の入手方法は学校が最も多く、以下、雑誌・TV・友達からであるが、詳しく知りたいと答えた女性が56.7%もおり、従来の教育では不十分と考えられる。
 また、18.8%の女性が過去に人工妊娠中絶の既往があることを考えると、最初の中絶時にわれわれ産婦人科医がもっと十分な避妊教育をなすべきと考える。

◇少子化対策としての10代女性への出産・育児支援

 今回の調査で、産みたかったと答えた女性は16〜18歳で38.2%、19歳で41.8%おり、相当数の10代女性が産みたかったがやむを得ず人工妊娠中絶を選択している状況が明らかになった。中絶の理由としては、経済的理由が最も多いが、若すぎる・未婚のため・親の反対という理由も多かった。出産・育児に対する経済支援、未婚であっても産みたい女性には産めるような環境を整える体制や、シングルマザーに対しての社会全体の理解が必要である。晩婚化による高齢出産のリスクを考えれば、10代女性への出産・育児支援の方がより少子化対策として有効であると思われる。「こうであれば中絶しないで済んだ条件」のトップが、「学業と育児の両立」であることは注目すべきである。このことより考えると大学等における育児休学制度の制定や、学生を対象とした公的保育施設の設置など、学業と子育ての両立支援も必要である(医会ホームページに全文を掲載)。