【HBs抗原陽性の患者さんのために(その2)】

 

 以前配付しましたパンフレットでB型肝炎の概略と母子感染防止の対策についておわかりいただけたと思いますが、さらに詳しい情報を必要としているあなたのためにもう少し細かく説明します。多少専門的な部分もでてきますが、不明な点は遠慮なく質問してください。

Q1.感染するとどうなる
 大人になってからの場合はまれに重篤な劇症肝炎になることがありますが、大部分 は一過性の感染ですみ抗体が産生され治癒します。問題となるのは赤ちゃんが産道を 通過する時(まれに妊娠中に子宮の中で)の母子感染と生後の感染のうち幼少時におこるものです。赤ちゃんは免疫力が弱くウイルスを排除するだけの抗体を産生できませんので、ウイルスを体内に取り込んだまま、キャリアーとなってしまいます。キャリアーとなっても暫くの間はウイルスと共存するため肝炎を発症せずに経過します(但し感染力はあります)。

Q2.キャリアーからの肝炎の発症
 大人になり免疫力が高まると、今までは共存していたウイルスを排除する現象がおきます。これが肝炎の発症です。ウイルスは、まれに完全に排除される場合もありますが、大部分はウイルスの遺伝子に変異が起こり姿かたちを変え、免疫機構を逃れた状態で再び共存し始めます。しかし再度の共存がうまくいかず、その後も肝炎が何年も続くと肝細胞の破壊が続き、肝硬変になったり、肝臓癌を合併することもあります。

Q3.血液検査とHBs抗原、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体、GOT,GPT
 B型肝炎のキャリアーの方は以上の言葉をよく耳にします。簡単に説明しますとHBs抗原陽性とは体内にウイルスがいる状態を示し、HBs抗体陽性とは以前実際にB型肝炎に罹ったことがあるか、ワクチンで免疫ができた状態であることを示しています。つまり“一度麻疹(はしか)に罹患すれば抗体ができて再度発病しない”という場合に使われる抗体と同じ意味を持つものです。HBe抗原陽性とはウイルスが強い感染力を持ち、HBe抗体陽性とは比較的感染力の弱い状態と考えてよいのですがその弱い状態であってもなぜか劇症肝炎を起こす場合もあることがわかってきました。
 またGOT、GPTとは肝細胞の中にある酵素で、肝細胞が壊されると血液中の濃 度が上昇し肝炎の程度をあらわすと言われていますが、これだけですべてを判断できません。

Q4.ワクチン接種の重要性とワクチン製剤
 以前はHBe抗体陽性の場合、感染力が弱く配偶者にはワクチンの接種は必要ないと言われていましたが、前述のように時に劇症肝炎を起こすこともあるので接種することをお勧めします。接種を受ける方は、実施前にHBs抗体を調べます。既にHBs抗体があれば接種の必要はありません。以前のHBワクチンは無毒化した病原体の一部を接種しましたが、最近は遺伝子工学的に作られた抗原を用いるため、他の病原体の混入の恐れのないより安全なものになりました。

Q5.B型肝炎ウイルス母子感染の予防の実際
 通常のHB肝炎ワクチンの接種を受けた人は自分自身の力で抗体を作り、その抗体が以後入ってきた本物の病原体を迎え撃つことになります。しかし抗体ができるまでには時間がかかります。母子感染の場合、出生と同時に感染の危険に晒されるため、それでは間に合いません。そのために通常のワクチンのほかに抗体そのものを多量に含んだHBs人免疫グロブリン(HBIG)を与えなければなりません。その投与方法は以前配付しましたパンフレットをもう一度ご覧ください。
 なお、赤ちゃんがすでに子宮内で感染していたり、HBIGを使っても感染を防げられないケースが約5%存在すると言われており、今後の課題とされています。

 

社団法人 日本産婦人科医会