日産婦医会報(平成13年1月)

京都の少子化の現状と対策

医業医療対策委員会理事 細田 澄之


1.はじめに

 京都府の人口は、現在の横ばいから次第に減少に向かう傾向だと推定されている。特殊出生率も1.22と全国の1.34より大幅に低く、東京、北海道に次いでわが国で3番目という大変由々しい状況なのである。勿論、この傾向は京都だけの問題ではなく、周知のように国立人口問題研究所等の推計によれば、わが国の人口は2007年を境に減少し始め、2100年には半分になるとされている。
 ところで、今回は京都に限って言及させていただくことにして、この人口減少の原因は何かと私なりに大胆な推測をするとともに、自治体や京都産婦人科医会の少子化対策や今後の計画を紹介したい。

2.京都の現状と町起こし

 お隣の滋賀県との比較が大変参考になる。滋賀県はここ5年間の人口の伸び率も、出生率(平成6年1.57〜平成10年1.51)も全国トップクラスを続けている。その原因として、交通機関の発達により滋賀県が大阪や京都の通勤圏内になったことや、土地価格もまだ若い夫婦にも手の届く範囲内にあり、広い宅地に親との二世帯住宅を建てたり、実家の近くに家を持ち両親の助けを得ながら、子供を産み育てられる恵まれた環境にあることが挙げられる。
 翻って、京都市では土地価格はかなり下がったとはいえまだ高価で、若夫婦は安い土地を求めて郊外へと遠く離れ、中心部の空洞化が進んできている。市内では交通渋滞や駐車場不足に加え郊外型の量販店も少ない。また、古くからの京都特有の文化や風習が、若い人や他県の人に馴染みにくいことも一因かもしれない。ただ、ごく最近になって、不況で閉鎖になった織屋(伝統的織物工業従事者の住居)を若い夫婦たちに利用してもらおうと「京都の町屋」起こし運動が好評であるし、中心部にも景観保護を加味した高層マンションの建築が進み、“働きながら子育てしやすい社会環境”への回帰が期待できる状況に向かっている。

3.周産期医療体制の整備

 京都で大変問題となったことに府内の新生児死亡率の高さがあった。平成5年の周産期死亡率は、全国平均1,000人対5に対し、京都府は5.9で全国38位、京都市は6.2で指定都市中最低で、府、市共に危機感を持ち、京都府医師会と協力し、京都府周産期医療協議会が設置された。そして平成9年11月に京都第一赤十字病院に総合周産期母子医療センターが開設され、京都府の周産期医療体制が整備された。同時にドクターズカーによる搬送も可能となり、FAX・ネットワークによる周産期医療情報システム事業が確立された。
 その結果、2,000 以下の低出生体重児、胎盤機能不全、多胎妊娠などの搬送数が増加した。京都府下の基幹病院とサブセンター等の約20の拠点病院が連携協力しあって高度周産期医療の提供が可能となり、一般産科病院からの緊急搬送要請にも、オンライン化により小児科とも連携して高度の治療に当たっている。現在、その成果が表れ始め、周産期死亡率は改善されつつある。

4.今後の取り組み計画

 京都産婦人科医会としても、最大課題としてこの「少子化対策」に取り組み、理事会に「少子・高齢化対策部」を独立させ、専任理事を置き活動している。今後、少子化対策を推し進めるための調査活動の一環として府下の各自治体にアンケートをお願いし、現在回収中である。これについては本年1月の日母近畿ブロック協議会で報告予定であるが、その主な内容は、1)新エンゼルプラン、2)仕事と家庭の両立支援、3)母子保健、医療面での支援、4)日本労働組合連合会のアンケート調査結果に対する自治体の考え方、5)健やか親子21における産婦人科医の役割など、それぞれの項目について医会が自治体に対して意見を求めるものである。本項でも何らかの形で報告できれば幸いである。
 また医会では、人工妊娠中絶時のアンケート調査も実施しており、さらにチャイルドシート運動、仮称“M→C運動”(産後退院時に助産婦、看護婦が赤ちゃんをチャイルドシートまで送り届ける運動)の取り組みも検討中である。

5.おわりに

 21世紀は生命科学の世紀と言われるが、わが国ではまず少子・高齢化対策が重要な課題で国を挙げての対応が必要である。われわれ産婦人科医が、いかにして女性の望ましい結婚・妊娠と安全で快適な出産を保証し、安心して働きながら子育てのできる環境を作るかが重要となろう。