日産婦医会報(平成14年10月)

共同経営による産婦人科診療(分娩を取り扱わない場合)

福島県西口クリニック婦人科 本多 静香


【はじめに】

 1995年4月、東北新幹線福島駅西口で婦人科クリニックを医局の2年後輩の女性医師と共同で開業した。開業を思い立ったのはさらに2年ほど遡るが、当初より自分の能力や生活環境を考え、複数者での診療を望んでいた。様々な条件で共同経営者を探していたところ、共に家庭があり時間的余裕がほしいという点で思惑が一致し、開業に至った。7年経った現在、共同開業のメリット・デメリットについて考えてみた。

【診療の形態】

 原則として時間割に従い、診療時間を分担している。看護師、事務員はそれぞれ3人で全員常勤である。月・土曜日は16時まで、火〜金曜日は19時まで診察している。

【医療を行う側のメリット・デメリット】

 二人で診療を分担するのであるから、時間的余裕ができるのは当然である。それは診療スペースやスタッフ数の問題よりも、自由な時間が得られることを重視したからである。各々週合計27時間診療に当たり、それ以外は日常生活の自由な時間として過ごすことができ、学会への参加も比較的容易である。また、どんなに忙しくても決められた時間がくれば相手に引き継ぐことができるため、心のゆとりができて、自分の持ち時間をフルに頑張ることができる。
 内膜掻爬術、人工妊娠中絶術、小手術も行うが、静脈麻酔などの際には必ず二人が立ち会っている。たとえ小さなトラブルのときでも、自分以外に医師がいるのは大変心強く、大事故に至るのを未然に防ぐことができる。
 時に一人では解決できない場合、治療方針に迷う場合に遭遇するが、相談できるのもメリットであろう。各人が学会等で得てきた知識を意見交換し、時に厳しく批判しあうのも良い刺激となって互いに成長できる。
 難点を挙げれば、全ての点で二人が一致するわけではなく、こだわり所も異なるため、微妙に方針がずれ、時に患者さんへの話が食い違ってしまうことである。このために丁寧にカルテを記載することに心がけているが、何よりもお互いの心をオープンにすることが重要である。

【受ける側にとってのメリット・デメリット】

 複数の医師の診察を受ける方が良いのか、特定の医師が良いかは、特に産婦人科診療を受ける側にとって、大きな問題であると思う。どの医師にかかろうと全く気にならない人、相性の合う医師を選ぶ人、二人の医師の診察内容や話を比較検討して、自分の受けている診療が適切であるかを判断しようとする人など、いろいろなタイプの患者さんがいる。自分の好みに応じてある程度選択可能という点では、医師が2〜3人いるのが適当ではないかと考える。双方の医師の診療内容に食い違いがあると患者さんは混乱し、新たな悩みの種となるので、話はよく聞き納得のいく対応が必要である。今のところ患者さんが一人の医師に片寄ることはなく、不都合は生じていないと考えている。

【経営するという点から】

 開業してみると、日常診療に加えていわゆる雑務が非常に多いのがよく分かった。レセプト、種々の届出書類作成、医療機器・薬剤管理、経営の把握、職員の教育指導、果ては飲み会の計画に至るまで、とても一人では対応できないと思う。二人の場合、そのような雑務は各々適材適所で自然と分担され、一人の負担を軽くできたのは非常に嬉しいことである。また職員との関係においても、我一人で対応するよりも客観的に判断でき、ストレスも溜まり難い。
 収入については当初より同等になるように努めてきたが、法人化し、筆者が理事長、共同経営者が院長となってからはすっきりした形となった。個人経営よりは収入は低いと思うが、私たちの場合はそれ以上のメリットがあると考えている。注意すべきは、共同の場合は責任感が希薄になる可能性があることである。一人ひとりが経営者であり、屋台骨を支えているという責任を自覚しなければならない。

【おわりに】

 医師とは、組織の一員であっても一人ひとりが独立しており、絶えずリーダーシップを取らなければならない存在である。そのような一匹狼的要素のある人間が共同経営を行うわけであるから、些細なことで崩壊する危険性があることを知らなければならない。
 医療上も日常生活上も最低限のモラルを持って診療、経営に望むことが一番重要であると感じている。メリットがデメリットに優ると考えられる人にとって、共同経営は今後の開業形態として、選択肢の1つに挙げられよう。